狐神族、眷属達の役目…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
場所は稲荷神社奥の院周辺。時刻は深夜十一時三十分頃。
一同は**「おとぎ前線」**を通り抜け、社通しを使って一気に奥の院へと到着した。周囲は濃い闇に包まれている。
到着するやいなや、祈里は元気いっぱいに手を振った。
「沙希ちゃんも、亜都ちゃんも、またしばらくしたら会おうね♪ 稲穂ちゃんもだよ!」
祈里はそう言い残し、暗闇の中へと姿を消した。
亜都はオドオドしながら、命婦大神に尋ねる。
「あ、あの……祈里ちゃんは?」
命婦大神は、たおやかに答える。
「祈里は新婦の嫁入り道具を準備しておりますわ。
嫁入り道具と言っても、この山全体から採れる鉱物や植物を使って、昔ながらの全て手作業で作っておりますから、時間がかかりますのよ。神那?」
「はい! 命婦大神様」
「祈里は何を作る担当だったかしら……」
「祈里は**花嫁衣裳を作る担当で、『角隠し《つのかくし》』**を一人でつくっております」神那が答える。
命婦大神はフフッと軽く思い出し笑いを漏らした。
「そうだったわね。作業は眷属の中ではとても遅いけど、仕事は意外と丁寧なのよねぇ、あの子は……。神那、あなたは**『和箪笥』の装飾作り**でしたわよね」
「はい。覚えていてくださって光栄です」
神那は恭しく応じた。
亜都が、もう一人の名を挙げた。「では、美琴さんは?」
命婦大神は静かに、しかし威厳を込めて語り始めた。
「彼女は『ウカノミタマ』様の眷属とはいえ、わたくしと同じく神気を持つ立場。ああみえても次世代の『ウカノミタマ』様の称号を得るに近い者なんですのよ。普通は、あちらの神那や祈里を指導する立場の者。まるでお友達のように振舞ってますから、そろそろ気を引き締めて指導者としての威厳を見せないと……」
そして、視線を稲穂に移した。
「稲穂?」
稲穂は、その威圧感にやや恐怖におびえた声で「は、はい!」と返事をした。
「あなたが美琴の指導を受けているのも、美琴が次世代の『ウカノミタマ』様の称号を得たその時に、最も近くにいる忠実な側近の一人として、役に立てるようにとの『ウカノミタマ』様の御気持ちの顕れなのですから、ちゃんと精進するのですよ!」
「分かりました……」稲穂は、恐怖におびえた声色でか細く答える。
命婦大神は満足げに頷いた。
「では、御二方、一つご案内いたしまわね。稲穂もわかりましたね!」
「はい。御付きします」
稲穂はいじけ気味に答えた。
そんな稲穂の様子を、亜都は心配そうに見つめ、彼女に近づき耳元でささやいた。
「本当にごめんなさい。こんな事になるとは思わなかった。稲穂ちゃんが退屈そうだからという気持ちで、祈里さんにお願いしただけなのに……」
稲穂も耳元でささやき返した。
「いいのよ。どちらにしろ、いつかは私もこの場所に来なければならなかったから……。少し早まったけど……勉強になってるから……。亜都ちゃんも謝らないで。大丈夫……ちゃんと今晩は黙ってついていくよ」
「わ、分かった。でも、本当にゴメンね」亜都は申し訳なさそうに言った。
ひそひそ話をする二人に、沙希が近づいてきた。彼女はオドオドしながら声をかける。
「稲穂ちゃん、亜都ちゃんも、はやく命婦大神様のあとについていこうよ」
「は、はい。申し訳ございませんでした、沙希様。稲穂ちゃんも行こう」
亜都は慌てて応じ、稲穂を促した。
「うん。分かった」稲穂は小声で答えた。
亜都と稲穂のやり取りを見ていた命婦大神は、一瞬稲穂に厳しい視線を浴びせたが、すぐに平常の表情に戻した。
「さあ、沙希様と亜都様の御二方様、こちらへ……。まずは、もう婚姻の日に近いので、余りいないとは思いますが、狐神族の殿方の集まる場所へ向かいましょう」
「殿方……。男性の方ですね。私、『ウカノミタマ』様の眷属は女性しか見たことなくて……」
亜都は驚いた。
「そうですね……。余り殿方は稲荷神社内にはいらっしゃいませんね」
命婦大神は頷いた。
「それぞれの摂社を守る者以外は、近隣の神社の眷属達が勝手に侵入しないように、結界周辺にまんべんなく警護はしておりますのよ。ただ、最近は……」
亜都は心配そうに身を乗り出した。
「さ、最近は……何かあるんですか?」
命婦大神はフフッと軽く思い出し笑いを浮かべた。
「猿に手を焼いております」
「さ、猿ですか?」
「参道にある商店街なる人間が集まる場所に餌を狙いに……。こちらは本来は**猿田彦様の管轄なので、我々は何とも言えませんが……。まだ、被害も小規模ですし……。おそらく、参道に人が少ないので餌**を狙う機会が増えたからなのでしょうね……」
命婦大神は、優雅な足取りで、三人を導いて闇の中を歩き出した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




