神様の気
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バタリと、雫が逃げ帰った出入り口の音が響く。外で亀さんと話していたはずの雫は、覚悟を決めたように、あるいは諦めたように、再び店内に戻ってきた。
神族の少女たちは、昨夜のままの姿で店内にいた。祈里はすぐに顔を輝かせる。
「おはようございます。どこに行ってたんですか?」
雫は、唸るような息を吐くだけで、ほとんど言葉にならなかった。
「…………」
「すいません。昨日は驚かれたとは思うんですけど……大丈夫ですか?今更ですが、お名前をお伺いしても……」
美琴が、落ち着いた大人の女性として、静かに雫を気遣った。
「碧海、碧海と言います。昨日のことは夢だと信じたかったんですが、大家さんが言っていた……その……」
雫は、彼女たちの存在そのものが、現実を突きつけていることを悟っていた。
「"おとぎ前線"……」神那が、冷ややかな声で言葉を引き取った。「私たちは扉の先にある"おとぎ前線"を通ってこの場所に来ている。普通なら日が昇る頃には前線は閉まるはずだけど、不思議。この時間になっても閉まらない。それどころか、私たちもこの姿でいられている……何故?」
「かんな~あ、いいじゃない」祈里は、神那に甘ったるい声で絡みついた。「ここでも、この姿でいられるから。うんうん、沙希ちゃんも嬉しいよね」
「はい!」沙希はオドオドしながらも、喜びを隠せなかった。「お日様が昇ってるこの場所見るのはじめてだから……」
「昨晩の凄い**神気**が、ずっとこのお店全体を包み込んでいる」美琴は、周囲を見渡し、冷静に状況を分析した。「この神気の影響で、このお店内なら、いつもの姿でいられるみたい」
雫は、大家から教えられた言葉を反芻した。
「大家さんが言ってたことは信じることにしました。その神気って何ですか?」
「神気っていうのは、そのまま**”神様の気”**」美琴は続けた。「どこの神様か分からないけど、この場所にあるおとぎ前線を強引にねじ開けたままにしている。普・通・の・神・様じゃできない。ウカノミタマ様、つまり、最低限、お稲荷様位の力でないと、おとぎ前線をねじ開けることなんてできない。それにおとぎ前線がねじ開けられてることをウカノミタマ様は気付いてるけど、そのままにしてるみたい」
雫は、静かに背筋が凍るのを感じた。
「それじゃあ、そのおとぎ前線が開けられた状態なんですね。あ、危なくないんですか?」
「そうね……何か意図があって、このままにしてあるんだと思う。でも理由は分からない……」神那は、警戒を緩めない。「兎に角、私たち4人は、ウカノミタマ様が何もされてないから、この"おとぎ前線"がこじ開けられてる状態を見守ることしかできない」
「まさか、このお店に居続けることですか?」雫は、恐る恐る尋ねた。
「う~ん、簡単に言うとそうね」神那は腕を組んだ。「それに誰がこの現象を起こしているのか……。まず、私たちの一族総出でも掛かっても適わない力を持つ神様が何かの理由があってやってるってこと。そして、碧海さん、だっけ?この現象を起こしてるのはまずウカノミタマ様ではないわ。怖い力を感じる……あなたからもその力の影響を強く感じるけど……。その神様と何か**由縁**があるの?」
「神様ですか……」雫は、静かな戸惑いを顔に滲ませた。
「基本、私、無神論者なので。(少し間を空けたあとで)まあ、**無神**じゃないのは、あなたたちの存在で良くわかりましたけど……」
雫は、神族の少女たちを前に、自分の店の運命が、得体の知れない高位の神様の「ご乱心」か「ご厚意」か分からない力によって、永遠に非日常に包まれたことを悟ったのだった。
読んで下されば嬉しい限りです。
心機一転、無理せずマイペースで連載します。




