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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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アイドルグループのカタチ

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

正午を回った頃。佐賀県鹿島市、祐徳稲荷神社の門前商店街に位置する「前線カフェ」のお座敷では、理名を囲んで少女たちが車座になっていた。


「忙しい時にしかバイトで来ないから、いつもはこんなにお客さんが来ないなんてビックリしたよ!」

理名は、静まり返った店内に驚きの声を上げた。


美琴は少し申し訳なさそうに、お茶を淹れながら答える。

「今日は水曜日ですから……。一週間で一番、お客様がいらっしゃらない日だと思いますわ」


「そう、理名お姉ちゃん。このお店、いつも暇なんだよ。……っていうか、商店街も全体が暇だと思う」

稲穂が畳に寝転ぶようにして口を尖らせると、隣に座る亜都が小さく笑った。


「稲穂ちゃん、毎日毎日、テーブル席に座って『暇〜』って言ってるもんね」


「確かに平日の水曜日だから暇ではあるんだろうけど……。でも、稲荷神社の方は休日の日よりは少ないとはいえ、人でごった返しているよね?」

理名の至極真っ当な疑問に、神那が悲しげな表情で俯いた。


「そう、平日は外国からのインバウンドのお客様がたくさん来ているわ……。でも、皆さんが寄るのは神社駐車場の近くにあるお店だけ。こんなシャッターの閉まったお店ばかりで、寂しい商店街……。さらにそのど真ん中にあるこの『前線カフェ』まで、わざわざ来る物好きな客なんていないわ」

神那の言葉に沈みかけた空気を変えるように、祈里がパッと顔を上げた。


「あっ、でも一度来られたよね。お客さんがたーくさん! 『台湾雷軍団X』って人たち……」


「あの人たちは、あのアホ……」

稲穂が言いかけた言葉を、亜都が鋭く遮る。


「い、稲穂ちゃん!」


「ごめんごめん。このお店のオーナーの社長さんのお友達の人たちだったから……」

稲穂はバツが悪そうに頭を掻いた。


理名は寂しそうに目を細め、納得したように頷く。

「そ、そうね……。そんな特別な理由がない限りは、ここまでお客さんは来ないか。……だからこその『アイドル活動』なのね。確かに、みんながアイドル活動をすれば、ファンになってくれた人たちがこの場所まで来てくれるし、SNSで紹介もしてくれる。何もしないで、ただお客さんが来るまでお店を開けておくより、絶対に良いよね……」


「そう、だから私も神那ちゃんも考えたんだ。どうしたら、お客さんがたくさん来てくれるかって……」

祈里が真剣な眼差しで訴え、神那がそれに続く。


「理名さんには、まだ言えないけれど……。どうしても私達には、このお店を存続させないといけない理由があるの」

二人の強い決意に、理名は深く息を吐き、静かに覚悟を決めた。


「……分かった。先ず、出来ることがら始めよう。ただ、もう一度念を押すけど、アイドルとしての活動はこの神社周辺だけしかしないと約束して欲しい」

理名は遠い目をして、自身の苦い過去を語り始めた。


「『SAGAN娘。』の時もそうだったんだ。ただファンを喜ばせるつもりで始めたことが、次第にみんなおかしくなっていく。活動が大きくなればなるほど歪みが出てくるの。仲の良い友人でも憎しみ合ったり、妬みの感情を持つようになるんだ。メジャーの話が出た時に私が辞めた一番の理由はそれ。……もう一つは、元々その時のサークルの友人にダンスの助っ人を頼まれただけだったんだけど、その友人が、それをきっかけに私を避けるようになったから」

理名は少し寂しげな表情を見せたが、すぐに努めて明るい声を出した。


「元々、高校生の時は登山部で、今も空いている時間は『ソロキャン』するのが私の一番の楽しみなんだ!」


「理名さん……。本当に大変なんですね、アイドルって……」

沙希が泣きそうな声で理名の手を握る。


「佐賀の片田舎のローカルアイドルでもそうだから……。みんなは今のままでいて欲しいかな、なんてね。……へへっ」

理名の照れ隠しのような笑い声に、稲穂が首を傾げた。


「ねえねえ、理名お姉ちゃん、『ソロキャン』って何?」

理名は思わず吹き出した。


「あはは! 稲穂ちゃんは『ソロキャン』の方が気になったんだ? ソロキャンっていうのはね、一人で山や海や川に行って、自然の中でくつろぎながらキャンプすることだよ。佐賀県は自然豊かな土地だから、宝の山だよ。アイドルメジャーデビューなんかしたら、自然のない大都会で好きなソロキャンもできなくなるからね!」

その言葉に、美琴が静かに、しかし深く首肯した。


「分かりました。理名さんがおっしゃる通り、何事もほどほどで良いということですよね。自分や親しい人を傷つけてまでもすることではないと……。私にも昔、そういう経験がありますわ。……ね、祈里ちゃん」

美琴に名前を呼ばれた祈里は、ポロポロと涙をこぼした。


「紅さんが言ってた意味が、分かる気がしたよ……。私も、紅さんも、既に一つ失ってしまっていることを忘れてた。……大切な人を、失っていたことに……」


「祈里さん、そ、それって……」

美琴が狼狽えるが、祈里は力強く涙を拭った。


「でも、私は歌いたいんだ。聴いている人を幸せにしたいの。世界中の人じゃなくても良い。私は自分の出来る範囲で、自分の持てる力だけの範囲でもいい……。頑張りたいの……!」

理名は、真っ直ぐな祈里の瞳を見つめ、優しく、けれど厳しく言葉を添えた。


「その通りだよ。みんなの目的は何? アイドルで全国デビューじゃないでしょ? 最低、このお店が存続できる位の規模で良い。それで商店街も少しでも活気を取り戻せたら、それでいいんじゃないかな。無理はしない。自分の力以上の事は、決してしないで!」

お座敷に、窓から差し込む午後の光が明るく降り注ぐ。それは、ささやかだけれど確かな、新しい「おとぎ前線」の始まりを祝福しているようだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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