謎の御神様
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
祐徳稲荷神社内の**岩崎社**。時刻は六月後半の午前十時。
社の内部は、厳かな神社の造りとはかけ離れ、まるで近代的なレコーディングスタジオのような防音設備が施されていた。三柱の神々、紅、白、慶は、そこで思い思いに過ごしていた。紅は一角でボイストレーニングに熱中し、白は静かにピアノを奏で、慶は踊りとも舞ともつかない、どこか怪しい動きを繰り返している。
演奏を止めた白が、静かに口を開いた。
「もう、朝か……。今朝は**岩崎社**に誰も来てない……珍しい。いつも行列なのに……」
慶は動きを止め、陽気に答えた。「今日は**『狐の嫁入り』**するそうだなんだYOー♪」
「**『狐の嫁入り』**とは何?」
白は尋ねる。
「そうだな……。元々は**『狐神族』の結婚を『ウカノミタマ』様が認めるために行う婚儀の儀式らしい」
慶は説明した。
「でも今は迷信だと思われているらしく、狐の姿をした人間達が各々『狐の嫁入り』**のお婿さんやお嫁さん、従者等に模して本殿まで行列してあるくらしいYO~♪それ以上はジャパンのゴッドだけどウチも良く分からないんだよね?」
「だから、今朝はこちらに誰も来ないのか?」
白は納得したように言った。「静かだから良いけど……」
「そうだね~。それにしても静かだね……いっちょ、外でも見てくるか?」
慶は、そう言うと岩崎社の壁を、その神気を持つ身体で悠々と通り抜けて外に出た。神である彼女は、姿を人間に見せることも、見せないことも自由自在だ。
社の入り口前には警備員が立っており、**「立ち入り禁止」**の立て看板が置かれていた。
「なるほどね!これなら静かなはずだ」
慶が外の様子を確認し、再び社の中へ戻ろうとした瞬間、誰かが慶の肩をバシリと強く叩いた。
「い、痛――――っ!誰だ!」
慶は思わず声を上げた。
**??**は陽気な声で挨拶した。
「YO~!お久し!ビリケンさ~ん」
慶は謎の人物を見て、文字通り目が点になり、次の瞬間、絶叫した。
「ひええええええええええええええ……」
腰を抜かした慶は、お尻をすらせながら慌てて**岩崎社**の中へ戻り、挙動不審に叫んだ。
「出た出た出た出た出た出たあああああああ!」
「け、慶?どうした?」
白が冷静に問いかける。
「慶!一体どうしたんだ?」
紅もボイストレーニングを中断し、心配そうに尋ねた。
慶は震えながら答える。
「い、い、いきなり、私の前に出たんだよ!そこにいたんだよ!」
「外に何がいる?私は何も感じない……」
白は少し間を空けて、「紅は?」と紅に尋ねた。
「私も何も感じないけど……。慶、何かの幻覚を見た?」
紅は冗談交じりに笑った。
二人の態度に慶は不満に思い、不貞腐れた。
「もう、信じてくれなくても良い……。でも居たんだよ。すぐそこにアイツが!い、いやあの**御神様**が……」
白が冷静に状況を整理した。
「例の**『名前も言えない神様』**の事か?」
「うんうん……そうそう……」
慶は激しく頷いた。
その言葉に紅は大慌てした。
「慶、その話は本当か?大変失礼な事を!早くお迎えしなければ……」
紅は駆け足で**岩崎社**から外へ通り抜けた。白もすぐにその後を追う。
「し、白まで……」
慶は恐怖に震えながらも、嫌々ながら再び外に飛び出した。
外に出た紅は、誰もいない空間を見て立ち止まった。
「誰もいない……」。
そして、外にいた慶に向かって尋ねた。
「慶、本当にいらっしゃったのか?」
「兎に角、いたんだよ。信じて~。HELP ME~」
慶は半泣きで助けを求めた。
白は周囲の状況を説明する。
「『本日は狐の嫁入り**の際、参拝会場になる為、本日の一般参拝の方の立ち入りを禁止させていただきます』**と看板に書いてある。
警備をする人間も立っている……だから今日は岩崎社、静か……」
しばらく間を空け、訝しげに続けた。
「慶が怯える程の神様なはずなのに神気の気配も全く感じない。残滓すら感じない……」
「白、慶が言っていた話は本当だと思うよ」
紅は真剣な表情で言った。
「あの**御神様**ならそれ位、簡単だ。でも、何故、ここに……」
「その**御神様**は紅の何?」
白が問いかけた。
紅は、目を細め、静かに答えた。「恩人だよ。私に白と慶との出会いを与えてくれた」
「(恨めしい声で)私の足を掻くと幸運になるという嘘の噂を流した……神様は嘘ついちゃいけないんだぞ!」
慶は不満をぶつけた。
「そうか……私は会いたかった……。私も紅と慶と巡り合わせてくれたから……!」
白は、その神への興味を隠さなかった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




