慶の推し神様
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月二日から三日にかけての深夜。静寂に包まれた祐徳稲荷神社のご本殿では、厳かな謁見が続いていた。中央奥に並び座るウカノミタマ、オオミヤノメ、サルタヒコの三柱。その前で、IS:Tの紅、白、慶は跪き、背筋を正して正面を見据えていた。
「べ、紅さ……」
慶が遠慮がちに、隣の紅へ耳打ちした。
「何? 慶、どうかしたの?」
紅が不思議そうに問い返すと、慶は緊張を隠せない様子で、正面に座るオオミヤノメの姿をチラチラと盗み見た。そして、さらに声を潜めて紅と白に囁きかける。
「あの……初めてお会いした時から、とても気になっていたんだけど。オ・オ・ミ・ヤ・ノ・メ様って、実はア・メ・ノ・ウ・ズ・メ様よね?」
紅は動じることなく、淡々と答えた。
「そうだな……そ・う・と・も・呼・ば・れ・て・い・る」
「慶、オオミヤノメ様のことが何か気になるのか?」
白の問いかけに、慶は肩を震わせた。
「ウチさ、今、と・て・も・緊・張・し・て・るんだよね……」
「まあ、見たら分かるね。いつもの『慶姐さん』らしくない」
紅が少し呆れたように言うと、慶は挙動不審な様子でさらに熱っぽく語りだした。
「ウチ、アメノウズメ様の『ガチ』ファンなんだよ。マジで信じられない。あのモ・ノ・ホ・ンのス・ー・パ・ー・ス・タ・ーが目の前に……しかも、紅の……。うわあああああああっ!」
最後は顔を赤らめ、羞恥と興奮が混ざり合った声を漏らして悶絶する。
「慶、やっぱりお・か・し・く・な・っ・て・る……」
白は困惑した表情で首を傾げた。
「慶は何故、オオミヤノメ様のことであんなに興奮してるんだ……」
「プププッ……」
紅は思わず吹き出した。
「慶姐さん、アメノウズメ様の『ガチファン』だって言ったじゃない!」
「アメノウズメ様の名前はヘブンでも聞いたことがあるわ」
白が記憶を辿るように言った。
「でも、知ってるのは、神々の時代、ジャ・パ・ンの太・陽・神が天ノ岩戸に隠れたのを開けた神様がアメノウズメ様だという話くらいだわ」
「だからじゃない……。自・分・が・目・指・し・て・い・る・目・標が、今、目の前にって感じなんだと思う」
紅の言葉に、白はようやく合点がいった。
「な、なるほど……わかったわ」
三柱がこそこそと話し込んでいると、正面から凛とした声が響いた。
「三柱殿、内輪のお話は終わりましたか?」
ウカノミタマの問いに、紅はハッとして恐縮した。
「大変、申し訳ございませんでした。大した話でございません。お気に触られたようでしたら、お詫びいたします」
「い、いいえ……私のせいです」
慶も慌てて頭を下げる。すると、オオミヤノメが穏やかな笑みを浮かべて慶に問いかけた。
「ビリケン殿、私を見ていらっしゃいましたけど、何か気になるおかしなところでも?」
「いいえ、お・か・し・な・と・こ・ろ・は・全・く・あ・り・ま・せ・ん!」
慶は勢いよく否定し、一度間を置いてから、決死の覚悟で言葉を絞り出した。
「ただ……凄・く・気・に・な・り・ま・す」
「凄く気になるとは?」
不思議そうに首を傾げるオオミヤノメに、慶は居住まいを正して告白する。
「ええっと……。オオミヤノメ様、いえ、アメノウズメ様。私、あなた様を神・様・の・中・で・一・番・尊・敬しておりまして……。あ・な・た・様・の・よ・う・に・な・り・た・いと……まあ……その……」
「ビリケン殿、ありがとう。そうだったのね。私もそう言われると嬉しいわ」
慈愛に満ちたその一言が、慶の心に直撃した。
「…………っ!」
慶はそのまま、完全に呆然として固まってしまった。
「慶、完・全・に・固・ま・っ・たわね。おーい、慶」
白が横から声をかけるが、慶は「ウウウウウ……」と感動のあまり唸り声を漏らすばかりだ。
「反応がないわ。とりあえず、私達二柱で話をしないと……」
「フフフフ……」
ウカノミタマが上品に笑い声を漏らした。
「紅はとても面・白・い・ご・友・人・を修行の旅で得たのですね♪」
「はい。慶と白は大事な仲間であり友人です。そして、今は力足らずの私のために、岩崎社の岩崎大神として仕事を一緒にしてくれています」
紅が真摯に答えると、ウカノミタマの声が少し冷静な響きを帯びた。
「私が何故、二十年前に目の前から手放したくない程、愛しい娘を修行の旅に行かせたのか分かりますか……。修行に行かせたにも関わらず、『力足らず』な神にさせるために送り出した訳ではありません」
その言葉に含まれた厳しさに、紅は焦りの色を見せる。
「そ、それは深く陳謝いたします。それでも、二十年間という時間の中で精一杯の努力はしてきました……」
「ウカノミタマ様、紅は弱くない。とても強いわ! 力・不・足・で・は・な・い」
白がすかさず紅を庇うように声を上げた。
「フフフフ……」ウカノミタマは再び優雅に微笑んだ。「勿論、分かってますよ、ケルビム殿。余・り・に・自・己・評・価・が・低・い・愛娘をちょっと、からかっただけですわ♪」
母神の茶目っ気ある言葉に、紅は安堵の溜息を漏らすのだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




