灯台下暗し!伝説のセンター!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月三日。佐賀県鹿島市、門前商店街の「前線カフェ」では、午前十時半を過ぎた頃、お座敷の空気が一変していた。
碧海雫が連れてくると言っていた「アイドル指導者」を待ちわび、正座を続けていた祈里、神那、沙希、美琴の四人。そこへ雫が理名を伴い、さらに稲穂と亜都を引き連れて戻ってきた。
「とりあえず、神那ちゃん。他のみんなも、正座のままだときついでしょう。足を崩してちょうだい」
雫の言葉に、四人は一斉に安堵の溜息を漏らし、それぞれの楽な姿勢に崩れた。
「いたたたた……」
祈里が顔をしかめて膝をさすれば、沙希は半泣きで声を震わせる。
「いいいい痛い……。あ、足が痺れすぎて動きません……」
「沙希ちゃん、大丈夫?」
美琴が心配そうに覗き込むが、沙希は「だ、大丈夫では……ないです」と力なく苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。
神那は痺れた足の感覚を確かめるように顔をしかめながら、雫に詰め寄った。
「店長、とりあえず御託はいいから、|ア|イ|ド|ル|指|導|を|し|て|く|れ|る|先|生を呼んでくれるんでしょう?」
「ええ、もう連れてきているわ。ほら、ここに……」
雫は自信満々に隣に立つ人物を指差した。
「今日からみんなに、アイドルになるための|指|導|全|般|を|教|え|て|下|さ|る、『天乃理名』先生よ」
「……ええええええええええええっ!?」
理名が一番大きな、素っ頓狂な声を上げた。
「は、はい!?」
祈里もまた、呆然とした表情で雫と理名を交互に見つめる。
「そうよ。この理名ちゃんが、今日から|み|ん|な|の|先|生よ!」
雫が断言すると、美琴が困ったように眉を下げた。
「い、いや……店長。アイドルの先生と言われて、流石に何も知らない理名さんが先生になるのは……」
「私は冗談なんて言ってないわ。天乃理名ちゃんが、みんなのアイドルの先生になるの。あの岩崎社の巫女さんたちとは種類は変わるけれど、この私たちが住む佐賀県にもアイドルがいるのは、みんな知っているでしょう?」
雫の問いに、神那が半信半疑ながら答えた。
「ロ、|ロ|ー|カ|ル|ア|イ|ド|ルって人たちのことでしょう?」
「じゃあ、|佐|賀|県|で|一|番|有|名|な|ロ|ー|カ|ル|ア|イ|ド|ルを知っているかしら?」
すると、稲穂が思い出したように手を挙げた。
「私、知ってる。スマホで動画を観たもん、その佐賀のローカルアイドル。名前は確か……『|S|A|G|A|N|娘|。』。結成時からローカルアイドルのレベルを超えていて、すぐにたくさんのレコード会社からメジャーデビューの話があったって聞いたけれど。動画を観る限りでは、|特|に|凄|そ|う|で|は|な|か|っ|たけど……」
「うわあああああああ……やめてええええ!」
理名が突然、耳を塞いで嫌そうに叫んだ。
「り、理名お姉ちゃん、どうかしたんですか?」
亜都が驚いて彼女の顔を覗き込む。
雫はニヤリと笑い、稲穂に言葉を繋いだ。
「稲穂ちゃんが動画で観たのは、|今|の『SAGAN娘。』の方でしょう?」
「い、今のって……店長、どういうこと?」
「結成時の『SAGAN娘。』がローカルアイドルのレベルを超えていて、メジャーデビューの話が殺到していたのは本当の話よ。その時のグループには、|不|動|の|セ|ン|タ|ーと呼ばれる人物がいたの。『絶対的不動のセンター』とまで言わしめた、彼女の存在こそがグループを佐賀の頂点まで一気に押し上げた。そして、芸能や知性の才能みたいな人物でミスユニバース佐賀県代表にも選ばれ、それも辞退。短期間で佐賀の伝説を作った最強のアイドル。けれど……その人物は、メジャーデビューが決まった時もすぐさま、グループを|す|ん|な|り|と|卒|業してしまったの」
「へええ……。何、その『|絶|対|的|不|動|の|セ|ン|タ|ー』って……。プププッ、笑える」
稲穂が悪ふざけして笑うと、理名はさらに顔を赤くして身悶えした。
「い、稲穂ちゃん、笑うのはやめてええええ……!」
その様子を見て、亜都がハッと目を見開く。
「も、もしかして……」
「流石、亜都ちゃん。ご名答!」
雫は陽気に声を張り上げた。「ここにいるのが、その噂の伝説の人物。『SAGAN娘。』伝説の絶対的不動のセンター、天乃理名……アイドル名『|り|な|っ|て|ぃ』よ!」
雫の宣言に、お座敷は静まり返った。あまりの衝撃に、誰も言葉が出てこない。
沈黙を破ったのは、祈里の震える声だった。
「理名ちゃん、じゃなくて……理名せ、んせい……?」
「う、嘘だと言ってよ店長!」
神那が叫び、沙希は「あわわわわわわ」と混乱している。
「り、理名さんが|元|ア|イ|ド|ル……。ミスユニバース佐賀県代表辞退!」
美琴も信じられないといった面持ちで理名を見つめた。
理名は恨めしげな視線を雫に投げかけた。
「て、店長……謀りましたね……っ」
「ええ、謀ってみたわ」
雫は冗談めかして豪快に笑った。
「うちのオーナーの十八番を真似してみたの。オーナーはもっと質が悪いのよ? それに、それだけの才能があるなら、調理のバイトだけじゃ勿体ないでしょう。このままだと『前線カフェ』にお客様も来なくなるし、そうすればあなたの|バ|イ|ト|先|も|な|く|な|っ|て|し|ま|う|わ|よ! ハハハハ!」
雫の笑い声が、呆然とする一同の中に響き渡った。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




