古き友人の帰還と、神社の境界線
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市・前線カフェ前。時刻は午後四時前頃。
カフェの扉が開き、巫女服姿の葵を先頭に、**IS:Tの三柱**が店から出てきた。もちろん、葵以外の人間には、三人の姿は見えていないし、会話も聞こえていない。
「ありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」祈里がいつものように元気よく、見えない客に向かって声をかける。
「お待ちしております」沙希もまた、礼儀正しく頭を下げた。
「(慶に向かって)面白いお姉ちゃん、またね♪」稲穂は無邪気に手を振る。
その稲穂に向け、慶が朗らかな声で応えた。「ここのカレーなら毎日食べにくるよ! あの、なんちゃらプリンも美味しかった!」
そのとき、店の前を通りかかった**亀さんが、一人で出てきたように見える巫女服の葵の姿を発見した。彼にはIS:T**の三人の姿は見えていないし、会話も聞こえていない。
「葵さん……」
極度の緊張状態にある葵は、亀さんの呼ぶ声にも気づかない。
「(心配そうな声で)顔色が凄く悪そうですが大丈夫っすか? 俺が一緒についてきましょうか?」
亀さんの声に、ようやく葵がハッと気づいた。
その横で、**白**が静かに呟く。「淡いピンク色……。あの人間の男の心の中……」
「流石!白さん、**キューピッドという異名は伊達**じゃないね!(馬鹿にしたようにハハハ……と笑う)」慶はそれを聞いて、茶化すように笑った。
葵の耳には、そんな慶と白の会話などはまるで入っていなかった。彼女は冷や汗をかきながら、亀さんに答える。
「か、亀さん、一人で大丈夫ですので。少し一人で静かに神社まで行かせてくださいませ……」
「(申し訳ないという表情と声色で)あ、葵さん、すいません」亀さんは、彼女を気遣うことしかできず、申し訳なさそうに頭を下げた。
普通の人間には見えない**IS:Tの神気**の圧力にフラフラしながらも、葵は三柱を先導し、商店街の道を歩き始めた。
「(ささやく声で)岩崎大神様、先程のご、ご無礼をお許しください」葵は、誰にも聞こえないように、**紅**に詫びた。
「(特に気にする様子もなく)うん? 何が?」紅はあっけらかんとしている。
葵はホッと小さなため息をついた。「い、いえ、特にお気に触られていらっしゃらなければ」
「私たち三人の姿は人間には見えてないからね。声も聞こえてない。葵さんだっけ?」
「ただ……葵とだけお呼びください。私は**御神様**にお仕えする身」
紅はそれを聞いて、至って普通の様子で話した。「私もそうだよ。一応、神様だけど、この**稲荷神社では末席の末席**だから……。それに"大神"って言われてるのも、恥ずかしいよ。普通に"紅"。(しばらく間を空けて)私たちが見えたり聞こえたりするけど、人間だから呼び捨ては困るだろうから、普通に"紅"さんで良いよ」
「(かしこまりながら)い、いや……それも……(しばらく間をあける)で、では"紅"様で宜しいでしょうか?」葵は恐縮した様子で確認した。
「私に"様"つけか……。仕方ないけど良いよ。あの『おとぎ前線』達のウカノミタマ様の子達も"様"つけするからね……。(はーっとため息)そ、それにしても……葵ちゃん!」
「(ひーっと引き攣る声を出し)!葵ちゃん!……ただ、葵とだけ」葵は、呼び捨てに抵抗を示した。
「これは私の命令ってことで。あなたは**葵**ちゃん。とこれからは呼ばせてもらう」紅は有無を言わさぬ口調でそう決定した。
「わ、わかりました。"紅"様の仰せのままに。で、"紅"様、私へ何かを聞かれていたのでは……」
「そうそう。いや~ね。寂しくなったね……**商店街**ってさ! 私が修行の旅に出たころは、この常に人でごった返していた。でも今は何? 閑散としたこの光景は……」
「も、申し訳ございません……」葵は、まるで自分が責められているかのように謝罪した。
「(葵の態度に少々困った様子で)ごめんね。怒ってるわけではないから、安心して。いや、想像以上に寂しくなったな……って」紅は葵の過剰な反応に苦笑いを浮かべた。
やがて、一行は神社の前の大きな鳥居に到着した。
「ここが紅の**摂社がある稲荷神社……とても大きい。そして奇麗……」白は神社の神気**を感じるように呟いた。
「商店街の様子とまるっきり違う世界へ突然変わったな……。人、人、人……人、凄いな……。OHHHH、異国の人間も沢山きてるぞ!」慶はその人の多さに驚きの声を上げる。
閑散とした商店街と打って変わり、参拝客で賑わう神社。その人の流れが急に変わる**神社と鳥居の境界を、紅**はしばらく見つめる。
「(独り言で)あの**御方が『おとぎ前線』の境界線を無理やりでも**こじ開けてる理由が分かった気がする……」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




