ラグナロクとアルマゲドン
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月二日の深夜。祐徳稲荷神社のご本殿では、IS:Tの三柱と、この社を統べる稲荷大神三柱との謁見が続いていた。
「いえ、二十年もの時間をいただきながら、ご期待するほどの力を手に入れた気はしません。稲荷大神様三柱の御力を授かりしものとして、お恥ずかしい限りでございます」
紅は焦燥感を隠せず、深々と頭を下げた。自己評価の極端な低さは、二十年の修行を経てもなお変わっていない。
「ふふふふ……」
ウカノミタマは上品に、しかしどこか楽しげに笑い声を漏らした。
「ここまでくると、滑・稽ね♪」
「わが娘よ。今ここで、俺・と・差・し・で・本・気・で・戦・っ・て・み・る・か?」
父神であるサルタヒコが、豪快な笑い声を響かせながら提案した。
「い、いいえ……! 私は本来、戦神ではなく『伝承芸能』の神として……」
紅が慌てて辞退すると、サルタヒコはさらに声を大きくして笑う。
「まさか、自分の娘から、ここまでお・ち・ょ・く・ら・れ・る・とは思わなんだ」
「ここまでくると、親・子・喧・嘩・にもならないでしょうね」
オオミヤノメも、夫の言葉に頷きながら優雅に微笑んだ。
「娘よ。今、この時でもお前は『神気』を極・限・ま・で・抑・え・込・ん・で・るんだろう?」
サルタヒコの鋭い視線に、紅はたじろぎながら答えた。
「は、はい……。『神気』に頼ってはいけないと常日頃から心がけていますので……」
「本当・に・呆・れ・る」
サルタヒコは溜息混じりに笑った。
「この自分の娘の抑え込んでいる『神気』を全開にしたら、さぞ楽しいだろうな……! しかも、超が付くほど鈍・感というか、勘・違・いというか。ウカノミタマ殿の言われる通り、なんと自・己・評・価・の・低・い・娘になったものだ」
「あ、あなた……」
オオミヤノメが夫を窘めるように声をかけるが、サルタヒコの興奮は収まらない。
「俺が『神気』全開で本・気・を・出・し・て・も、これでも『神気』を極限まで抑え込んでると言っている自・分・の・娘に、コ・テ・ン・パ・ンだろうな!」
一頻り豪快に笑った後、彼は真剣な眼差しを紅に向けた。
「二十年で、想・像・以・上・に・強・く・な・っ・た・な……。俺は父親として、お前を自・慢・の・娘だと思う!」
「い、いいえ、戦神としてこの日本で名を轟かせたサルタヒコ様が、そんなご冗・談を言わないでください」
謙遜し続ける紅に対し、ウカノミタマが静かに口を開いた。
「冗・談ではないわよ。私がお姉様より厳しく、貴女を修行の旅に行かせるようにとお叱りを受けた時には、どれだけ嫌で嫌でたまらなかったか……。でも、お姉様の言う通りになった。そして、お姉様のおっしゃる通りに時は動いている……」
「神々の黄昏……ラ・グ・ナ・ロ・ク……」
白が呟いた不穏な言葉を、サルタヒコが肯定する。
「そうだ。ケルビム殿が言う通り、もう遠くない近い時期に起きる……しかも、この地で」
「何故、今、そしてこの地で『神々の黄昏』が起きるのでしょうか?」
紅は驚きの声を上げた。
「それはア・ス・ガ・ル・ズ・の・神・々・達・の・戦・いであると聞き及んでおります」
「『神々の黄昏』とはア・ス・ガ・ル・ズの伝説であって、ア・ス・ガ・ル・ズ・神・々・達・の・戦・い・で・は・な・いわ」
オオミヤノメの声に、先ほどまでの優雅さは消え、鋭い響きが宿った。
「人・間・た・ち・が・敬・う・神・々・と・そ・れ・以・外・の・者・た・ち・が・敬・う・神・々との戦い。――戦・争・よ!」
「戦・争……!」
その言葉の圧力に、それまで魂が抜けたようだった慶が、弾かれたように正気を取り戻した。
「あ、慶が動いたわ」
白が冷静に指摘する。
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったのね♪」
オオミヤノメの謝罪に、慶は顔を赤らめて「い、いいえ……大丈夫です……」と小さくなった。
「オ・オ・ミ・ヤ・ノ・メ様、もう一度教えていただけませんか?」
紅が真摯に問いかける。
「その……『神々の黄昏』とはアースガルズの神々の戦いではなく、どのような神々の戦いなのでしょうか」
「『神々の黄昏』とは、人・間・た・ち・が・敬・う・神・々・と・そ・れ・以・外・の・者・た・ち・が・敬・う・神・々の戦争よ。それぞれの眷属を巻き込んだ、大・き・な・争・い……。もし、私たちが負けてしまえば、私たちも連なる眷属も、そして人間たちも滅亡する。全・て・が・終・わ・るのよ」
「ア・ル・マ・ゲ・ド・ン……とも違うのですか?」
白が疑問を口にすると、ウカノミタマが優しく頷いた。
「ケルビム殿、アルマゲドンとは、ヘブンで言われている『神・々・と・人・間・た・ち・の・最・終・戦・争』のことよね?」
「ええ……。アルマゲドンはヘ・ブ・ン・の・天・使・た・ちと、七・つ・の・大・罪・を・犯・し・て・神・に・近・い・力・を・得・た・人・間・た・ちとの最終戦争のことです」
白の答えに、ウカノミタマは深いため息をつき、予言めいた言葉を紡いだ。
「今回の『神々の黄昏』と『アルマゲドン』。最初の出所は違うけれど……最後は同じになるの」
その言葉は、運命の歯車が不可逆的に回り始めたことを告げていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




