晴レ渡レ、そして新たな決意
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市、祐徳稲荷神社の門前商店街。オープンから二か月が経とうとしている「前線カフェ」の店先では、祈里と沙希が並んで立ち、遥か社殿の方向をじっと見つめていた。正午を知らせる合図が、六月後半の湿った空気に溶けていく。
「もう、二人はご本殿に着いたのかな?」
沙希が少し不安そうに声を漏らす。
「もう、着いている時間だと思うよ」
祈里は真剣な表情を崩さない。
「そろそろ、ウカノミタマ様の結界が弱まりそうだから心配……」
「突然、土砂降りや突風が起きたりするんだよね?」
沙希が小首を傾げると、祈里は深く頷いた。
「そう……毎年そうなの。変な嫌がらせは止めてくれればいいのに」
その言葉を裏付けるかのように、先ほどまでの快晴が嘘のように空が翳り始めた。ポツリ、ポツリと小雨が落ち、風が不穏な唸りを上げて吹き抜ける。
「やっぱり来た……」
祈里は残念そうに空を仰いだ。
「強くなる前に早く、ウカノミタマ様のご加護を亜依さんが受けられれば良いんだけど……」
その時、風の音に混じって、どこからか透明感のある響きが届いた。
「祈里ちゃん、何か聞こえない?」
沙希が耳を澄ませる。
祈里はハッと目を見開いた。
「聞こえる……。この歌声は、紅さんだ! 紅さんの**歌|声《・>**だわぁ!」
二人が驚きに見守る中、降り始めていた雨がピタリと止んだ。吹き荒れていた風も、まるで魔法のように収まっていく。
「あ、雨が止んだよ、祈里」
稲穂が、体を震わせて声を上げる。
「あ、風も止まった。静かだね」
隣で亜都も不思議そうに周囲を見回した。
「本当だ! 雨も止んだ! 風も止まったよ! 凄いよ、沙希ちゃん! これが紅さんの**歌の|力《・>**なの……っ♪」
祈里の顔に輝くような笑顔が戻る。
「心がポカポカしてくるね……心の中が暖かなお日様に当たってるみたい……♪」
沙希も恍惚とした表情で、空を仰いだ。
遥か岩崎社の方角から、紅、白、そして慶――**IS:T**の三柱の声が、祝福のメロディとなって世界を包み込んでいく。
(紅、白)
SUNSHINE 太陽の光が
shine brightly 全てを輝かせて
It's all right. 大丈夫!
光が全てを包み込んでく
Blow away 闇を吹き飛ばせ
a blast of wind 誘いし一陣の
風が 大丈夫!
ほら、空が蒼色に晴レ渡っていく
(慶)
曇るのは決して空だけじゃない
人の想いや、そして夢、その願いも
無情にも忘れ去られる
愛、熱意、真心 人としての感情
The sun, the great sun 空も人の心も
輝かせ、光、輝かせ
Please、全てを照らして
Let’s GO!
(紅、白)
輝くプリズム 色彩の光線 触れてみようよ
晴レ渡レ 光の軌跡 全てを包み込め
The spring breeze feels good. 春風が、
雲を、かき消し晴レ渡らせる
SUNSHINE 太陽の光が
shine brightly 全てを輝かせて
It's all right. 太陽の光が全てを包み込んでいく
(慶)
淀んでく沢山の感情 その尊厳
叶わない夢も 諦めた 情熱も
無情にも忘れ去られる
愛、熱意、真心 人としてのプライド
Let the storm rage on. 闇に染まった万象を
吹き飛ばせ、蹴散らしてしまえ
please 全てをかき消せ
(紅、白)
輝くプリズム 色彩の光線 触れてみようよ
晴レ渡レ 光の軌跡 全てを包み込め
The spring breeze feels good. 春風が、
雲を、かき消し晴レ渡らせる
(慶)
Happy start 新しき門出を
Please bless 全てに祝福を
光と風が全てを包み込んでいく
(紅、白)
輝くプリズム 色彩の光線 触れてみようよ
晴レ渡レ 光の軌跡 全てを包み込め
The spring breeze feels good. 春風が、雲を、かき消し晴レ渡らせる
Blow away 闇を吹き飛ばせ
a blast of wind 誘いし一陣の
風が 空を蒼色に晴レ渡らせてく
かき消し晴レ渡レ 光の奇跡
晴レ渡レ 晴レ渡レ
IS:Tの歌声が止んだ後も、門前商店街には至福の余韻が漂っていた。
祈里、沙希、稲穂、亜都、そして通りがかりの人々までもが、あまりに美しい晴天の空を見上げて茫然と立ち尽くしている。
「(決心した声で)……沙希ちゃん、分かったの。そして、私、決めた!」
祈里が力強く拳を握りしめ、沙希を振り返った。
「祈里ちゃん、何が分かったの? 何を決めたの?」
「この商店街の皆も救える。人も沢山集まって喜んでくれる。そして、お店も守れる。**最|高|の|ア|イ|デ|ア|**が分かったの!」
「(驚いて)祈里さん、そんな、とても都合がよすぎるアイデアなんてないですよ!」
稲穂が思わず突っ込む。
「祈里さん、私も稲穂ちゃんと同じで思いつきません」
亜都も戸惑ったように眉を下げた。
「そんなアイデアがあれば、それは良いですけど……」
「(オドオドしながら)祈里ちゃん……」
沙希も不安げに見つめるが、祈里の瞳には一点の曇りもなかった。
「今、聞いたでしょ。歌よ、紅さんの歌!」
その時、店の中からバタバタと大きな足音が聞こえ、副リーダーの神那が勢いよく飛び出してきた。
「わ、わ、私、良いことを思いついたわ! お店を守れる方法を!」
神那の叫びに、沙希は目を丸くした。
「神那ちゃんまで……」
「何よ! 祈里さんも神那さんも二人揃って……」
稲穂は少しの間を置いて、震えるような声を出す。
「私……嫌な予感しかしないんだけど」
「わ、私も稲穂ちゃんと同じで、嫌な予感しか浮かばない……」
亜都の不安を余所に、祈里は高らかに宣言した。
「歌……歌うの。|ア|イ|ド|ル|に|な|る|の!」
「私達で歌うのよ。この門前商店街で……紅さんみたいに!」
神那も同じ言葉を重ねる。
「えっ、神那ちゃんも……っ!?」
「えっ、祈里も……っ!?」
祈里と神那は互いの顔を見て驚きの声を上げた。
「えええええええええ……っ!?」
沙希の叫びが商店街に響き渡る。
「(呆れて)ちょっとマジですか!?」
稲穂が絶叫に近い声を出す。
「あの二人、|本|気|みたいね……。わあああああ……」
亜都は頭を抱えた。
「晴レ渡レ」の歌声が導いたのは、青空だけではなかった。それは、おとぎ前線のメンバーたちの運命を大きく変える、新たなステージの幕開けでもあったのだ。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




