戦神と黄金の女神
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
場所: アースガルズ(北欧神話の舞台)。
時間: ブラジルからのワープ直後。
ビィィィーンと、空間を切り裂く音が響き、IS:Tの三柱がブラジルの熱気から解き放たれた。
しかし、次に待っていたのは、肌を刺すようなヒューッという雪の吹雪く音。あたり一面は氷と岩に覆われた極寒の地だった。
「さ、寒い……。ここはア、アースガルズ?」
白は、珍しく身体を小さく震わせながら言った。
「アース神族の世界だね。ここは怖いお兄さん方しかいないと思うけど……」慶は既に体が縮こまっていた。「べ、紅?」
「フリッグ様に会いに来た」
紅は寒さにも動じず、きっぱりと言い放った。
「(大変驚いた声で)フ、フリッグ様! HEY! ただでさえYABAIのに! 怖い兄さんか姉さんしかいないこの国で、紅、フリッグ様に会いに来たんだ」
慶は急に声のトーンを落とし、まるで世界が終わったかのように落胆した。
「慶、フリッグ様って誰?」白が尋ねる。
「白、知らないのか? フリッグ様? この世界、アースガルズの最高神"オーディン"様の奥様、最高神"オーディン"夫人だよ。このアースガルズ"最強の女神"」
慶はフーッとため息をついた。
「"オーディン"様は私も知ってる。アースガルズどころか神様の中でも**"戦神最強"**とも言われてるのを聞いた事がある」
「SOU! その**"戦神最強"**とも言われる方が一番恐れてる、ある意味一番怖い神様」
慶はプッと吹き出した。
「慶、何故、急に笑う。気持ち悪い……」
「ここは寒いわ、紅が会いにきたのが"フリッグ"様とか……ウチには理由が全くわからへん。もう笑うしかない」
慶はヤケになったように、はははははははと大笑いした。
その笑い声と同時に、ズドドドドオドドドドンという凄まじい音と衝撃が起き、三人が立つ地面が激しく揺れだした。
ズブッと、三人の足元近くの地面に、巨大なハンマーが雷を放ちながら突き刺さった。ハンマーはプスプスと音を立て、焦げた土の匂いが立ち込める。
「(凄い怒気で)お前ら、何者だ!」
声の主は、真っ赤な髪と髭を持つ、筋肉隆々の巨大な男神だった。
「(驚きの声で)きたー! あの神様でしょ? あの有名神! どう見ても、間違いない! あの雷といい、あのデカいトンカチ……あんたも分かるでしょ。あのデカいトンカチみたら……」
慶は興奮気味に紅と白に囁いた。
「(かしこまりながら)僭越ながら、あなた様は、"トール"様ですか?」
紅は毅然とした態度で尋ねた。
「(怒声が収まり威厳のある声で)お前、異国の神の一人か……。出自はジャパンあたりか……。あ、あとその女神は知ってるぞ! **"ビ・リ・ケ・ン"って名前だろ。"足・を・掻・く"と良いことが起きるという噂の……」トールはフフッと笑った。「"あ・い・つ"**が言ってたな! もう一人は天界のやつか……また奇妙な組み合わせだ。それとな、自己紹介するときは自分の名前から先に言え!」
「私の名前は紅といいます。ジャパンの"ウカノミタマ"様の小さな摂社の一つを任されていた力なき者……」
「力なきね……。俺は嘘・つ・きは好きじゃないのだが……」トールは鋭い視線を紅に向けた。「"ウカノミタマ"は知ってるぞ! **"あ・い・つ"と仲が良いからな。"あ・い・つ"**と仲が良い神の関係者とは余程、運のいい奴だ」
トールは興奮が収まらない様子で、自分の信念を語った。
「俺は血の気が多い方でね。強いやつとは手合わせするというのが信条なんだ」
「紅も……慶も……私も……みんな女。そんな……いきなり喧嘩を売るなんて神様だけど神様のすることじゃない!」
白が、抑揚のない口調ながらも強い抗議の意を示した。
「この世界では男も女も関係ない。力あるものが全て! ヴァルハラの**"ヴァルキリー"達も皆、女だがみんな滅法に強いぞ!それに"あ・い・つ"は女だが、俺が知る戦神**の中で一番か二番目位に強い。俺が逆にコテンパンにされるからな」
トールは急に声のトーンを落とした。そして、再び熱を帯びる。
「でも最近は**"あ・い・つ"の噂は聞かんな……。だが、最近、"あ・い・つ"が強引に"前線をこじ開ける力"**は感じたぞ!」
トールはハンマーの柄を掴み、豪快に大笑いした。「ははははははは……!」
「まあまあ、トール様の言われる**"あ・い・つ"はウチラも知りませんが、身内の話は身内でしてもらって……。ウチラは非戦闘系の"優しい神様"**なんで……」
慶は愛想笑いを浮かべ、トールの気を逸らそうとした。
「(トールを睨めつけて)私、こいつ……嫌い……」
白は感情を露わにしないが、トールへの敵意を隠さなかった。
「おっ! やるのか天使の嬢ちゃん? 俺様は強いぜ!」
トールが白に顔を近づける。
「白、ダメ。私たちはここに戦いに来たんじゃない。トール様」
紅がトールの前に立ちはだかった。
「なっ、なんだ……」
「失礼なお願いとは存じますが、お願いしたいことがあります」
「なんだ。なんだ。俺様にお願いって……。戦う以外は俺様にはできんぞ!」
「いえ、ここでお会いしたのも何かの縁。最高神オーディン様と肩を並べると称されるトール様なら叶えられる小さな願いです」
紅は、トールのおだてに成功した。
「ほーぅ。その小さな願いとは? 条件によるが……」
「"フリッグ"様にお会いしたいのです。トール様の力添えなら簡単なはず」
紅の口から出た名前に、トールは一瞬で血の気が引いたような顔になった。
「(驚きの声で)フ、フ、フ、"フリッグ"に会わせろだとーーーーーーー!!!」
雷神の驚愕の叫びが、アースガルズの極寒の空に轟いた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




