伝説の『IS:T(イズティー)』
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月三日。佐賀県鹿島市、門前商店街の「前線カフェ」には、昨日とはまた違う緊張感が漂っていた。
お座敷では、祈里、神那、沙希、美琴の四人が、店長の碧海雫が連れてくるという「|ア|イ|ド|ル|指|導|者」を待ち、背筋を伸ばして正座していた。
一方、いつものテーブル席では、稲穂と亜都が向かい合って座り、のんびりと会話を交わしている。
「(大きなため息をついて)ふぅ……。この|安|定|の|暇|さ|は何なのかしら~♪」
稲穂が退屈そうに呟くと、亜都が少し楽しげに返した。
「確かに暇かもしれないけれど、今日は店長が例の『噂のアイドル育成指導者』と一緒に来るって言っていたから、面白いことが起きるかもしれないわよ」
その時、お店の裏口が開き、二人の人物が姿を現した。一人は店長の碧海雫。そして、もう一人は商店街の顔馴染みである理名だった。
「理名お姉ちゃん! 今日はどうしたの?」
稲穂がパッと顔を輝かせて駆け寄ると、亜都も後に続く。
「今日は商店街で何もイベントがないから、忙しくないのね。遊びに来てくれたんだわ」
「亜都ちゃん、じゃあ今日は、|約|束|の|ダ|ン|ス|を教えてもらえるのかも!」
「本当ですか! 今日は私と稲穂ちゃんにダンスを教えてくれるの?」
少女たちの無邪気な歓迎に、理名は少し困ったように雫を振り返った。
「う~~~ん、店長? 私は今日、稲穂ちゃんと亜都ちゃんと約束があるんですよ。もう、彼女たちも一緒で良いですか?」
理名の悩み声に、雫はしばらく考え込んだ末に頷いた。
「先に二人と約束していたのなら、仕方ないわね……」
「う、うん……?」
状況が飲み込めない様子の稲穂に、雫は微笑んで促した。
「まあ、とりあえず稲穂ちゃんも亜都ちゃんも、祈里ちゃんたちがいるお座敷の方へ行って。そこで詳しく説明するわ」
四人がお座敷へ入ると、そこには厳しい表情で|正|座|を続ける祈里たちの姿があった。
「(少し怒気を含んだ声で)店長……私はもう|正|座|で足が痺れているのですが……。それで、|噂|の|指|導|者|はどうしたんですか? どうして理名さんを連れてきて……」
神那が恨めしそうに雫を睨むと、理名が驚いたように声を上げた。
「|指|導|者|ですか? 皆さんはどなたかをお待ちだったんですか?」
稲穂と亜都がすかさず理名の隣に寄り添う。
「理名お姉ちゃん、今日はね? 祈里さんたちがこの門前商店街でアイドルになりたいからって、その|指|導|を|し|て|く|れ|る|人|を待っているんだよ!」
「祈里さんが、どうしたらアイドルデビューして活動できるか、岩崎社の方に相談しに行って……。でも岩崎大神様から『|歌|う|こ|と|は|教|え|ら|れ|な|い|』『|ア|イ|ド|ル|に|な|る|の|は|止|め|た|方|が|良|い|』って言われちゃって……」
「あ、亜都ちゃん!」
稲穂が慌てて制止したが、時すでに遅し。
「あっ! (ウッカリ話したことに気づき、かなり焦って)い、いや……その……」
亜都は口を覆ったが、理名の好奇心に火がついていた。
「岩崎大神様って、あの岩崎社にいる神様のこと? あそこは|恋|愛|成|就|の|ご|利|益|が|凄|い|って聞いているけれど。その神様と祈里ちゃんは何か関係があるの?」
「う、ううん……」
亜都は必死に取り繕う。
「祈里さんが岩崎社の方を担当している巫女さんたちが歌うのが得意だっていうから……。この前の『狐の嫁入り』の日も、その巫女さんたちが歌っていたって……♪」
「(感心しながら)あの日、私もバイトに入っていた時に聞こえたわ! 奥の厨房にいても聞こえるなんて、凄い声量だと思ったけれど、あれは稲荷神社の巫女さんたちが歌っていたのね。……実は昔、アメリカのビルボードチャートを総なめにした『IS:T』という謎の女性ユニットがいたの。私の憧れのグループなんだけど、姿を消したままの彼女たちさえも超えていたと思うほど、|奇|跡|的|な|歌|声|だった。そんな凄い巫女さんがいるなら、私ももう一度、今度は|直|に聴きたいわ♪」
「そうなんです……」
亜都が残念そうな声で続けた。
「祈里さんや神那さんがあの日の歌に感動して、この『前線カフェ』を存続させるために、自分たちも歌ってアイドルになりたいって思ったのに……」
「(納得した様子で)それで祈里ちゃんは、|そ|の|巫|女|さ|ん|た|ち|に歌を教えてほしいと言って、|断|ら|れ|た|わけね」
理名の言葉に、雫が助け舟を出すように口を開いた。
「まあ、|そ|う|い|う|こ|と|に|し|て|お|き|ま|し|ょ|う|。それじゃあ、あらためて話を進めるわね」
雫は居住まいを正し、お座敷のメンバー全員を見渡した。
「皆さんに|紹|介|するわ!」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




