『嫁入り』と呼ばれる理由…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
オープンから二ヶ月弱が経過した六月後半、相変わらず小雨がぱらつく午後。
いつものテーブルの椅子に、稲穂と亜都が座っていた。そして、その周りを、美琴、神那、祈里、沙希の四人が囲んでいる。
亜都は、先ほどの会話で引っかかった点を尋ねた。
「何故、**『嫁入り』**なんですか? 普通に『狐の結婚』とか『狐の婿入り』とかはないんですか?」
美琴は、当たり前のように答えた。
「狸神族にもあるでしょ? 『狸の嫁入り』?」
亜都は何かを思い出し、小さく声を上げた。
「あ、ありますね! 『狸の嫁入り』も……」
「狸神族と基本は一緒よ」
美琴は説明を続けた。
「ただ、『嫁入り』と強調しているのは、お婿さんが必ずしも狐神族ではないからよ……。人間と恋をして、『ウカノミタマ』様の試練を乗り越えれば人間として生きていった狐神族もいるし、その逆で人間から狐神族になった眷属もいる……、そして、奇跡に近いけど神様に見初められるものもいるの……。だから、『嫁入り』」
祈里は瞳を輝かせた。
「さ、さすが〜♪ 美琴さん! 私、今まで知らなかった」
彼女はヘヘッと愛想笑いを浮かべた。
「祈里、あんた本当にお馬鹿!」神那が呆れた声を出す。
美琴は祈里の言葉は無視し、真面目な顔で続けた。
「**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』は、一般的には人間が寝静まっている時間、そして『おとぎ前線』が開かれる日で、なおかつ『大安の日』**に行われるんだけど、その闇夜に私たち狐神族の眷属がもつ篝火が連なっているのを人間達が遭遇することがあるのよ。だから、数百年の長い時間をかけて噂が広まったのね」
亜都は、もう一つの疑問を投げかけた。
「あの……もう一つ。お日様がでているのに、にわか雨が降ることも**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**って言いますよね? それは、どうしてですか?」
「それは美琴さんじゃなくて、私が説明しようか?」
神那が名乗りをあげた。
しかし、祈里が割り込んだ。
「いやいや、それは私がするよ! 私も出来る眷属であることを知ってもらわなくちゃ」
「出来る眷属ね……」
神那は呆れた声色になった。
祈里は気にする様子もなく、自信満々に話し出した。
「つまりね……。つまりこういう事よ。え〜っと、もし**『おとぎ前線』が開く日が日中で大安での場合……。その時の『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』は昼に行うけど……。でも、その場合は人間達に私たち眷属の姿が見られてしまう可能性があるから、『ウカノミタマ』様が眷属の姿を人間達に見えないようにする為に、普段は結界に使われている御力を眷属の『嫁入り』**の為に使われる」
彼女は力を込めて、話を続ける。
「だから、近所の悪い奴らが嫌がらせに、弱くなった結界の時ににわか雨を降らせて邪魔しようとする! どう? 当たってるでしょ、私の説明?」
神那は冷ややかに訂正した。
「半分は本当で、半分は祈里のなんちゃって創作話ね。本当はにわか雨じゃあない。**『天神』の眷属による雷雨**よ! 『ウカノミタマ』様の弱った結界でにわか雨程度におさえこまれてるだけ……」
沙希はオドオドした声色で尋ねた。「て、**『天神』**様の眷属って……」
神那は、その神様について説明した。
「『天神』様は偉大な御方よ。『火雷天神様』が正式な御名前ね。昔、何かの理由で『菅原道真』という人間になっていた頃があって、以前一度、『ウカノミタマ』様にお会いに来られた時にお見かけしたけど至極、丁寧な方だったわ」
「その人間だった時の功績から**『学問の神様』といわれてるけど、本当は『雷神』様よ。『雷神』様や『風神』**様の眷属は皆、好戦的なの。元来、戦神だから……」
沙希は、さらに恐る恐る尋ねた。「その方たちは『ウカノミタマ』様に何か恨みがあるのでしょうか?」
「違う違う。恨みも辛みもない」
神那は苦笑いをした。
「本人達にとっては、ただの絶好の力試しの機会らしいわ。今、話したことの大半は**『命婦大神』様の受け売り**だけどね。でも、本当に嫌な奴だよね」
亜都は、恐る恐る尋ねた。「で、では……『狸の嫁入り』の時に雪が降るのは……」
神那は考え込むように言った。「おそらくだけど……、それは**『雷神』様じゃなくて『風神』**様の眷属達が同じことをしてるんじゃないのかな……。隠神刑部様に対して……」彼女は苦笑いをした。
「な、なんとなくそんな気がしてきました……」亜都は、全てを察したように呟いた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




