最終話:真説・おとぎ前線【壱】〜祐徳稲荷門前商店街編〜
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
八月二十七日、午後十一時過ぎ。北部九州の日本海上空には、この世の終わりを予感させる禍々しい暗雲が垂れ込めていた。
そこには、NAIが率いる蕃神たちの大軍が、空を埋め尽くさんばかりに蠢いている。対峙するのは、風神である級長津彦命と級長戸辺命の二柱。そして、激戦を潜り抜けてきた「IS:T」の面々だった。
「もう、遅いよ。この大軍を見て」
NAIは不敵な笑みを浮かべ、眼下に広がる列島を見下ろした。
「これだけの数がいれば、この日本くらいは滅ぼせるよ。楽しみだな……人間たちが苦しむ姿、叫び、泣き声、悲鳴……」
「おっ、お前……!」
紅が怒りに肩を震わせる。その眼差しは、かつてないほどの敵意に燃えていた。
「僕の“願威”まで奪っておいて……こんな滅びが決まってる地なんて、もういっそのこと、早く滅んじゃえ」
悔しげに吐き捨てたNAIに対し、紅は烈火のごとき勢いで言葉を叩きつけた。
「願居はお前のものじゃない……。願居は、願居は……!」
その瞬間、紅が極限まで抑え込んでいた神気が、堰を切ったように溢れ出した。大気を震わせるほどの圧力に、周囲の空間が歪む。
「ゆ、許さない! 願居を騙して連れて行ったこと。そして、願居の気持ちを踏みにじんだこと……お前がしたこと、全て許せない!」
紅から放たれた神気の奔流が、ドオオオオオオオオオンという爆発音と共にNAIを直撃した。衝撃に吹き飛ばされ、NAIはその身体を苦痛に歪ませる。
「いたたたた……痛いよ、お姉ちゃん。僕は願威を騙してはいない。彼女が欲しいと思ったものをあげただけだ……何か許せないことを僕はしたのかな?」
「べ、紅……」
白が心配そうに声をかけるが、紅の決意は揺るがない。
「白、大丈夫だよ。こいつは私が……」
「それが……小さな摂社の伝承芸能の末神の力ね……」
NAIは傷ついた身体を引きずりながら、ハハハハと自嘲気味に笑った。
「混沌そのものである僕・が、まんまと騙されちゃったってわけだ!」
「べ、紅、だめだ。蕃神たちの軍勢が近づいてくる……!」
白の焦燥に満ちた声に応じるように、不気味な異音が空を支配し始めた。何万、何十万という羽虫が羽を激しく擦り合わせるような、耳を劈く音が迫りくる。
慶は、空を覆い尽くさんとする異形の軍勢と、不気味に笑い続けるNAIの姿を見て、風神の二柱へと縋るように叫んだ。
「お、御神様、どうしたら良いんだ! あの蕃神たちの軍勢……それに、あのNAIって奴も!」
級長津彦命は、フ~~~ッと長く重いため息を吐き出した。
「お、御神様……」
紅が不安げに級長戸辺命を見つめると、女神は申し訳なさそうに、しかし冷徹な宣告を下した。
「紅ちゃんゴメンね。私達の神気を全開放して、あいつも一緒にまとめて始末するから……。紅ちゃんたち……あなた達は、私達が今から起こす衝撃の被害を抑えるフォローに回って。なるべく、被害を少なくするように防いで……」
「は、はい。御神様の仰せの通りに……」
紅が覚悟を決めて頷く傍らで、慶は驚愕に目を見開く。「お、おい! あんた……」
「色々と頼んでしまって、すまんな」
級長津彦命が低く謝罪を口にすると、慶は毒気を抜かれたように顔を引きつらせた。
「い、いや……そんなに悪くは思ってない……」
「行くか」
「行きましょうか……」
風神の姉弟は、静かに、しかし抗いようのない威圧感を纏って、蕃神の大軍の前へと歩み出た。
「あら、僕、本気で怒らせちゃったみたいだね」
NAIは冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。そんな偽りの子供の姿を、級長戸辺命が冷たく切り捨てた。
「偽りの姿でいくら可愛く見せようとしても、お前には何もない。何も存在しない。全ての混沌そのものだ」
「ちぇっ、残念……。今回は大失敗かな。でも、また来るよ」
「もう二度と来るな。あと、地球の戦神を馬鹿にするなよ。消し炭になりな……一瞬で終わらせてやる。一瞬だ」
級長津彦命の静かな怒りが大気を凍らせる。「姉さん、準備は?」
「いいわよ!」
「よし!」
二柱の神が声を揃え、究極の浄化を宣告する。
「消え去れ、混沌! 消し去れ、蕃神!」
次の瞬間、ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンという、天を割るような大爆発が起こった。凄まじい雷光が暗闇を焼き、怒り狂う大風が異形の軍勢を粉砕していく。
あたり一面は、再び深い暗雲に覆われた。やがて、ぽつり、ぽつりと降り始めた雨は、瞬く間に激しさを増し、全てを洗い流すかのような豪雨となって海へと降り注いだ。
(真説・おとぎ前線【壱】〜祐徳稲荷門前商店街編〜 ―完ー)
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。この物語の続きはスピンオフ作品である「シュカ」に繋がります。




