奥の院到着…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
時刻は午後五時五十分頃。
命婦大神との軽い挨拶を終え、紅と慶の二柱は再び奥の院へと向かっていた。
慶はぜえぜえと息切れしながらも、周囲の景色に感動していた。
「これは確かに道中までもが絶景……」
一呼吸置いて、彼女は再び口を開いた。
「神気も使えないのも、これなら悪くはないね。到着までの感動もさぞかし、心に響くんだろうな……」
紅は、無造作に積まれた石段を指さした。
「慶、ちょうど、この辺で半分を超えたあたりかな?」
それを見た慶は、一瞬で無言になった。その荒々しい石段は、とても人の手で整えられた道には見えない。
「THIS IS……これは本当に道なのか?」呆れた声で慶は尋ねた。
紅は、そんな慶を小馬鹿にするように笑った。
「ほら、ちゃんとした道だよ。あれを見て! ほら、人間達も上り下りしてるでしょう?」
慶は必死に息を整えながら、声を絞り出す。
「YES! そ・う・で・す・ね……」
朱色の鳥居が連なる参道は続き、静かに夕日が沈みゆく。慶は変わらずぜえぜえと息切れしながら石段を上り、紅はその前方を飄々とのぼっていく。
「最近、神気に頼りすぎだったんじゃない? 慶、運動不足……。ちゃんと歌手はライブに対応できるように、継続的なボイトレと筋肉トレも続けないと……」紅は余裕たっぷりに言う。
慶は息切れしながら反論した。
「そもそも、神様だから筋肉とかボイトレとか必要ないの……。人間達が私たちを信じる心や願いが、この姿を形づくってるんだから……。そもそも、ウチの信者は気合が足りん。ウチをちゃんと信仰してるのか? 疑問に思えてきた……」
ようやく二人が奥の院前にある小さな広場に到着すると、そこには先に到着していた白が、ベンチに座ってぼーっと絶景を眺めている姿があった。
「は、白、ゴメンね。色々あって遅くなった……」紅は白に話しかけた。
白は顔を上げ、静かに答える。
「問題ない……。紅の言う通り、この場所はとても奇麗……」
慶は這うようにして白の座るベンチにたどり着き、座り込んだ。
「こ、これで到着か……」
紅は広場を見渡し、時の流れを感じていた。「に、二十年……。この場所も人間が簡単に来れるように大分、奇麗になったね。『ウカノミタマ』様も甘くなられたのか、それとも時代の流れなのか……。ちょうど良い時間に来たみたいだね。今から一時間くらいで夕日が地平線に沈んでいくよ……」
「お、おう。ジャストタイミングだったね!」慶は息切れしながらも応じた。
白は、息も絶え絶えの慶の様子を見て、疑問を口にした。
「慶、何故、そんなに疲れてるんだ?」
紅は笑いながら説明する。
「この『奥の院』までに続く道全体に、『ウカノミタマ』様が、人間達への願いや想いの覚悟を試す試練の場所として、関係者以外は誰も力を出すことができない強力な結界を張っているんだよ。慶はその関係ない者に該当したから、神気が一切使えなかったのさ」
白は、全てを理解したように静かに頷いた。
「そうか……。この道は、来る人間の願いや想いが本当かどうか試す場所だったんだな……。そうか……良いことも悪いことも、ここに一度集まるんだ……」
「そう……。それに、その人間達の願いや想い全部を『ウカノミタマ』様が聞いてくれる訳ではない……」紅は続けた。
「『ウカノミタマ』様は確かに人間の願いや想いを叶える偉大な御神様だけど、ただで叶えてあげてる訳ではないから……」
慶はベンチに座ったまま、紅の言葉を反芻する。
「この『奥の院』へ続く道中で、ウチに言ってたね? 願いや想いを叶えるには、同じだけの代償が必要だって……」
「そう……人間は欲深い存在だよ……。『夢』や『願い』という奇麗な言葉を飾ってみても、全ては**『欲』……。そして、『欲』を叶えるには代償が必要……」紅は寂しそうな声色になった。
「でも、その人間が代償**を引き換える力がないとどうなると思う?」
白はすぐに答えた。
「引き換える代償がないのなら、願いは叶えられない……」
「正解!」紅は白の答えを認めた上で、さらに深い話へと踏み込んだ。
「それでも、無理やりにでも、願望を叶えようとする人間も少なくない……。白はよく分かってるんじゃない?」
「欲深き人間……悪しき人間が引き換えにする代償は、『魂』……」白は静かに、しかし確信をもって言った。
紅は笑った。
「正解! 神様と悪魔の違いは、その人間の深い欲をどうするかしないかで、人間達が勝手に名称を決めたもの……」
「神様も悪魔も存在の根本は同じ。私たちみたいにね」紅は苦笑いした。
「その人間の願いが代償によって別の良い願いに変わるなら、夢を叶えてくれる……。でも悪魔と呼ばれる神様達は違う。
願いは必ず叶えるけど、願う人間の魂や、代償にまだ見合わない時には、その人間に関係する魂までも代償にする。
それが神様か悪魔と呼ばれる違い……。
元々はどちらも人間の願いを叶えてあげようという存在としての役割は変わらない……」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




