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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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祈里、岩崎大社へ

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

七月二日。佐賀県鹿島市、祐徳稲荷神社の門前商店街に位置する「前線カフェ」の店内には、爽やかな朝の光が差し込んでいた。


お座敷では神那、沙希、美琴の三人が膝を突き合わせ、昨晩からの重大な報告について熱心に話し込んでいる。いつものテーブル席では、稲穂が一心不乱にスマホゲームに興じ、その傍らで亜都が静かに本を捲っていた。

カチリ、と裏口の鍵が開く音がして、店長の碧海雫が姿を現した。


「……おはようございます」

どこか寝ぼけたような、ふわふわとした声。雫はまだ夢の淵を歩いているかのような足取りで店に入ってくる。


「おはようございます」

神那が短く挨拶を返すと、美琴が明るい声を上げた。


「おはようございます、店長!」


「お、おはようございます……」

沙希も少し緊張した面持ちで会釈をする。


亜都は本から目を離し、雫の様子を伺うように首を傾げた。

「おはようございます。今日は何だか眠そうですね?」


雫の反応を待つために少し間を置いたが、彼女はまだぼんやりとしている。亜都は隣の少女の肩を小突いた。

「い、稲穂ちゃん、稲穂ちゃん」


「う、うん? 何、亜都ちゃん……」

スマホの画面に釘付けだった稲穂が、不機嫌そうに顔を上げた。


「店長がいらしたのよ。朝のご挨拶は?」

亜都に促され、ようやく状況を把握した稲穂が、驚き気味に声を上げる。


「あッ! 店長、来てたんですか?」

その言葉に、雫は呆れたような溜息をついた。


「稲穂ちゃん……最近、ますます私に対する態度が横柄になってきてる気がするわよ」


「稲穂ちゃん、朝の挨拶は大切よ。……『来てたんですか?』なんて失礼なこと。ちゃんとご挨拶しないと」

美琴が母親のような口調で嗜めると、稲穂は露骨に嫌そうな顔をして、面倒くさそうに口を開いた。


「わ、わかりました……。店長、おはようございます」


「はい、稲穂ちゃんも、おはよう」


ようやく目が覚めてきたのか、雫は店内の顔ぶれを見渡し、ふと一人足りないことに気づいた。


「あれ? 祈里ちゃんは?」


「一時間前から、岩崎社へ行ってます」

神那の答えに、雫は不思議そうに眉を寄せた。


「岩崎社? 何故そんなところに?」


「店長にはまだ説明していませんでしたね」

美琴が居住まいを正し、言葉を継ぐ。「岩崎社には岩崎大神様たちが住まわれていますので、祈里さんはそちらへご相談に伺っているのです」


「何の相談かしら? 祈里ちゃん、|誰|か|好|き|な|人|でもできたの?」

恋愛成就の神を祀る社に向かったと聞き、雫は思わずそう尋ねた。


「それは違いますが……。とにかく店長にまず、お伝えしたいことがあります」

美琴は困ったように微笑みながら、本題を切り出した。


「昨日の事よ。美琴さんが命婦大神様へ、皆がアイドル活動をしても良いか……そして許可が出た場合に美琴さん自身が活動に加わって良いかのお尋ねに行くと仰っていた、あの件ね?」


「はい、その通りです。昨晩、私の方で命婦大神様へ、この門前商店街で|ア|イ|ド|ル|活動をしても良いかとお伺いに向かいました」


「そうだったわね。その結果次第で、活動を始めるかどうかが決まるという話だったはず……」


雫が固唾を呑んで見守る中、美琴は確信に満ちた声で告げた。

「そうです。そして結果的には、私も含めてこの『前線カフェ』を拠点にした|ご|当|地|ア|イ|ド|ル|……いわゆる|ロ|ー|カ|ル|ア|イ|ド|ル|として活動してよいというお許しをいただいたのです。それで、祈里さんは|我|先|にと岩崎社の方へと向かいました」


「(喜びの声を上げて)それは良かった! このお店にとっても本当に助かるわ。神社の駐車場から離れたこの場所に、お客様が来る理由が一つできる。今よりずっと多くのお客様が来てくれるはずだわ」

雫は手放しで喜んだが、すぐにまた疑問に突き当たった。


「……ん、でも、祈里ちゃんが岩崎社に行ったことと、アイドル活動はどう繋がるの? あの神社は|神|様|は神様でも、|恋|愛|成|就|の神様でしょう?」

美琴に代わって、神那が静かに語り始めた。


「美琴さん、ここからは私が説明するわ。店長、元々、岩崎社にいらっしゃる紅さん……いえ、岩崎大神様たちの一柱は、この場所、この地方の|伝|統|芸|能|を司る神様だったのよ」


「岩崎大神様たちの一柱……ということは、|数|柱|いらっしゃるの?」


「二十年前は一柱だけだったけれど、今は|二|柱|の神様たちが、岩崎社で共にお住まいになっているわ。……店長、数日前の『狐の嫁入り』の日に、|歌|声|が聞こえたのは覚えている?」

神那の問いかけに、雫の脳裏にあの日、商店街を包んだ神秘的な光景が蘇る。


「知っているも何も! あの行事に参加していた者すべてが、この目で見て、この耳で聴いているわ。すべてを包み込むような歌声がどこからともなく聞こえてきて、土砂降りになりそうだった雨が急に止み、突風が一瞬で静まった。私は……あの日、初めて|奇|跡|を見たと思ったわ」


「その店長の言う|奇|跡|を起こしたのが、岩崎社にお住まいの|三|柱|である岩崎大神様よ。これが、|神|様|の|本|当|の|力|……」

神那の真剣な言葉に、雫は圧倒されながらも情報を整理しようと努める。


「ま、まあ、それは分かったけれど……。岩崎社は恋愛成就の神様ではなく、伝統芸能の神様なのね? 祈里ちゃんは、その伝統芸能の神様に会いに行っている……ということなのね」

お座敷に流れる静かな熱気。それは、新しい物語が動き出す予感に満ちていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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