台湾からの使者とコスプレ喫茶(前編)
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市・前線カフェ。午後三時。
数百人規模の外国人観光客の集団が、門前商店街の中心まで近づいてくる。店長の雫も店内から外に出て、その様子を観察していた。
雫は、その顔立ちや雰囲気を観察し、推測を口にした。「どこの国の方達なんだろうな……。日本人っぽいから台湾の人達かな……」
稲穂は首を傾げた。「店長、台湾ってどこ?」
雫は、この神社の実情を説明する。「台湾と日本は親交も深いし結構、仲が良い国だ。ここの神社に観光に来るお客さんの大半が台湾の人なのよ」
「へーーーーーえ」稲穂は冗談まじりの声で答える。
雫はふと何かを思い出し、笑みをこぼした。「社長も台湾の方に仲間達がいるらしい。**"台湾雷軍団X"**とかなんとか言ってたな(思い出し笑いで)ハハハハ……」
美琴が慌てて注意した。「店長! お客さん達はもう近くに来ていらっしゃいますから、早く厨房に戻ってください」
「すまん、すまん、美琴さん」雫は急いで姿勢を正す。「いや、兎に角、みんな宜しく。特に祈里ちゃんと沙希ちゃんは何とか身振り手振りで頑張って!」
神那は諦め顔で言った。「残念だけど……店長の言うとおりね……」
「ううううう……、身振り手振りって……。沙希ちゃん!」祈里が悔しそうに沙希に視線を送る。
沙希はオドオドしながら「は、はい……」と小さく答えるのが精一杯だった。
その時、前線カフェへ近づく外国人観光客の集団を見つめていた美琴が、小さく息を呑んだ。
「あと、皆さん、突然、急にあの知らない強い**"神気"**が消えました」
神那も驚きに目を見開く。「あ!確かに消えてる……」
強い神気を放っていた存在は、人々に紛れ込み、カフェの目の前に接近していた。
祈里は集団に向かって精一杯の笑顔を向けた。「ウェルカム、ウェルカムですよ。ようこそ"前線カフェ"へ」
沙希も緊張しながらも続く。「ウェルカムです。"前線カフェ"へどうぞきてください」
集団の中から、一人の恰幅の良い男性が、祈里と沙希に気づいて近づいてきた。彼は金色の服を着ており、その威容は目を引く。
恰幅の良い男性は、たどたどしい日本語で尋ねた。「こんにちは!ここは……**"緒妻"**さんの店ですか?」
沙希はオドオドしながら答えた。「い、いいえ……ここは"前線カフェ"という……」
男性はがっかりしたように、片言の日本語で続けた。「**"緒妻"さんがここに"コスプレ喫茶"**作ったと聞いて、遊びにきたのに残念……ここじゃあなかった……みたいだよ」
祈里は彼の言葉に疑問符を浮かべた。「すいませ~ん。よくここは**"コスプレ喫茶"といわれてるんですが、"コスプレ"**って何ですか?」
男性は祈里の姿を見て目を丸くした。たどたどしい日本語で、「**"コスプレ"**知らないのに、そんな衣装きてるの?」
神那は状況を収めるため、一歩前に出た。彼女はプロの笑顔を見せる。「お客様、申し訳ございません。私達、みんな新人なもので。間違いなく、**"緒妻"社長さんのお店で"コスプレ喫茶"**です」
祈里と沙希は顔を見合わせ、驚きの声を上げる。「えええええっ……」
「神那ちゃん何それ?何か知ってるの?」祈里が小声で尋ねた。
神那はスーッと祈里と沙希に近づき、恰幅の良い男性に聞こえないように囁いた。「店長が良くいう社長っていうのが、**"緒妻"さん。そして、店長もその会社の本当はお偉いさんらしいのよ。で、"コスプレ"**っていうのはね……」
神那が説明しようとした、その時、男性が楽しげに口を挟んだ。「**コスプレは大好きなアニメや漫画のキャラの格好をすることよ。このコスプレは"緒妻"**さんところのオリジナルかな……」
神那は愛想よく笑い、話をまとめた。「はい。そうです。(苦笑いで)え~っと、そうそう**"おとぎ前線"**っていう物語の衣装なんですよ」
祈里は驚きの声を上げた。「か、神那ちゃん!」
男性は納得したように、片言の日本語で頷いた。「やっぱりそうだったか。**"緒妻"さんの良く言う"や~らしか"コスプレ**ね」
「や、や~らしか?(驚いた声で)えっ!?」沙希は聞き慣れない言葉にオドオドする。
祈里がすぐにフォローした。「**"や~らしか"は"佐賀の方言"で"可愛い"**って意味だよ」
沙希はホッと胸をなでおろした後、オドオドは変わらないまま、「あ、ありがとうございます」と感謝を述べた。
男性は満面の笑みで言った。「本当、みんな**"や~らしか"。あ、もし遅れたけど、私、"緒妻"さんの友人で"台湾雷軍団X"の忠**というよ。宜しくお願いするよ」
忠は、「前線カフェ」での会話を立ち聞きしていた台湾の観光客集団に向かって呼びかけた。
「みんな、ここがやっぱり**"緒妻"さんの"コスプレ喫茶"**みたいよ!」
集団の中の一人(台湾観光客A)が片言の日本語で応じる。「忠さんの言った通りね。日本の友達が**"コスプレ喫茶"**してるって!」
別の観光客(台湾観光客B)は、目の前の可愛い店員たちを見て興奮したように繰り返した。「"や~らしか"、"や~らしか" 、"や~らしか"」
神那は、彼らの盛り上がりを小声で聞きながら、呆れたような、それでいて少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「うーん、**"や~らしか"**ね……」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




