蛍の光と、インターネットという名の光
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市・前線カフェ。オープン後三週間。午後八時頃。
閉店の時間となり、店長の雫は前線カフェのシャッターを閉める準備を始めた。
「みんな、それじゃあ、そろそろ私は家に帰るわ。」
祈里が明るく応える。「は~い。今日もお疲れ様でした。」
沙希もオドオドしながら「お、お疲れ様でした」と頭を下げた。
美琴が今日の営業を振り返る。「店長、お疲れさまでした。今日のお客様も本当に**"葵"**さんお一人でしたね……。」
「1人でも来てくれるだけマシよ。」雫はそう言って、諦めたように笑った。
その時、外に出ていた**稲穂、亜都、神那**が速足で店内に入ってきた。
「蛍が飛んでた!」稲穂が興奮して叫んだ。
「奇麗だった!」亜都も続く。
神那は冷静に状況を説明した。「近くの**浜川**から迷いこんできたみたい……。」
「もう**蛍**の季節になってたんだねー。」祈里がしみじみと呟いた。
「蛍か……」雫は少し間を空けて、遠い記憶を辿るように言った。「そういえば商店街の会長さんから聞いていたわ。近所の小学生たちが毎年、浜川に蛍の幼虫を放流しているらしいの。」
美琴は寂しそうに言った。「**放流**ですか……。以前は普通に商店街の方にも良く飛んでいたんですけど……。年々、少なくなっているな……とは思っていましたが……。」
「これでも数年前と比べると大分、増えてると聞いたけれど……。」雫は付け加えた。
祈里は昔の商店街の様子を思い出した。「**商店街がと《・》ても賑わってたとき**には凄く飛んでたよ~♪」
神那は、自分たち眷属の事情を踏まえて言った。「元々、**"おとぎ前線"が開くのは不定期だったし、夜しか私達も出歩くことができなかったから……。人間界**の蛍を見るのは本当に久しぶりね……。」
「そう。神那ちゃんの言う通り、夜しか出れなかったものね……」祈里も同意した。「今は変なことになって、昼間でも出れるけど……。明るい時間の商店街を見たのも、昔に何度かだけ……でもいつも**賑やか**だった。」
雫も自分の過去を重ねた。「私も確かに小さい時は**修学旅行だったりで来ていたからね。その時は見るものある物が全部魅力的に見えたものよ**。今は物が飽和状態で、大抵の物はネットで手に入るわ。」
パシャと音が鳴り、雫はゆっくりと**"前線カフェ"の前を通る一匹の蛍を自分のスマホ**で撮影した。
「お! 蛍が良く撮れてる。前の**スマホは全然撮れなかったけれど、最新のスマホは良く撮れるわ**~。」雫は自分のスマホの性能に感心した。
その雫の様子を見て、美琴が何かを思い出した。
「あ、そういえば店長……お願いがあるのですが……」美琴は意を決して尋ねた。
「お願いって何かしら、美琴さん?」
神那は何かに気づいた様子で「あ、美琴さん、あれでしょ?」と口を挟んだ。
美琴は頷いた。「神那ちゃん、そう。あの……店長が今、話をされていた**"ネット"というものを私に教えて欲しいんです。観光客の方が"スマホ"**って呼んでる電話で写真を良くとられていらっいますよね。」
彼女は続けた。「その皆様が、**"ネット"で上げるとか、"えすえぬえす"**ですか……それに神社の事を世界中の皆様に紹介してるとか……。」
祈里が食いついた。「あ、私もその**"えすえぬなんとか"**って、良く聞いてる~。沙希ちゃんも聞いてるよね?」
沙希はオドオドしながらも、「祈里ちゃんと同じく、私も……その**"えすえぬえす"**という言葉は、お客さんから良く聞きます」と言葉を選んだ。(少し間を空ける)「写真を上げたいから一緒に写りたいといわれます。最近はよく……。」
祈里は、客が持っていた道具について質問した。「変な棒の先に**"スマホ"**っていうのが付いてるんだよね?」
沙希は困っているという声色で言った。「う、うん……。皆さん、**遠慮がない**というか……私は怖いです。」
「あれは**自撮り棒というのよ**。自分で自分の写真を撮る棒の形をした装置みたいなものだわ。」雫は説明した。
稲穂は目を輝かせた。「おーーっ! 亜都ちゃん、私達もあの棒と**"スマホ"**が欲しいね!」
亜都も声を弾ませる。「欲しい! 私達も欲し~い。自撮り棒!」
「分かった分かった。みんなが使えるようになれば、お店の宣伝にもなるからね。」雫は頷いた。
美琴は感謝の意を込めて「店長……」と呟いた。
「ただ、な~にも知らないんでしょう?覚えるのは大変かもしれないわよ!」雫は少し意地悪く言った。
神那は自信満々に答えた。「大丈夫よ! **"スマホ"**はずっと観光客の人たちが使ってるのを観察してたから……。」
雫は最後に、今後の課題を口にした。「あとは**"パソコン"か"タブレット"でも誰か使えれば、大分、マシになるかも知れないわね**!」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




