狐の嫁入り、初めての試み…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
時刻は深夜一時頃へと差し掛かろうとしていた。
新郎**創思の小さな祠から、眷属男性**と共に四人は外へと出てきた。
「沙希様も亜都様もいかがでしたか? 祠の中は?」
命婦大神が問いかける。
沙希は、その光景が信じられないといった様子で、オドオドしながら答えた。
「祠の中があんなに広いなんて、驚きでした」。
「私は何故、稲荷神社に祠が沢山あるのか意味がわかりました」
亜都は納得したように頷いた。
命婦大神は、たおやかに微笑んだ。
「少しでも狐神族の事を知っていただけましたら、これ幸いですわ。では、次は女方がいる場所へ行きましょう。祈里達が沙希様をお待ちしているようで」
彼女は眷属男性に向き直り、労いの言葉をかける。
「あなたはご苦労でした。作業に戻りなさい」
「承知しました。命婦大神様」
眷属男性は深々と頭を下げ、夜の闇へと戻っていった。
「それでは、女衆の方へ行きましょうか?」
命婦大神は再び三人を導く。
「女衆の主な作業は、針の仕事が主ですわね。花嫁衣装は優に及ばず、花婿衣装、**従者の衣装など様々……。あとは神那のように男衆**の作る家具類などの細工を作るものが得意なものもおりますわね」。
三人は命婦大神に連れられて、再び奥の院の別の場所にある小さな祠の前に到着した。
命婦大神は、扉の前で静かに呪文を唱える。
「オン・キリカク・ソワカ」
次の瞬間、稲穂、沙希、亜都の目の前の光景は一変した。そこは、まるで人間の**縫製工場**のような場所で、たくさんの眷属女性達が黙々と作業に集中していた。
「はい。分かりました。ありがとう。では、そのまま作業を続けてください」
工場の正面、帳面をつけている**美琴**の姿があった。彼女に話しかけていた眷属女性が、一礼して持ち場へと戻る。
「美琴さん、衣装部の進行状況はどうですか?」
命婦大神が美琴に声をかけた。
美琴は顔を上げ、四人の訪問者に気づいた。
「命婦大神様、おいでくださったのですね。それに沙希さんも、亜都ちゃんも、稲穂ちゃんまで」
沙希は、周囲の少女たちの真剣な熱気に驚いた様子だった。
「み、美琴さん? この場所は凄い熱気ですね。みなさん、とても真剣で……」
「沙希様、この衣装部が**『狐の嫁入り』の要といっても過言ではない重要な部署ですの」
命婦大神は力を込めて言った。
彼女は一呼吸置くと、悔しさを滲ませる声色で続けた。
「今回はあの例の『おとぎ前線』がこじ開けられている件で、『ウカノミタマ』様と、あの夢見の巫女との間で、昼間の人間が大勢いる時間に特別に人間と混じって、この『狐の嫁入り』**を行うことが決まりました。これはこの稲荷神社が建立して初めての由々しき事態ではありますが……。全て偉大な『ウカノミタマ』様がお考え決められたこと故……」。
美琴は、その理由を補足した。
「私たちも今回の**『狐の嫁入り』は『前線カフェ』の方で厳重に『おとぎ前線』からの侵入者が来ないかの監視をしなければいけないから、当日はかなりの数の男衆もお客様**のフリをして、お店付近を見張ることになっているの」
彼女はそこで言葉を区切り、深刻な表情になった。
「こじ開けられていると言っても通れるのは、私たち、『ウカノミタマ』様眷属か**神気を持つ方だけだから」
そして、憂慮の念を滲ませる。
「もし……神気を持つ悪神**様なら、私たちでも手が付けられない場合があるのよ」。
その言葉を聞いた亜都は、今回の異常な事態の核心を理解した。
「だからこその、昼間で人間達に混ざっての**『狐の嫁入り』**なんですね」
「あ、亜都ちゃん?」
稲穂は、二人の会話がどう繋がるのか分からず、しばらく間を空けてから尋ねた。
「何故、こじ開けられている**『おとぎ前線』の件と人間達と混じっての『狐の嫁入り』**が関係があるの?」
「それは私が説明するわね」
美琴が優しい声で言った。
「あのこじ開けられた**『おとぎ前線』を通れるのは、『ウカノミタマ』様の眷属か神気を持つ神様達だけ。眷属のみんなは勿論、問題ないけど、もし、神気をもつ神様**が来た場合でも……」
「場合でも……なんですか?」
稲穂は、前のめりになって続きを促した。
命婦大神が、その場で結論を述べた。
「神の名を持つものは、例え**悪神**であろうと人間には直接、力を及ぼせないよう、古来からの約束事があるの」
彼女は静かに、しかし力強く言った。
「つまり、今回は逆に人間達が混ざっているから、直接的な邪魔はできなくなる。勿論、**神気**のない他の神様の眷属は何かしらの手出しはできるけど……」
「それは外からしか侵入できないから、**男衆が未然に防ぐつもりよ。だから、『おとぎ前線』からの悪神様の眷属の侵入はできない。だからこそ、人間達に紛れて、『狐の嫁入り』**を行う方が安全だと……」
命婦大神は、静かに話を締めくくった。
「それが、この回の『ウカノミタマ』様の御考えよ」。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




