新郎『創思』と試練
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
命婦大神、沙希、亜都、そして**稲穂の四人は、眷属男性に案内され、新しく作られている小さな祠**へと歩みを進めた。
「こちらが、今度の婚姻する者の新居です」
眷属男性は、彼らの目の前にある**祠**を指し示した。
沙希は驚きの声を漏らした。
「本当に小さな**祠**なんですね?」
「見た目と中は違いますから……」
眷属男性はそう答えると、一度、**命婦大神**の顔色を伺った。
命婦大神は静かに頷いた。「今日は特別です。中にご案内しなさい」
「仰せのままに。では……お客様の**御二方**はこちらへ」
眷属男性が、沙希と亜都を招き入れた。
亜都は、同行しない**稲穂**を見て、戸惑う。
「い、稲穂ちゃんは?」
「私はいいわよ。見慣れてるから……」
稲穂はそっけなく答えた。
しかし、沙希が稲穂の隣に寄り、優しく言った。
「亜都ちゃんも心配してるから、稲穂ちゃんも付いてきて」
「さ、沙希様……」
亜都は感激した声を上げた。
眷属男性は、再度**命婦大神に確認を取る。
「命婦大神**様、宜しいでしょうか?」
「今日は特別だと言ったはずですよ」
**命婦大神**は、その言葉を繰り返した。
「おおせのままに。では、稲穂も付いてきなさい」
眷属男性は**稲穂**に命じた。
**稲穂**は礼儀正しく返事をした。「はい。分かりました」
眷属男性が、新しくできた**祠の小さな扉を開くと、四人はまるで吸い込まれるように祠**の中へと入っていく。
**稲穂**は、二人が驚くのを防ぐためか、先に声をかけた。
「最初に見て驚いてると思うから、沙希さんも亜都ちゃんも、私の手を握って」
稲穂が両手を前に差し出すと、沙希と亜都は、それぞれその手を握った。
「それじゃあ、**祠の中に入るね」
稲穂**は、しばしの間を置いてから、呪文を唱えた。
「オン・キリカク・ソワカ」
三人の目の前の光景は、突然、一変した。そこは、小さな**祠の外観からは想像もできないほど広い空間で、眷属男性**たちが住宅工事をしている作業光景だった。
眷属男性は、誇らしげに言った。
「ようこそ。こちらが今回、『狐の嫁入り』の新郎」
眷属男性が、同じ位の若い**眷属男性**を連れてきたが、その男性は三人の姿を見てキョトンとしている。
「**命婦大神様より、『ウカノミタマ』様の大事なお客様の御二方**だ」
眷属男性は新郎に説明した。
「稲穂はおまけだな」
その言葉を聞いた**稲穂**は、バシッと眷属男性のふくらはぎを蹴りつけた。
「痛っ! やりやがったな。このお転婆娘!」眷属男性は痛みに顔を歪めた。
**稲穂は抗議の声を上げる。
「私は、こちらの『ウカノミタマ』様の大事なお客様の御二方と仲が良いのよ。命婦大神**様が今、ここにいないからと言って態度が変わりすぎ!」
眷属男性は、呆れたように言い返した。
「美琴さんのところで修行中なんだろう。どう見ても修行してる気がないぞ」
「あ、あの……」
沙希が慌てて割って入った。
「し、失礼しました」
眷属男性は体勢を立て直し、場を取り直して説明を始めた。
「では、この者が今回、『ウカノミタマ』様より**『狐の嫁入り』の試練を受けて乗り越えた新郎の創思**と言います」
新郎は戸惑いながら挨拶した。
「**創思**と申します。えーっと……」
「こちらの方が**沙希様、そして、こちらが亜都様だ」
眷属男性は、さっと創思に近づき、耳元でささやいた。
「伊予の国の『隠神刑部』様の**姫君お二人だからな……」
「わ、分かった……」
**創思**もささやき返したが、驚きを隠せない。
「しかし、偉い大物が何故、こんな場所に……」
「俺にも分からん」眷属男性は苦笑いした。
「ただ、この沙希様は、美琴さんや祈里と神那と最近、一緒にいる子だぞ。まさかお姫様だと分からなかったが……」
**創思**は状況を理解しようと努める。
「何か理由があるんだろう。『ウカノミタマ』様の大事なお客人なのだから……。粗相はしないつもりだよ」
眷属男性は、無言で頷き、**了解**の意思を示した。
創思は、沙希と亜都に向き直った。
「沙希様、亜都様、狭い家で作りかけで申し訳ございません。私、これでも狐神族の大工をしておりますので、自分で自分の家を作る日が来ようとは……」
彼はハハハと苦笑いを漏らした。
亜都は尋ねる。
「**創思様、『狐の嫁入り』**の試練を乗り越えたと聞きましたが……」
「お互い生涯、この身が果てるまで思い続けれる覚悟を試す試練になります」
創思は真剣な眼差しで言った。
「試練というか……、『狐の嫁入り』を受けると『ウカノミタマ』様へお願いした時から千日、お互い会うことも話すことも禁じられます」
沙希は驚きの声を上げた。
「千日もですか……」
「勿論、同じ**稲荷神社**の山の中に住んでる者同士、偶然、会おうことはありますが、近寄ることも話すこともできなくなるように……」
創思は、手のひらに乗せた赤い小さな鈴がついた紐を、**沙希と亜都**に見せた。
「この紐はつけた者同士の**認識阻害をするものです。お互いがお互いを認識できなくなるんです」
創思は説明した。
「この赤い小さな鈴がついた紐は力ずくでも取れませんが、どちらかが不義を働くと砂と変わり**、千日経過すると自然に切れ婚姻の証となる。私と**亜依。私の嫁となる者の名ですが、無事、千日経過し試練が成就**したのです」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




