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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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善神と悪神…角隠しの役割

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

命婦大神(みょうぶたいしん)美琴(みこと)沙希(さき)亜都(あと)稲穂(いなほ)の五名は、熱気の籠もる**衣装工場(いしょうこうじょう)**の全体の様子を眺めていた。

沙希(さき)は、周囲の張り詰めた空気にのまれ、オドオドとしながら**美琴(みこと)に尋ねた。


「こ、ここは衣装工場(いしょうこうじょう)**なんですよね?」


「そうよ、沙希(さき)さん。どうかしたの?」


祈里(いのり)ちゃんと神那(かんな)ちゃんは何処にいるのかな……と思いまして……」

美琴(みこと)は淡々と答える。


祈里(いのり)さんは、この**衣装工場(いしょうこうじょう)の奥の別室**で作業をしているわよ。」

彼女は少し声を潜めた。


祈里(いのり)さんが担当しているのは、新婦さんの衣装の中でも**特別な意味を持つ『角隠し(つのかくし)』**を一人で作っているから。」


「**角隠し(つのかくし)**って、あのお嫁さんが頭に被る白い帽子みたいなものですよね?」


「そうよ。白い帽子というのも、あながち間違っていないわ」と、美琴(みこと)は解説した。


「人間の婚姻では最近、**『綿帽子(わたぼうし)』と呼ばれる『角隠し(つのかくし)』**に似た帽子も被るから。」

沙希(さき)は、その特別な扱いに、さらに不安を覚える。


「別室で一人で作る程だから、美琴(みこと)さんの言われる通り、何か特別な意味があるんですね?」

命婦大神(みょうぶたいしん)は、静かにその深意を語り始めた。


「人間にとっては、現代では一種の魔除け的な役割になっていますが……。ですが、我々のような**狐神族(きつねがみぞく)や、沙希(さき)様と亜都(あと)様のような八百八狸(はっぴゃくやだぬき)狸神族(たぬきがみぞく)については、やはり深い意味**があります」


美琴(みこと)が、さらに具体的な理由を付け加える。

「**『狐鬼(きつねおに)』**になるから。」


彼女は説明を続けた。

「『狐鬼(きつねおに)』は『妖狐(ようこ)』とも言われますが……。特に『狐の嫁入り(きつねのよめいり)』で婚姻をした**女衆(おんなしゅう)の眷属は『角隠し(つのかくし)』をして誓いをたてないと、新しい世帯主として『ウカノミタマ』様のご加護**がもらえないの。」


「詳しい仕組みは私も良く分からないけど……」

命婦大神(みょうぶたいしん)は、さらにその背後にある神々の勢力争いに言及した。


「**『悪神(あくしん)』様達は常に『善神(ぜんしん)』**と呼ばれる神様達を目の敵にしておりますから。」


「その**『善神(ぜんしん)』様の眷属を、自分たちの、『悪神(あくしん)』様の眷属にすることは『悪神(あくしん)』様達にとっては至上の喜びになるわ」と、その危険性を説いた。

特に『ウカノミタマ』様をはじめとした善神(ぜんしん)**様の眷属なら、普通の人間を眷属にするより遥かに能力もあるのだという。


「『悪神(あくしん)』様の多くは眷属を持てない本来一柱としての存在として生まれます。ですので、正しくは眷属ではないですわね……。同じ感情を持つ者を引き入れ、自身の道具として使う。」

亜都(あと)は、その言葉に驚きの声を上げた。


「そ、それは……」

美琴(みこと)は、再び婚姻の持つ意味へと話を戻した。


「婚姻をすることは、今までの家族から別の新しい家族になるってことでしょう」


「『ウカノミタマ』様のご加護は、その世帯ごとに世帯主が家族全員を加護するように授けられるもの」

彼女は、自分たちの狐神族(きつねがみぞく)の社会について説明する。


「『ウカノミタマ』様や**命婦大神(みょうぶたいしん)様を見ていただければ分かるように、特に『ウカノミタマ』様の眷属である私たちは女衆(おんなしゅう)男衆(おとこしゅう)より上の女性の世界**……。だから、お嫁さんが新しい世帯主となるのよ。」


「『狐の嫁入り(きつねのよめいり)』という名の通り、嫁の方が立場的に強くなる。」

美琴(みこと)は、そこで少し小声になり、困ったように付け加えた。


狸神族(たぬきがみ)は男性が世帯主になるけど……私たちの世界は少し違うの。女性が男性を加護するというか……」

亜都(あと)が、自身の種族の現状を述べた。


「で、でも私たち、**八百八狸(はっぴゃくやたぬき)**の世界では、昔はそうだったみたいですが大分、変わりました。沙希(さき)様の御父上様の先々代様の時代からは……実力主義になったとか……」

**命婦大神(みょうぶたいしん)**は、じっと沙希(さき)を見つめ、上品に笑った。


「おそらく、そう変化したのは沙希(さき)様がお生まれになったのが理由ではないのかしらね……」

沙希(さき)は驚きの声を上げた。


「わ、私が生まれたからですか?」


「私の憶測にすぎませんのでお気になさらず……」と、命婦大神(みょうぶたいしん)は、それ以上は言わないという意思を示した。


美琴(みこと)は、再び**「角隠し(つのかくし)」の必要性へと焦点を戻す。


「兎に角、『ウカノミタマ』様のご加護がないと、何かしらの不幸にあった場合や、不義があった場合、『悪神(あくしん)』様の悲しみや妬みの力は私達を『狐鬼(きつねおに)』**に変えてしまう。」


「その鬼にならないようにご加護をいただく為に必要なのが、祈里(いのり)が作っている**『角隠し(つのかくし)』**よ。」


「一度、世帯主として**『角隠し(つのかくし)』を通してご加護を受けてしまえば、『狐鬼(きつねおに)』**になることはないわ。」

美琴(みこと)は、優しく微笑んだ。 


「もうほとんどできてると祈里(いのり)さんも言ってたから、みんなで別室に行ってみましょうか? 祈里(いのり)さんは沙希(さき)さんが来るのを楽しみにしていたみたいだし……」


「は、はい。そ、その別室に行きます。私も祈里(いのり)ちゃんに会いたい……。」

沙希(さき)は、オドオドした表情の中に、期待の色を滲ませた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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