歌の神、サンバを学ぶ
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
場所: オドゥドゥア(ブラジルのリオデジャネイロ州某所にあるカンドンブレの祭壇場)。
時間: 「IS:T」がワープミスで到着した直後。
カンドンブレの祭壇前。
水の女神ナナン、そして日本の神々である紅、慶、天使の白の四柱が向かい合って立っていた。熱帯の濃密な空気が、彼らの周囲を静かに満たしている。
ナナンは、深い知恵を宿した眼差しで紅を見据えた。
「JOY TRIP……"喜びの旅"、"歓喜の旅"か……。目的はそれだけではないじゃろう?」
ナナンは、紅が自身を「小さな摂社の神」と偽ったことを見抜いていた。その問いに、慶は慌てて応じる。
「オフコース! い、いや、これには深い理由がありまして……」
「サンバを聞きに来ました。そして、学ぶために」
紅は慶を制し、真っ直ぐにナナンを見つめて言った。その声には、一切の虚飾のない熱意が込められていた。
「私は歌うのが好きなんです。どんな歌でも私は良いものは全て吸収したい。みんなを喜ばせる**"歌・の・神"**様になりたい」
ナナンは静かに聞き入った。
「**"歌・の・神"か……。ジャパンにも"歌・の・神"**がいるじゃろうに。サンバをとな?」
ナナンは一拍置くと、満面の笑みを浮かべた。
「おおおっ、適任がおるよ。ちょっと待っておれ」
ナナンは口を開き、祭壇に向かって呼びかけた。
「オーラ・イエイエオー。オーラ・イエイエオー。オシュンいるかの?」
ナナンが出現した場所と同じように、空間が再び歪む。ビィィィーンという音と共に、一人のセクシーで華やかな女性が現れた。全身から眩いほどの美と魅力を放っている。
「お婆ちゃん、わたくしを呼びました?」
女性はナナンに問いかけながらも、一瞬、白の姿を横目で捉えた。
「呼んだよ。サンバを聞かせて欲しいとな。そこにいるのは紅さんというのだが、その彼女にあんたのサンバを聞かせてあげて欲しい」
「そ、それは良いですが……。第二階位の天使様が何故、こちらの世界に……」
オシュンは白を見て、敬意を込めた困惑の表情を浮かべた。
「白、このセクシーなお姉さんとお知り合いなのか?」
慶は既に腹を抱えて笑っている。「ハハハハハ……! ビュティフォー!」
「彼女もナナン様と同じく元は人間だったもの。私の世界では**"聖女カタリナ"**と呼ばれている……。彼女も天界にいるといつも思ってた」
白は抑揚のない声で説明した。
「**"ケルビム"**様、わたくしもこちらの世界ではお婆ちゃん……いや"ナナン"様と同様、"オシュン"と呼ばれています。わたくしもこちらの世界の方が居心地が良いもので……」
オシュンはふふっと魅惑的に笑った。
「"オシュン"、歌ってあげてくれ」ナナンは無邪気に促した。「そして、自慢の踊りを見せるのじゃ」
「分かりましたわ」
オシュンは優雅に祭壇から離れ、少し広い場所へと歩いていった。そして、目を閉じる。
「オーラ・イエイエオー。オーラ・イエイエオー」
静かなサンバのリズムが、どこからともなく響き始めた。オシュンは身体を揺らし、その美しいハモリと共に歌い出す。ふわりと舞う鮮やかな衣装。女性の美と喜びを司る彼女の歌と踊りは、熱狂的でありながら、同時に神聖なものだった。
やがて静かにサンバのリズムがフェイドアウトし、オシュンが目を開けた。
「はい。これで終わり」
パチパチパチ……
IS:Tの三柱から、惜しみない声援と拍手が起こる。
「ありがとうございました」紅は深く頭を下げた。
「"聖女カタリナ"、凄い……」白は、珍しく「凄い」という言葉を口にした。
「いや~ウチもセクシーやけど、また違ったセクシーさ♪ 素敵や、ビュティフォー!」慶は興奮気味に言った。
「紅さん、少しは勉強になったか?」ナナンは紅に尋ねた。「ありがとう、"オシュン"」
「少しでもお役に立てば幸いですわ」オシュンが微笑んだ。
「"ナナン"様、"オシュン"さまにも感謝します」
紅は再び、深く頭を下げる。そのお辞儀は、ジャ・パ・ンの神様らしい礼儀正しさだった。
ナナンは、紅の姿を一瞬、値踏みするように見つめた。
「紅さん、"オシュン"の歌声を聴いた後、そなたの**"神気"がまた急激に上ごうた? みんなを喜ばせる"歌・の・神"様になるって話はあながち嘘ではないという事か……。他の世界の"歌・の・神・々"**にも会いにいくのじゃろう?」
ナナンは全てを見通していた。
「YO! 紅、ここでの用は済んだか?」
慶が次の旅を急かす。
「済んだよ。再び、次の"JOY TRIP"へ♪」
紅が笑顔で答えると、三柱は互いに頷き合った。
ギュィーン
再び空間が歪み、三柱の姿は光の中へと消えていった。
ナナンは、オシュンと顔を見合わせ、老婆とは思えぬ大きな声で笑った。
「"オシュン"、あの三人の**"喜・ビ・ノ・旅"が終わった時、あの小さな摂社の神様らしい紅さんは、"さん"**つけじゃすまんかもな……」
ははははははは……
聖なる祭壇場に、二柱の笑い声だけが残った。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




