善神と悪神…角隠しの役割
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
命婦大神、美琴、沙希、亜都、稲穂の五名は、熱気の籠もる**衣装工場**の全体の様子を眺めていた。
沙希は、周囲の張り詰めた空気にのまれ、オドオドとしながら**美琴に尋ねた。
「こ、ここは衣装工場**なんですよね?」
「そうよ、沙希さん。どうかしたの?」
「祈里ちゃんと神那ちゃんは何処にいるのかな……と思いまして……」
美琴は淡々と答える。
「祈里さんは、この**衣装工場の奥の別室**で作業をしているわよ。」
彼女は少し声を潜めた。
「祈里さんが担当しているのは、新婦さんの衣装の中でも**特別な意味を持つ『角隠し』**を一人で作っているから。」
「**角隠し**って、あのお嫁さんが頭に被る白い帽子みたいなものですよね?」
「そうよ。白い帽子というのも、あながち間違っていないわ」と、美琴は解説した。
「人間の婚姻では最近、**『綿帽子』と呼ばれる『角隠し』**に似た帽子も被るから。」
沙希は、その特別な扱いに、さらに不安を覚える。
「別室で一人で作る程だから、美琴さんの言われる通り、何か特別な意味があるんですね?」
命婦大神は、静かにその深意を語り始めた。
「人間にとっては、現代では一種の魔除け的な役割になっていますが……。ですが、我々のような**狐神族や、沙希様と亜都様のような八百八狸、狸神族については、やはり深い意味**があります」
美琴が、さらに具体的な理由を付け加える。
「**『狐鬼』**になるから。」
彼女は説明を続けた。
「『狐鬼』は『妖狐』とも言われますが……。特に『狐の嫁入り』で婚姻をした**女衆の眷属は『角隠し』をして誓いをたてないと、新しい世帯主として『ウカノミタマ』様のご加護**がもらえないの。」
「詳しい仕組みは私も良く分からないけど……」
命婦大神は、さらにその背後にある神々の勢力争いに言及した。
「**『悪神』様達は常に『善神』**と呼ばれる神様達を目の敵にしておりますから。」
「その**『善神』様の眷属を、自分たちの、『悪神』様の眷属にすることは『悪神』様達にとっては至上の喜びになるわ」と、その危険性を説いた。
特に『ウカノミタマ』様をはじめとした善神**様の眷属なら、普通の人間を眷属にするより遥かに能力もあるのだという。
「『悪神』様の多くは眷属を持てない本来一柱としての存在として生まれます。ですので、正しくは眷属ではないですわね……。同じ感情を持つ者を引き入れ、自身の道具として使う。」
亜都は、その言葉に驚きの声を上げた。
「そ、それは……」
美琴は、再び婚姻の持つ意味へと話を戻した。
「婚姻をすることは、今までの家族から別の新しい家族になるってことでしょう」
「『ウカノミタマ』様のご加護は、その世帯ごとに世帯主が家族全員を加護するように授けられるもの」
彼女は、自分たちの狐神族の社会について説明する。
「『ウカノミタマ』様や**命婦大神様を見ていただければ分かるように、特に『ウカノミタマ』様の眷属である私たちは女衆が男衆より上の女性の世界**……。だから、お嫁さんが新しい世帯主となるのよ。」
「『狐の嫁入り』という名の通り、嫁の方が立場的に強くなる。」
美琴は、そこで少し小声になり、困ったように付け加えた。
「狸神族は男性が世帯主になるけど……私たちの世界は少し違うの。女性が男性を加護するというか……」
亜都が、自身の種族の現状を述べた。
「で、でも私たち、**八百八狸**の世界では、昔はそうだったみたいですが大分、変わりました。沙希様の御父上様の先々代様の時代からは……実力主義になったとか……」
**命婦大神**は、じっと沙希を見つめ、上品に笑った。
「おそらく、そう変化したのは沙希様がお生まれになったのが理由ではないのかしらね……」
沙希は驚きの声を上げた。
「わ、私が生まれたからですか?」
「私の憶測にすぎませんのでお気になさらず……」と、命婦大神は、それ以上は言わないという意思を示した。
美琴は、再び**「角隠し」の必要性へと焦点を戻す。
「兎に角、『ウカノミタマ』様のご加護がないと、何かしらの不幸にあった場合や、不義があった場合、『悪神』様の悲しみや妬みの力は私達を『狐鬼』**に変えてしまう。」
「その鬼にならないようにご加護をいただく為に必要なのが、祈里が作っている**『角隠し』**よ。」
「一度、世帯主として**『角隠し』を通してご加護を受けてしまえば、『狐鬼』**になることはないわ。」
美琴は、優しく微笑んだ。
「もうほとんどできてると祈里さんも言ってたから、みんなで別室に行ってみましょうか? 祈里さんは沙希さんが来るのを楽しみにしていたみたいだし……」
「は、はい。そ、その別室に行きます。私も祈里ちゃんに会いたい……。」
沙希は、オドオドした表情の中に、期待の色を滲ませた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




