祭りのあとの静寂と、シャッター通り
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
場所: 佐賀県鹿島市・前線カフェ(オープン後2週間)。
時間: 平日の昼下がり。
ゴールデンウィークという名の祭りが終わってから、二週間が過ぎた。
祐徳稲荷神社門前商店街にある「前線カフェ」は、オープン当初の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「はぁ~~~……暇~」
稲穂がテーブルに突っ伏し、この世の終わりかのような大きなため息をついた。
「そうね……暇」
亜都も残念そうに同意し、コップの水滴を指でなぞっている。
「二人とも、平日はこんなものよ……」美琴が優しく、しかし現実的に諭した。「観光地だし、平日は皆さん仕事や学校ですもの。わざわざ来る人は……インバウンドで来るお客様達くらいよ」
「そのイ・ン・ドかイ・ン・グ・ラ・ン・ドか知らないけど……この店には全然こないけど……」
稲穂が頬を膨らませて文句を言う。
「い、稲穂ちゃん……」亜都が慌ててたしなめた。
稲穂は勢いよく立ち上がると、店の出入り口から外へ飛び出した。私もつられて店の外に出る。
「それに見てよ! 商店街内を! シャッター閉まってるお店しかない。商店街も神社に近いお店にしかお客さんが来ない」
稲穂が指さす先には、昼間だというのに降りたままのシャッターが並ぶ、寂しい通りがあった。
「稲穂ちゃん、それは承知してるわ。ウチの社長もそれを承知でここにお店をオープンしてるから……」
私は静かに答えた。
「店長さん……」亜都が心配そうに私を見上げる。
「一般のお客さんも、インバウンドのお客さんも、神社で参拝するのが目的だからね……」
私は、この街の構造的な問題を口にした。
「神社の傍に大きな駐車場があるの。観光バスもお客さんも、みんなそこに車を止めるし、神社で参拝して……わざわざ、この長い参道の真ん中にあるこの店に来るかと言えば……。まあ、私でも来ないかもね」
私は自虐的に乾いた笑いを漏らした。
「でも、開店した時から、しばらくはお客さんも多かったよ!」稲穂が食い下がる。
「それもゴールデンウィークっていう長い休みが続いている頃だったから、みんな参拝に来てたのよ。神社の側の駐車場も満車だから、仕方ないので参道前にある駐車場に止めて、歩いてきたお客さんがほとんどだったの」
「そういう理由らしいわよ。祈里も沙希もちゃんと聞いてる……?」
神那が呆れた声を上げた。
店の前にある茶席では、祈里と沙希が並んで座り、気持ちよさそうに空を見上げていた。
「沙希ちゃん、今日もいい天気だね~え♪」
「はい。いい天気です。快晴ですね!」
二人は完全に平和ボケモードだ。
「(大きな声で怒鳴るように)おーーーーい! そこの二人!」
神那の一喝に、二人がビクッと肩を震わせた。
「ハッ! そうだった……。余りにお日様が暖かくて……」
「ポカポカだし、静かなので落ち着きますよね~え」
「そんな事じゃあないのよ。店長の言う通りだとすると、お客様が来ないとどうなると思う?」
神那が詰め寄る。
「暇になる」祈里が即答した。
「暇になる原因は?」
「お客さんがこないから……でしょ?」
「じゃあ、お客様来ないとどうなる? 今度は沙希が答えて……」
「(オドオドした様子で)分かりません……。暇になるだけじゃ……」
沙希が視線を泳がせた。神様である彼女たちには、「生活費」や「経営」という概念が薄いのかもしれない。
「そうね。私達、ウカノミタマ様の眷属としてなら、神社は人が毎日沢山きてるし良いことだけど……。この参道、この門前商店街でお店をしている人間の立場で考えると……どう?」
神那の問いかけに、美琴が静かに口を挟んだ。
「祈里さんと沙希さん、隣の亀さんを見て」
美琴の視線の先には、隣の「鶴亀商店」があった。
私たち七人は並んで、老舗煎餅屋の様子を眺めた。
「せんべい、いかがっすか? 全部、自分たちが一枚一枚手焼きしてます。美味しいですよー!」
亀さんが、通りの向こうに向けて声を張り上げている。しかし、その声に応える客はいない。たまに通る参拝客も、足を止めずに通り過ぎていく。
「亀さんも、あんなに大きな声でお客さんを呼び込もうと頑張ってる……。でもお客様は足を止めずに通り過ぎる人ばかり……」
神那の声色が、少し沈んだ。
「ねえ、私たちは確かにウカノミタマ様の眷属だから、商店街がどうなろうと、人間がどうなろうと関係ないと言えば関係ないけど……(しばらく間をあける)関係ないけど……」
「神那さん……」美琴が察したように名を呼ぶ。
「でも昔は……それこそ紅さんいた時くらいの時は、昼間も毎日、た~くさん、お客さん来てるみたいだったよ!」
祈里が、遠い記憶を手繰り寄せるように言った。
「私たちと違って、人間は歳をとるの……」美琴が寂しげに微笑んだ。「今、この国では超高齢化社会って言われて、お年寄りの数が若い人よりも多いのよ。昔は……昔はみんな若かったのよ。だから、亀さんみたいな人が商店街を盛り上げていたの……。そうでしょう、店長?」
「美琴さんの言う通りだわ」
私は頷き、シャッターが閉ざされた向かいの店舗を見つめた。
「シャッターが閉まったお店は大半が、後継ぎがいないとか、歳をとったかで、お店を辞めたところよ。勿論、ここもそうだったけど……。大家さんが**"おとぎ前線"**を守らないといけないって、私がここに入ってくるまで、一人で守ってきたと言っていたわ……」
大家さんの皺だらけの手と、契約の時の真剣な眼差しを思い出した。
この寂れた風景は、単なる不景気だけではない。長い年月が積み重なった、抗いようのない時代の流れそのものだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




