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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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深夜零時の訪問者

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

深夜十二時を回っていた。

雫は、オープン準備のために移動させた機材の配置を最終確認し、腰を伸ばした。空き店舗独特のひんやりとした空気が、彼女の静かな熱意を冷まそうとするように肌を刺す。

(さて、いい加減遅いし、家に帰るか)

心の中で呟き、出入り口に向かおうとした、その時だった。

ガタガタガタガタ……

店の奥、昨日大家から「決して開けるな」と厳命された、鍵のかかった重い扉から、微かな振動とともに異音が聞こえ始めた。

雫は思わず立ち止まる。全身の血の気が引くのを感じた。

そして、カチリ。

扉の鍵が開く、はっきりとした音が静寂に響き渡った。

「うわあああーッ」

物静かな雫には珍しく、甲高い悲鳴が喉の奥から漏れた。彼女は身構えることもできず、ただその場に立ち尽くす。

扉が軋む音とともにゆっくりと開き、向こう側の暗闇から、四つの人影が現れた。四人はそれぞれ、耳や尻尾のようなものが見える、奇妙な衣装の少女たちだった。

「あれ?大家さんじゃない?」

最初に声を上げたのは、オドオドした雰囲気の茶髪の少女、沙希だった。

「ええっ!前線が通れるようになってるから……てっきり。この人……誰?」

リーダー格らしい明るい瞳の少女、祈里が、無邪気に雫を指さす。

「凄まじい**神気しんき**を感じるけど、この人からじゃないわ」

メンバーの中で最も落ち着いた、美しいプラチナブロンドのロングヘヤーのお姉さん、美琴が静かに分析した。

「この人形!」副リーダーの神那が、驚きのあまり声を上げた。「人形じゃない!」

神那の視線の先にいたのは、沙希の足元にいる、子狸の姿をした小さな編みぐるみだった。

「やっと、現れましたねー沙希様」

狸の編みぐるみは、待たされてやや怒ったような声で喋った。

ドスン。

雫は腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。静かに物事を受け入れる冷静な彼女も、こればかりは耐えられなかった。

「狸の**"編みぐるみ"**が、しゃ、喋ってるー」

「沙希様が最近、祐徳稲荷神社周辺に現れたと聞いて、ヌシ様に頼まれて、この姿で"おとぎ前線"の前で待っていた甲斐がありました」

「わ、私?」沙希はオドオドしながら、編みぐるみを見下ろした。

「とりあえず、ちょっと待って」美琴が、至極冷静に状況を整理した。「この男の人、普・通・の・人・間よ。大家さんや宮司さんでもない。それに神気は別のところにある。離れたところから前線をこじ開けた神様の気配を感じる……しかもこの人、その神様の加護を受けてる」

雫は、腰を抜かしたまま、ひきつった顔で尋ねた。

「き、君たちは一体……」

「私の名前は祈里いのり。宜しくね♪」

祈里は、場の緊張など気にも留めず、明るく自己紹介をした。

「祈里!」美琴が注意した声を出した。

「私の名前は神那かんな。そこの能天気で勝手に自己紹介した彼女が祈里。そして、この美しいお姉さんが美琴さん、そして、このオドオドしてるのが**沙希さき**よ」神那は、冷たい視線で雫を見据えた。

「私たちは、沙希は違うけど……あなたたちが祭るウカノミタマ様、あなたたちがいうところのお稲荷様の眷属けんぞく。つまり眷属というのは、お稲荷さまに連なる高潔な一族」

神那の言葉は畳みかけるように続いた。

「なぜ、普通の人間では開けることができないおとぎ前線が開いたのか。そして、何故、あなたがいるのか?そして、あなたは何故、神様の、それもかなり高位の神様のご加護を受けてるのか?聞きたいことは沢山あるけど……。加護を受けている以上、秘密を知る権利はあるっていう事」

神那は、最後に声を荒らげた。

「そして、沙希!」

「ひーっ!」沙希は怯えた声を上げた。

「このチビ狸は何?貴女と同じ気配がするけど……」

「よーーく聞いてくれました。私の名前は亜都あと」編みぐるみは、まるで立派な執事のように声を張った。「そこにおわします沙希様が消息をお絶ちになって、数百年……次期**隠神刑部いぬがみぎょうぶ**と称された沙希様を探す為、八百八狸一族総出で探していたものの姿かたちも気配も感じず……ようやく最近、このおとぎ前線で姿をみたという風の噂を耳にし……」

状況を把握しようとする努力を完全に放棄し、雫は震える声で尋ねた。

「す、すいません。これって夢ですかね?」

「夢じゃないよ♪」祈里は天使のような笑顔で否定した。

「と、とにかく、私はもうお**いとま**します……。お、お疲れ様でしたー」

雫は腰を抜かしたまま這いつくばるようにして立ち上がり、一目散に出入り口へ駆け出した。バタリと扉が閉まる音が、神族の少女たちがいる異空間と、現実の世界を区切った。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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