奥の院へ…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
時刻は午後五時頃。
岩崎社へ並ぶ女性たちの行列を尻目に、白と紅、慶、そして巫女の葵が摂社へと向かおうとしていた。
慶は焦った声で葵に詰め寄る。
「葵、ウチらがここに戻るのは分かったし、今の様子も分かった。でも、先に『ウカノミタマ』様へご挨拶に伺わなければ……」
葵は慌てる慶を落ち着かせようと、穏やかな口調で答えた。
「それも『ウカノミタマ』様より申しつけられております。『わらわ』も参拝する人間の想いを受けるので、昼は大変忙しい。それに、長旅だったであろうから、少し楽にされてから夜に本殿の方へと……」
慶は、岩崎社へ必死に祈願する女性たちの行列を横目で見ながら、紅と白の様子を窺う。
「紅……これを見て、ウチ、思ったんだけどさ……。もし今、摂社に戻ったとした場合、少しも楽……」
紅は、慶の言葉を遮り、強い口調で言った。
「馬鹿を言うな! 慶。私がこの社で縁結びの神様なんていうおかしな存在に書き換えられてるというのに、どこに休む暇がある! 私の神威を貶めた連中が一体誰なのか、この目で確かめてやらねば気が済まない!」
紅は怒りのあまり、社に飾られた絵馬を睨みつけた。
「そもそも、この社には御神体などない。社を建てる際に、私が**『純粋な歌のチカラ』を籠めて、人々の『伝承芸能』のチカラになるよう、二十年後までの封印をウカノミタマ様にお願いし、旅に出た。私は歌の神だ! こんな縁結びの神様なんていう神格**はあり得ない!」
慶は、紅の怒りが最高潮に達しているのを理解しつつ、優しく諭した。
「気持ちは分かるよ、紅。でも、ここはウカノミタマ様がおられる稲荷神社。落ち着いて……」
紅は声を荒らげたまま、慶を叱りつける。
「ウルサイ! 慶! それに、私はウカノミタマ様にお願いした場所がある! そこへ行かねば、私の神格が縁結びの神様なんていう神格に上書きされた理由が分からん」
葵は恐る恐る口を開いた。「あの……宜しいでしょうか?」
「葵ちゃん、何?」紅は苛立ちを抑えつつ、葵に視線を向けた。
「紅様がおっしゃっているのは**奥の院**でしょうか?」
紅は迷うことなく頷いた。「勿論! あの場所のサンライズから、二十年前の私の旅は始まった。だから、旅の終わりは、同じ場所のサンセットで閉めたいんだ!」
葵は、白の衣装を気にしながらも、申し訳なさそうに言った。「昔と左程、道は変わってはいないとは思うのでご存じかとは思うのですが……紅様、慶様は兎も角、白様の御衣装では少々、ご不便な場所かと……」
紅はそれを一蹴し、余裕を見せた。「あっ! あ〜、それは大丈夫! 私たちの中で一番、楽々に到着するんじゃないかな……」
紅は続ける。「葵ちゃんも、その巫女の衣装では移動はきついだろうしね? ちょっとしばらく私たち三柱で奥の院に行ってていいかな?」
葵は紅の意思を尊重し、深々と頭を下げた。「紅様が、そうおっしゃるのなら……。ですが、道中はお気をつけてください。そして、夜には必ず……」葵は紅たちに念を押した。
紅は自信ありげに笑いながら、葵の心配を一蹴する。
「二十年留守にしてたとはいえ、葵ちゃんよりこの場所に住んでいたからね。私はここの出身だから、同じ神社内であれば『社通し』を使った移動もできる」
紅はすぐに慶を見た。
「『慶』はできないから、歩いていくけど……。『白』は……、『白は問題外だね」
紅は、慶と白に顔を向けて言った。
「それじゃあ、行こうか『奥の院』! 慶は私についてきて。『白』は……」
紅が奥の院がある山頂付近を指さすと、白はそれを見てすぐに状況を理解した。
「分かった。紅、この山の上の方だな……」
「そう、あの辺りを見れば直ぐに分かるよ」
紅は苦笑いした。
「それじゃあ、先に行って待ってる……」
紅は白の言葉に頷いた。
「白、宜しく!」
その瞬間、パサリという音とともに、白の背中から輝く巨大な翼が現れた。白は軽くジャンプすると、凄まじい速度で上空にのぼり、奥の院の方向へと飛び去っていく。
その光景に、葵はらしくない表情で唖然としていた。
「(驚きな声色で)て、天使様でしたね……白様は……。ご心配していた私が恥ずかしいです」
慶は白の能力を羨ましげに見送った後、冗談めかして言った。
「相変わらず、羨ましい能力だね。『岩崎大神』様、是非とも私めを『奥の院』へご案内、宜しくお願いいたします」
紅は少々呆れ気味に慶を叱った。
「け、慶!」
慶はふざけながら、上品な一礼をした。
「冗談、冗談。その御名で呼ばれるのは、お嫌いなようで失礼いたしました」
紅は踵を返し、慶の方へ顔を向ける。「では、ご案内いたしますわね、**『ビリケン』**様」
二柱は軽口を叩き合いながら、奥の院へと向かって歩き出した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




