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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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紅の一番弟子…と現在。

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

七月一日、午前十時。祐徳稲荷神社の境内にひっそりと佇む岩崎社。


先ほどまでアイドルへの情熱を必死に訴えていた祈里が、失意のうちに去っていく。その後ろ姿を、紅、白、慶の三柱の神々は重苦しい沈黙の中で見守っていた。


「紅、本当に良かったのか?」

慶が申し訳なさそうに、静寂を破った。「あの子、ウカノミタマ様の眷属の祈里ちゃんだろう。あの目は本気だったぞ。『アイドルになって人間を幸せにしたい』って……。言葉が『アイドル』に変わっているだけで、言っていることは紅と同じじゃないか。今回ばかりは、うちには紅の気持ちが分からないよ」

白もまた、慶の言葉に深く頷き、賛成の意を示す。


「私も慶と同意見だ。なぜあの娘に歌を教えない? あの突き放すような答えは、紅らしくなかった。いつもの紅なら、あんな酷いことは言わないはずだ」

二柱の親友からの追及に、紅は苦渋に満ちた表情を浮かべ、視線を落とした。


「……他の娘だったら良かったんだ。ただ、あの祈里ちゃんだけは別なんだよ」


「深い理由があるんだな。あえて聞きはしないが……」

慶が言葉を濁すと、白が紅の心中を察するように告げる。


「その娘に歌わせたくない理由……。紅がそこまで頑なになるのなら、余程のことなのだろう」

紅は、遠ざかる祈里の残像を追うように宙を見つめた。


「私が止めた方がいいと言っても、それでも祈里ちゃんは、どんなことをしてでも歌うだろうね……。私は祈里ちゃんを、あの子の二の舞にしたくなかったんだよ。『歌で人間を幸せにしたい』。その気持ちに揺るぎはなかった……けれど」


「けれど……何だ?」

慶が促す。


紅は、自らの内に封じ込めた古い記憶を紐解くように語り始めた。

「昔、居たんだよ。私が修行に行く直前まで、歌を教えていたウカノミタマ様の眷属の女の子が一人……。その子も私や、そう……祈里ちゃんと同じで、『歌で人間を幸せにしたい』と願っていた子だった」


「へえ、初耳だ。その子は紅の『一番弟子』ってことか?」

慶の驚きの声に、紅は寂しげな微笑を漏らす。


「一番弟子か。そうなるのかも知れないな。だが、彼女は私が修行に行く前に突然消えた。いや、厳密に言えば、私が自分の力不足を感じて修行に行こうと思った原因を作った子なんだ」


「……それで、その子は今どこに。紅、お前が常に抑えつけているその強大な神気をもってすれば、当時は分からなかったとしても、今ならその子の居場所は分かるんだろう?」

慶の問いに、紅はしばらくの間を置き、絞り出すような悲しい声で答えた。


「ああ、分かるよ。そして、今何をしているかもね」


「その子は? 歌は?」

白が身を乗り出す。


「彼女は今も歌っているよ。人間を幸せにするために……今でも歌い続けている。自分を傷つけながら、自分を犠牲にしながら、本当の自分を捨ててまで」

紅の言葉に、慶の表情が曇った。


「何者なんだい、その子は。人間を幸せにするために自分を削って……本当の自分を捨ててまで歌うなんて、悲しすぎるよ」


「歌は人間を幸せにするためのもの。でも、自分を傷つけ、自分を犠牲にする歌は本当の歌じゃない」

白が断じる。


「そうだよ、白の言う通りだ」

紅の声はさらに沈んでいく。


「私の修行の旅の始まりは、『あの子』を探すことから始まった。まだ、慶や白と出会う前の頃だよ。運良く早い段階で彼女を探し出すことはできた。けれど……見つけた時には、もう遅かったんだ。そして、当時の私には彼女を救う力もなかった。この時ほど、自分の無力さを感じたことはない」


「今の紅なら、本気の神気を開放すれば、その子を助けてあげることはできないのか? 私たちはこれでも神様だろう」

慶が食い下がると、紅は首を横に振った。


「そうだね。彼女が普通の狐神族、ウカノミタマ様の眷属だったなら、消えることもなかったのかも知れない。そして、今の私たち三柱なら救えていたかも知れない。だが、もう遅いんだ。彼女は生まれながらに特別な神気を持っていた。そう……次世代のウカノミタマ様と呼ばれるほどの、強すぎる神気をね」


「それって、まさか……!」

慶が絶句する。


「そのまさかだよ」

紅は深い闇を見つめるような瞳で語り続けた。「闇へ堕ちたんだ。深い、深い闇の底へ。人間を幸せにするために、本当の自分を捨てて……。彼女は自らの意志で『狐鬼きつねおに』になった。『悪神』だよ。神は神を救うことはできない……。もう、手遅れなんだ。そして、ウカノミタマ様より告げられた。彼女は近く、この地に帰ってくるとね」

岩崎社を冷たい風が吹き抜ける。その言葉は、これから始まる過酷な運命の前奏曲のように、静かに境内に響き渡った。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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