神社の巫女と眠らせぷりん
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市・前線カフェ。午後三時頃。
先の話し合いの結果、店内の雰囲気は重く沈んでいた。経営の危機、商店街の衰退、そして店長の雫が会社の専務であるという衝撃の告白。七人のスタッフはどんよりとした空気の中で、茫然と無言の状態が続いていた。
その沈黙を破って、一人の女性が入店してきた。「お邪魔しますわね。あら、お店は開いてますのよね?」
入店したのは、祐徳稲荷神社の巫女である**葵**だった。
美琴がすぐに気付き、接客の顔を作った。「い、いらっしゃいませ。葵さん……」
葵は、店内の暗い空気を察して、上品にフフフと笑った。「皆さん、とても暗い顔をなさって……。失礼な言い方ですけど、誰かのお**通夜**かと思いましたわよ」
雫は申し訳なさそうに言った。「葵さん、すいません。ちょっと、このお店と門前商店街の事を考えていました」
葵は頷いた。「わかりますわよ。神社は毎日、**沢山の参拝者**で賑わってるのに、神社から離れていくにつれて、人は来ませんものね」
その時、隣の煎餅屋の**亀さん**が、慌てた声色で駆け足で店内へ入ってきた。「今、葵さんが……この店に……」
亀さんの突然の訪問に、葵は落ち着いた様子で挨拶した。「こんにちは。亀さん」
亀さんは、顔を赤くし、恥ずかしさを込めて挨拶を返した。「あ、あ、葵さん! こんにちは……」
「亀さん、お店は良いのですか?」葵が尋ねた。
亀さんはどもりながら、「い、い、今はですね……」と言葉を濁した。(しばらく間を空ける)
「あ、あ、そう。休憩中なんですよ」
葵は目を細めた。「あら、偶然ですわね。このお店には**素敵な甘味**があると聞いたから、休憩がてらにきてみたのよ♪」
「素敵な甘味ですか?」亀さんは首を傾げた。(しばらく間を空ける)
「あれ? 雫さん、そんな甘味あるんですか?」
雫は苦笑いしながら答えた。「ははは、あるよ。一応……、素敵かどうかは分からないけど……」
亜都が笑顔で商品の名前を告げた。「眠らせぷりん♪」
稲穂もそれに続く。「冷凍していて賞味期限が長いから**"眠らせぷりん"**。美味しいよ♪」
雫は美琴に指示を出した。「美琴さん、お願い。私は厨房に戻るから……。それでは葵さん、ごゆっくりどうぞ。あ、亀さんのところにもお客さんがきてるぞ!」
亀さんは焦り声でハッとした。「あ! 俺もお店に戻ります。葵さん、それでは……」
雫は店内奥の厨房へと入っていき、パタパタと足音をのこして、亀さんは名残惜しそうに隣の煎餅屋へと戻っていった。
美琴はプロらしく葵に声をかけた。「お客様、お席はテーブルとお座敷がいかがいたしましょうか?」
「では、お座敷で」葵は畳の席を選んだ。
「こちらへどうぞ」美琴は葵を座敷へと案内した。
神那もオーダーを受けるために進み出た。「お客様、当店の**"眠らせぷりん"は全部で3種類**ありますが、どちらにいたしますか?」
「**3種類**あるのね」葵は確認した。
稲穂が待ちきれずに、割って入る形で説明した。「ぷれーん、いちご、まんごーの三種類あるよ!」
葵は優しい眼差しを稲穂に向けた。「可愛い店員さんね。稲穂ちゃんお久しぶり。人間の姿、お素敵ね♪」
「あ、わたしをここに連れてきたお姉さん?」稲穂は驚いて尋ねた。「よく分かったね?」
葵は優雅にフフフと笑った。「勿論ですわ。**宮司**の血脈は甘くないですわよ!」
美琴は商品の説明を補足した。「ぷれーんが一番良く売れています。ですが、いちごもまんごーも美味しいですよ」
美琴は冷凍庫から、三種の瓶を取り出した。
葵は瓶を見て尋ねた。「これって……アイスでなくって?」
「冷凍庫から出して約三十分経つとプリンに。冷凍庫から取り出した直後はシャーベットみたいな食感で味わえます」美琴は丁寧に説明した。「時間経過で食感が変わりますので、お好みの食べ方をお楽しみください」
「成程……分かりましたわ」葵は納得し、(しばらく間を空けて)「最初ですから、ぷれーんでお願いします」と注文した。
「はい。承知しました。神那さん!」美琴が指示を出す。
「直ぐにご用意しますね」神那が手際よく**"眠らせぷりん"**の準備に取り掛かった。
美琴と神那が接客と準備をする傍らで、祈里と沙希は茫然と立ち尽くしていた。
近くにいる沙希に向かって、祈里は小声で言った。「美琴さんも神那ちゃんも凄いね……」
沙希も小声で返す。「はい。でも私達、何もお役に立っていないような……」
二人は、自分たちが接客で何もできていないことに気付き、ゆっくりと徐々に葵、神那、美琴の三人の輪から離れていった。
祈里は、意を決したように厨房の雫に向かって大きな声で言った。「店長―!私と沙希ちゃんは外でお客さんの呼び込みしてきまーす。沙希ちゃんも「行こうか!」
沙希はオドオドしたが、決意を固めたように答えた。「は、はい……」
捨て台詞を残した二人は、パタパタと足跡を鳴らして店外へと向かっていった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




