幕間 狐の嫁入り
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
閑話 狐の嫁入り
場所は佐賀県鹿島市の前線カフェ内。オープンから二ヶ月弱が経過した六月後半、梅雨の時節である。
店内のテーブルには、子狐の姿をした稲穂と、子狸の姿をした亜都が、あみぐるみの姿で座り、会話していた。
稲穂はふうっと大きなため息をついた。その様子は、状況に対する諦めと疲労感を滲ませていた。
「また、雨……。暇~」
亜都は窓の外を見つめながら、残念そうな声を出した。「そうね……暇。でも雨でも、この暇は関係ないような……。何で、こんな雨の日でも大盛況な場所があるでしょう?」
「あ~~~。確かにあるね……『ハートの御殿』」稲穂は、ふふふ、と冗談ぽく笑った。それは岩崎社の摂社(現在は縁結びの超絶パワースポット)のことを指している。
「この**『前線カフェ』も同じくらい、いや、もっと繁盛したらな……。店長が『七福少女えびすちゃん』**の課金アイテムを沢山ゲットしてくれるのにさ!」
亜都は苦笑した。
「それって、稲穂ちゃんがハマってるスマホゲームね!」
「そうそう!」稲穂は前のめりになった。「なかなかスーパーレアアイテムが出ないのよ! 今、一番欲しいアイテムは**『エステルカリバー』。私は中距離攻撃型のエステルを中心に育ててるからね。でも、いつも、小ボスのムジナにやられっ放し。でも、課金しまくって、『エステルカリバー』**さえ手に入れば……」彼女はクックックと企み笑いを漏らした。
亜都は、稲穂の純粋な**『欲』**の前に、呆れではなく微笑を浮かべた。「稲穂ちゃん、楽しそうだね」
「ほら、亜都ちゃんは毎夜、沙希さんと力の覚醒の修行しているでしょ。その時が暇なのよ!」稲穂は頬を膨らませた。
「お客様でも来れば別だけど……。特に良くオバちゃん達は私大歓迎! 『や~らしかね~』って、褒めてくれるもん。私、ここのお仕事は好きだからね!」
「で、でも……」
亜都は心配そうに尋ねる。「稲穂ちゃんも祈里さんや神那さん、美琴さんに毎夜、『ウカノミタマ』様の眷属としての指導を受けてるんでしょう?」
稲穂は、鼻を鳴らすように、少し馬鹿にした風な声を出した。
「指導ね……。今は三人とも私の指導どころじゃないみたいで、お休みなんだよね……」
「お休みなの? 修行はお休みなの稲穂ちゃん……」亜都は意外そうに聞き返した。
「そう……今、三人は毎夜、**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**の準備をしているから……」
二人はいつものテーブル上から、門前商店街の外の様子を見つめた。外は小雨がばらつき、客の姿は全くない。
「**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**って何?」亜都は首を傾げた。
「**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**っていうのはね」
その時、急に背後から声がかけられ、稲穂と亜都は「わっ」と驚きの声を上げた。二人が振り返ると、そこには神那、美琴、祈里、そして沙希の四人が立っていた。
「二人とも、ゴメンね。驚かせてしまって……」|
美琴はすぐに優しく謝罪したが、その直後、少しお叱りの声色で神那に目を向けた。
「神那さん!」
神那は反省の声を出し、頭を下げた。
「美琴さん、すいません……」
祈里はいつものほほんとした様子で尋ねる。
「二人もどうかしたの?」
沙希もオドオドしながら、心配そうに声をかけた。
「どうされたんですか? 亜都ちゃんもとても驚いて……」
「私が亜都ちゃんに**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**について、急に声をかけたら、二人も驚いちゃって……」
神那が状況を説明した。
「へーっ。亜都ちゃんは**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**は知らないんだね~♪」
祈里は楽しそうに言った。
「い、祈里ちゃん、私も知りません」
沙希が恐る恐る告げた。
祈里は自信満々だ。
「いや、その名の通りだよ。狐が嫁入りするから**『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**♪」
美琴は焦りの色を隠せず、訂正する。
「た、確かに祈里ちゃんの言う通りではあるんだけど……」
彼女は真面目な顔で説明した。
「この時期に私たち、『ウカノミタマ』様の眷属である狐神族内の恋人同士が一斉に結婚式をあげるのよ。合同結婚式ね。バラバラに行うと収集がつかなくなるから……」
「へ~~~え♪」
沙希は目を丸くして驚きの声を上げた。
神那は、付け加えるように説明を続けた。「それで、この時期は**『命婦大神』様……。ちなみに『命婦大神』様というのは、私たち『ウカノミタマ』様の眷属達の総取締役をされている大神様の事だけど……。その『命婦大神』様より、婚姻の儀式を受けて一人前の眷属として認められた者だけが許可を得て、『狐の嫁入り《きつねのよめいり》』**をするのよ」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




