神々の黄昏…ラグナロク…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月二日、午後一時三十分。祐徳稲荷神社の境内、岩崎社の社内では、三柱の神々による密談が佳境を迎えていた。
「くぅわがぁみのたおさあがあれれれれ……」
慶はあまりの衝撃に、言葉にならない声を漏らして震えている。
その様子を、白が冷ややかな目で見つめた。
「慶、今日は一段とおかしい神様になっているわよ」
「け、慶……」
紅も、どこか呆れたような声を出す。
「ハッ!」
慶は我に返ったように正気を取り戻し、真剣な面持ちで二人を交互に見た。
「紅と、この『ジ・ャ・パ・ン』、特にこの岩崎社に帰ってから、おかしなことが起きすぎている。白の言う通りなら……合点がいくよ!」
その言葉を受け、紅は妙に落ち着いた声で疑問を呈する。
「も、もし……もしもだ。その『神々の黄昏』が起きるにしても、何故、この国……日本からなんだ? 西側の北の国の方ではないのか。あれはア・ス・ガ・ル・ズの伝説なのでは……」
「はははは!」
慶は不意に思い出し笑いを始めた。
「あの時はすぐに力試しに来る『戦神』がいたな。名前は誰だっけ……」
「戦神……雷神トール様よ」
白が静かに訂正を入れる。
「慶、雷神トール様は、ア・ス・ガ・ル・ズの神々の中でも主神のオーディン様と並ぶほどの実力者なのよ」
「う、嘘だろう……」慶は驚きの声を上げる。
「確かに化け物みたいに凄い神気だったけど。どう見ても、力を抑えている紅の方が『強・い・と・感・じ・た』し、戦神でもないウ・チ・で・も・頑・張・れ・ば・何・と・か・な・り・そ・う・な気はしたけどな……」
「慶は、紅と一緒に居続けているから、冷静な目で神気を見る感度が麻痺しているのよ」
白は淡々と分析を続けた。
「それに慶も私も、紅の神気に凄く影響されて、とてもとても凄く強くなっているの」
「それはないはずだ……」
紅は首を横に振り、自分自身を卑下するように呟いた。
「自分のことだからよく分かる。慶や白がいてくれるからこそ、何とか『大神』として最低限のことができているだけで、もし二人がいなかったら……」
紅は本気で、自らの神としての力を過小評価していた。修行で得た強大すぎる神気に、主である彼女自身が最も無自覚なのだ。
「そろそろ、その『大・き・な・勘・違・い』には気づいた方がいいよ」
慶は呆れたように肩をすくめた。
紅は二人の視線を避けるように、遠い北の空へ思いを馳せた。
「みんなでア・ス・ガ・ル・ズへ行ってフリッグ様へお会いした時には、神々の黄昏が起きるような前兆も感じなかった。ただ、血の気の多い戦神の国だなと思ったくらいだわ……」
「神々の黄昏……つまりア・ス・ガ・ル・ズの言う『ラ・グ・ナ・ロ・ク』は、神々と巨人、それぞれの眷属たちの戦い」
白が神妙な面持ちで語り継ぐ。
「私がいたヘブンの『ア・ル・マ・ゲ・ド・ン』とは違うわ」
「つ、つまり、『神々の黄昏』の『神々』って名前の通り、神・々・の・最・終・戦・争・が起こるってことかい?」
慶の問いに、白は小さく頷き、さらに言葉を重ねた。
「アルマゲドンは『人・間・と・神・々・と・の・最・終・戦・争』のこと……。ただ、これには裏があるの」
「裏……? なんだい、その裏ってのは」
興味深そうに身を乗り出す慶に対し、白は静かに説いた。
「人間たちは考えて進化する生き物。自らを創造した神様たちを崇めながらも、その力に近づこうとする『欲』を持っている。私達、神側に立つ者が『七・つ・の・大・罪』と名付けて人間たちに戒めるようにと広めてきた欲望のこと。だけど、それが仇になって、七つの大罪が人間を今も進化させ続けている原動力になっている。だけど……人間は弱い生き物よ」
「『欲・望・に・負・け・て・人・間・が・神・に・近・づ・こ・う』としているってことかい」
慶の言葉に、白は視線を落とす。
「それは分からない……。ただ、そうならないようにヘブンでは七つの大罪という戒めを広めた。もし、人間たちがこのまま欲望に負け続けていたら……」
「アルマゲドンが起きる、ということか」
紅が繋げた言葉に、白は微かに震えた。
「でも、起きたとしてもそれはまだ先の話。問題は『神々の黄昏』よ」
「アースガルズでは、神々が争ったあとには少数の神と人間たちだけが生き残るという伝説だったはずだわ」
紅が記憶を紐解く。
「人間たちの欲望のせいで神々の黄昏が起きるのか。アルマゲドンの人間自体が神と同じ力を持ち、神々の黄昏と同じ意味になるのか……どちらとも取れるわね」
白の推論に、慶が身震いした。
「その神々の黄昏が起きるのが、この『ジャ・パ・ン』で?」
「分からないわ。ただ、あのお店にある『おとぎ前線』は、何・か・関・係・し・て・い・る・と思う」
白の言葉に、岩崎社の中に重苦しい沈黙が降りた。
「紅、どうする……」
慶が神妙に尋ねる。紅は決然とした表情で、神殿の奥を見つめた。
「まずは、今晩にでも一度、ウカノミタマ様にお伺いに行こうかと思うわ」
その決断は、来るべき災厄への最初の一歩となる。静寂の中、蝉時雨だけが激しく降り注いでいた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




