巫女と二つ目の編みぐるみ
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店の奥から、呆然とした様子の雫が戻ってきたとき、入り口のドアが開いた。
「雫さん、お客さんです」
隣の煎餅屋の亀さんが、扉を抑えながら声をかけてきた。
「(不思議そうな声で)お客さん?」
「神社の巫女をされてる葵さんです。宮司さんの娘さんの……」
亀さんに促され、一人の女性が店内に足を踏み入れた。白い肌に、キリッとした眼差しを持つ、清楚な雰囲気の女性だ。
「こんにちは。私、鍋島 葵といいます。突然、お伺いして失礼します。(怪訝そうな声で)あなたが碧海さんですか?」
葵は、店の奥にいる神族の少女たちを一瞥し、すぐに雫に視線を戻した。
「え、はい。私が碧海です。今度、こちらのお店を商店街の方でオープンさせていただきます。宜しくお願い致します」
雫は、いつものようにややきょどりながらも、丁寧に応対した。
「今日は、碧海さんにお渡しするものがあって、こちらにお伺いしました。これです」
葵が差し出したのは、小さな包みだった。
「狐、……(非常に驚いた声で)狐の編みぐるみですか!?」
それを見た瞬間、店内にいた神族の少女たちから一斉に声が上がった。
祈里:「うえっ」
神那:「えっ」
美琴:「こ、これは……」
雫は、昨晩狸の編みぐるみが喋るのを見ていたため、全身に悪寒が走った。
葵は、店内の少女たちに視線を向け、静かに言葉を続けた。
「夢を見ましたの。あと、この四人の方……人間ではございませんね」
沙希は、その言葉に思わず身を縮めた。
「この"編みぐるみ"もまさか……」
沙希の言葉に、雫は再び店の奥にいる四人を振り返った。
「うっ、うーーーーーん」
雫は、混乱しすぎて言葉にならない呻き声をあげた。
「私は稲荷神社の宮司の血脈にあるもの。それぐらい分かります」葵は動揺することなく言った。「そして、私には夢見のチカラがあります」
「葵さんは何と夢で神様と話ができるんだよ」亀さんは、興奮気味に説明した。「宮司さんの家系の人の中に、たまにそういう力をもった人が生まれるって親父が言ってた。神様いうより予言者みたいな感じしか俺に分からないけど。今までも色々なことを当ててきてるんだよ。災害がおきるとか、商店街の誰かがケガしてるから早く救急に電話してとか……言われた事、全部当たってるんですよね。俺、神社の参道内にずっと住んでるけど、神様もあまり信じてなくて……(へへっ)。でも葵さんの話だけはマジであたるっすよ!」
亀さんの興奮を静めるように、葵は凛とした声で語った。
「亀さん、私は予言者ではありません。ウカノミタマ様やほかの神様たちが、私の夢の中に降臨されて、お告げをされていくのです。私はそれに従ってるだけ。そして、昨晩も私の夢の中にウカノミタマ様が現れました」
彼女は、静かに店内の扉を指さした。
「この門前商店街内にあるおとぎ前線が開かれた。だから、**これをそこにいる私の娘たちに渡しなさい……**と」
葵は、手のひらの上の小さな包みを見つめた。
「そして、この**"小さな狐の編みぐるみ"**が私の枕元にありました。だから、ウカノミタマ様の言われる通り、この編みぐるみをこの場所に持ってきました。それだけです」
「何か……可愛いすけど普通の"狐の編みぐるみ"すよね?葵さん?」亀さんが不思議そうに尋ねた。
「この皆様は何か分かる筈です。私が今回受けたお告げはこれをお渡しする。それだけです。それでは失礼します」
葵は、踵を返し立ち去った。亀さんは、一度軽い会釈をして、慌てて葵の後ろを駆け足でついていった。
静まり返った店内には、動かない雫と、狐の編みぐるみを凝視する四人の神族の少女たちだけが残された。
読んで下されば嬉しい限りです。
心機一転、無理せずマイペースで連載します。




