奥の院への道…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
時刻は午後五時三十分頃。
慶はぜえぜえと息を切らしながら、奥の院へと続く急な石段を上っていた。その前方を、紅は疲れを見せることなく、飄々とした足取りでのぼっていく。
「これマジで〜。急な石段が凄いな……これは想像以上の荒行か。しかも何故、この場所に入ってから私は神気を使えないんだ。使えばチャチャっと登れるのに!」
慶が不満を漏らすと、紅は振り向きもせずに諭した。
「郷に入っては郷に従えというでしょう。『慶』も一柱ではあるけど、ここは『ウカノミタマ』様が納めし神聖なる場所。古から定めた規則に従いなさい」
紅は少し間を空けて、主神であるウカノミタマについて語った。
「『ウカノミタマ』様は、人間達のあらゆる願いを叶える御力を持つ偉大な古の一柱様。でも、そう簡単には人間達の願いを叶えてはくれない。その願いが大きければ大きいほど代償は必要」
紅は、この道の意味を説明する。
「この道は、その覚悟があるのかと人間達を試すための、本当に最初に見極めるために作られた、御神への道……」
そして、慶の方へ向けて、茶目っ気のある笑顔を見せた。
「それにね、慶。《けい》、私は奥の院までは『社通し』を使った移動ができるけど、これは友情のために案内してるんだから」紅は冗談交じりの笑い声を漏らした。
「OH〜、ちょっとちょっと。じゃあ、白は良いんだ? ビューンと一っ飛び。これは対応の差を感じるんだけど……」慶は抗議した。
「白の、神気を使えなくなる状態での、あの服装では流石に申し訳ないでしょう」紅は理路整然と反論する。
慶はやや半ギレ気味に「ちょ、ちょっと待て〜い。聞き捨てならないよ、その言葉!」と声を荒らげたが、紅はまたしても冗談交じりに笑った。
「姐さん、我慢、我慢」
すると慶は急に落ち着いた声色になり、息を整えた。
「あんたから**『姐さん』って言葉、久々に聞いたね~。白と出会う前は、ウチのことをよく『姐さん』**って言ってたっけ。それを久々に聞けただけでも良しとしようじゃあないか」
慶は冗談交じりの笑い声を響かせた。
「それにしても、この赤い鳥居群は凄いな! 『命婦社』……。道中、大中小なり**御社**も沢山あるんだねぇ」
紅は、朱色の鳥居が連なる光景を見つめながら、一つ一つの社の意味を語る。
「この御社一つ一つが、『ウカノミタマ』様の眷属や、連なる神様達が管轄するそれぞれの御社なんだよ。そして、この**『命婦社』には『命婦大神』**様がいらっしゃる」
「参道のあの子達……『前線カフェ』にいる『ウカノミタマ』様の眷属達の長をされてる御方だよ。勿論、『大神』の名のとおり、眷属じゃないよ。神様だからね。しかも『ウカノミタマ』様に一番近い御方だから、ここも『ウカノミタマ』様が人間達の願いの覚悟を試す次の試練……」
紅は説明を続けた。
「『ウカノミタマ』様への願いは、まず**『命婦大神』様を通じて伝えられる。そして、その覚悟と代償が本物であれば、その代償と引き換えに願い**を叶えて下さる……」
慶は畏怖を込めた声で呟いた。
「こ、怖いんだな、『ウカノミタマ』様って……」
紅は首を振った。
「怖くはない。それどころか慈愛にあふれた御神様だよ。ただ、人間達の願う欲が深すぎるだけ……」
慶はぜえぜえと息切れしながら、話を本題に戻す。
「で、紅は、こちらにいらっしゃる**『命婦大神』様と同じく、あの岩崎社**を管轄する神様だって訳だ……」
「う〜ん。私は眷属ではない神様だけど、力なき末席の末席だからね……。何故か本殿近くにある摂社を任されてはいたけど……」
「**『伝承芸能』**の神だからか?」
「そうね。私は神社付近に住んでいた人間達がお祭りや儀式の時から生じた歌や踊りの力から生まれた土着の神だったのを、『ウカノミタマ』様が摂社を用意して下さって、そこを管轄するように命じられたんだ」
紅は遠い目をしながら、その時の『ウカノミタマ』の言葉を思い出すように語った。
「『伝承芸能』は人間達の世代が変わっても必要な大事な事だって、私に言ってて下さった……。その時からかな……。ただ、神様の役割として考えてなかったこの地で伝承されていく歌や踊りが、時には人間達に不思議な力を与えてくれる、奇跡を起こす事もあるのかも……と思ったのは……」
「奇跡か……。歌や踊りには確かに人間達を救う力はあるのは、ウチも思ってる……」慶は強く同意した。「白も間違いなくそう!」
慶の脳裏に、昔の白の言葉が蘇る。
「『讃美歌には祝福の力』が。『鎮魂歌には魂を静める力』が。歌には力がある……」
慶は過去の言葉を反芻した。「……と言ってたよ、昔ね……」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




