狐神族、男衆の仕事
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
時刻は深夜零時頃。
命婦大神の優雅な足取りに続き、沙希、亜都、稲穂の三人は、夜の奥の院周辺を歩きながら**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**の準備について説明を受けていた。
「もう少し進みますと、眷属の殿方、**男衆**が準備をする場所になります」と、命婦大神は告げた。
彼らの視線の先には、数名の男性の**狐神族**が、それぞれが持つ槍、品箱、傘を一箇所に移動させる作業に追われていた。
沙希はオドオドしながら尋ねた。「男性の方は数が少ないんですか?」
「**男衆**は、傘持ち、槍持ち、品持ちの役を拝命していますので、大半の作業は当日が多く、物に不備や壊れている部分がないかの確認をしているものしかおりませんね」
命婦大神は話し、「おい、そこの者」と、近くにいた一人の若い男性眷属に声をかけた。
一人の**狐神族**の若い男性が、足早に近づいてきた。
「こちらにおわす**御二方は、『ウカノミタマ』様の大事なお客様です。
伊予の国の『隠神刑部』様の**姫君であらわれます。『狐の嫁入り』にご興味があり見学に来られていらっしゃる」
命婦大神は彼に命じた。
「男衆**の仕事の説明をしなさい。決して粗相のないように」
若い男性眷属は恭しく答えた。
「はい。こちらは**『狐の嫁入り』の行列に参列する男たちが、それぞれが持ち歩く物の確認をする場所です。今年は一組**しかおらず、回数も少ないので大半の者は準備が終わっておりますが、何組もの婚姻がされる場合は物の量も多いです。一番重大な役目を持つものが傘持ち、次は槍持ち、そして、あとは女衆が作った嫁入り道具を持つ者、残りは提灯を持つ者になります」
亜都は尋ねた。
「他の手の空いている方は女衆の方のお手伝いとかはされていないのですか?」
「勿論、しておりますよ。**嫁入り道具の中には木製や鉱物で作った家財道具も沢山ございますので……あとは新しい夫婦の為の新しい祠**を作っているものがおります」
男性眷属は、周囲にある名もなき小さな**祠**の一つを指さした。
「この場所には沢山の小さな**祠があるのをお見かけになりませんでしたか? この一見、小さい祠**に見えるもの全てが我々、『ウカノミタマ』様の眷属が住む家になります」
亜都は稲穂に目を向けた。
「稲穂ちゃんのお家も、この神社内の**祠**の一つなの?」
「そうよ。私の家は**岩本社の近くにあるの」稲穂は答えた。
「ただ、『手に負えない』と親どもから美琴さん、祈里さん、神那さんの三人のところに行くことになったから……。私、自分でいうのもなんだけど、こんなに良い子なのに……」
彼女は寂しそうに続けた。
「だから今の私の家はあの『前線カフェ』**」
「**良い子**ね……」
命婦大神は呆れた声を出した。
「眷属の子供たちの中心になって、一番悪戯ばかりしていたのは誰でしょう?」
稲穂は焦り声で「ははははは……」と愛想笑いを浮かべた。
亜都は庇うように言った。
「命婦大神様、稲穂ちゃんは優しいし、とても楽しいことを話してくれる私にとっては**親友**です。だ、だから……」
「亜都様、ご心配なさらず」
命婦大神は微笑んだ。
「確かに一番悪戯ばかりしておりましたが、小さな子供の悪戯ばかりで度を超えたことはしておりませんよ。勿論、眷属の長のわたくしから見ても、次世代の『ウカノミタマ』様としての器……つまり、次世代のわたくし……つまり**命婦大神として、多くの狐神族の者達のお手本とならなければなりません。だからこそ、若い内から修行をする為に、あの人間の住まう場所……『前線カフェ』**のある場所へと連れて行かれたのです」
沙希は驚きを隠せない様子だった。
「い、稲穂ちゃんは本当は凄い子なんだね?」
亜都は、沙希の言葉に戸惑いながら言った。
「あの……それは**沙希様**がいうべきお言葉では……。それに凄いのは美琴様ということになりますね?」
「美琴はよくやってくれています」
命婦大神は少し遠い目をした。
「本来ならもう**一名、『次世代の筆頭』**と呼ばれる者がおりましたが……。身内の問題なものですので……。いつかお話をする時が来るかもしれませんね」
彼女は間を空け、厳しい表情で稲穂を見た。
「このままだと、稲穂も、**その者と同じこと**をするやも知れません。そうならない為にも厳格に指導をしているのです」
亜都は、稲穂の手をそっと握った。
「稲穂ちゃんも、大変なんだね……。これからも一緒に頑張ろうね」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




