慶と白のもう1つの真名
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市、「前線カフェ」前。オープンからおよそ一ヶ月が経過した、穏やかな日の午後四時前。
神社の鳥居との境界線を、**紅はしばらく見つめていた。その凛とした背中に、ただならぬ気配を感じ取った葵**は、恐る恐る声をかける。
「べ、紅様……」
紅は振り返らず、静かに言った。
「さあ、行こうかわが家へ……」
二人の前方の石段の下では、日本の神社に初めて来た**白が、興味津々といった様子で、慶に何かを尋ねていた。二人がいるのは、参拝者が心身を清めるための手水舎**のそばだった。
「慶、これは何?」
「これか……」慶は慣れたように答える。「これは**手水舎**っていうところだ。ジャパンの神社の中でも大きいところは、大抵ある場所」
「何をするところ?」
「人間達の間では、参拝する前に手を洗い、口をすすいで、心身を清める場所だと言われてる。この手水舎の水を使って身を清めることを、**『手水を取る』**というんだ」
「慶、よく知ってるな」
「NO!NO!ウチもこれでもジャパンでは神様よ!それくらいは知ってるよ」
慶は、そこで一度言葉を切り、しばらく間を空けてから胸を張った。
「これでもウチも神社はあるぞ! ここから東の方だけどな……」
「じゃあ、慶の神社も、ここと同じような神社なのか?」
慶は、少し焦ったように言葉を濁す。「そ、それは……NO!」
再び間を空け、ばつの悪そうな表情で続ける。
「それはノーコメント。いつか行くことがあれば分かる……。一言でいえば……」
「いえば……」と、白が促した。
「新世界。そう、(へへっと冗談交じりで笑い)『ニューワールド』って感じかな……」
「新しい世界なのか? 慶の神社は?」
「ウチは世界中に家があるからね。ジャパンの家はそんな感じだ♪」
その会話の渦中に、**葵と紅**が近づいてきた。
「どうかしたのか?」と、紅が尋ねる。
「紅、私は今、慶にここが『手水舎』って場所なのを聞いた」と、白が答えた。
「そうか。じゃあ、慶から作法は聞いた?この**手水舎**には正しい作法があるんだよ。『ウカノミタマ』様へお会いに行く前の儀式だね」
「作法は聞いてない……」
「私が教えようか? 慶は勿論、大丈夫だよね?」
「**(ヒューと軽い口笛)**も、勿論知ってるよ。ただ、今回はその役は、紅か、その人間の子に譲るよ」
紅は、強い語気で**慶をたしなめた。
「人間の子じゃない。(強調して)彼女は『葵**』。いい? 慶も白も?」
「OK!」
「分かった。『葵』……」
**「IS:T」の二柱から名前を呼ばれ、葵**は一瞬、びくりと肩を震わせた。
「あー、ウチの自己紹介がまだだったね」慶は改めて自己紹介を始める。「ウチは**慶。人間達はウチのことを皆、『ビリケンさん』って呼んでいる。ジャパンではこれでも、まあまあ有名な一柱**(ひとばしら)だと思うけど……」
「ビリケン様……それはもう、そのお名前も、そのお力も……」
葵は、驚きを隠せずに続けた。
「お**|み|足|を|掻|く|**と幸運になるとか……」
「**(焦り気味で)シャラップ! その話はいい。いわなくて。いわなくていいから……」慶は慌てて口を塞ぎ、(しばらく間を空け白の顔を見ながら)**仕切り直した。
「ほら、白。ウチもジャパンでは有名でしょう? で、葵ちゃんだっけ? ここでは、ウチは『その名前』ではなく、『慶』でいいから」
「はい。分かりました」葵は丁寧に答えた。「『慶』様……」
「慶は本当にジャパンで有名な一柱だったんだな」
「ウチの力を見余ってたな、白さんや**(ヘヘヘっと笑う)**」
今度は白の番だった。
「今度は私……。私の名前は**白。遥か西にあるヘブン**から来た」
「へ、ヘブン……。西欧の天国のことですか?」
「葵ちゃん、白は天使なんだよ」紅が説明を加える。「本当の名前は『ケルビム』。聖書って聖典があるでしょ? あの本に良く名前が出てくるよ。『ケルビム』は四つの天使が合わさった時の称号みたいなもの。ジャパンでは『キューピッド』って言われてる。私が**『縁結びの神様』**だとかおかしな噂が流れてるのも、彼女の力が関係してると思うよ!」
「キュ、『キューピッド』様! **『愛の天使』**の代名詞で有名な……」
葵は嬉しそうな声を出した。「光栄でございます♪」
「なんか……ウチと態度が違わなくない……」慶は、少し不満を漏らす。
「(強い語気で)慶!」
「ゴメンゴメン……。そんな人間に対して神様たるウチが……**(徐々に語尾が小さくなる)**逆に恥ずかしい……」
白は気にせず、葵に言った。
「私の名前も『キューピッド』でもない、『ケルビム』でもない……ただの『白』と呼んで」
「はい。『白』様……」葵は丁寧に答えた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




