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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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IS:T エピローグ:救われた願居

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

午前四時、未明。“裏”の世界の佐賀県太良町、大魚神社おおうおじんじゃ


 海中鳥居かいちゅうとりいの先に広がる静かな海上で、浄化の儀式は最終局面を迎えていた。べには、愛する願居ねがいをその腕に抱き、彼の魂を蝕む漆黒の闇と対峙していた。その様子を、ジャパンの風神である級長津彦命しなつひこのみこと級長戸辺命しなとべのみことの二柱が、固唾を呑んで見守っている。


岩崎大神いわさきたいしん殿は、あの子の闇・を探し出したようだな!」

 級長津彦命が、青年らしい張りのある声で状況を察した。


「これからが正念場よ!」

 級長戸辺命が、紅へ向けて鋭く、しかし導くように声を飛ばす。「岩崎大神殿、その子を包み込む闇・を自分の中に取り入れるの……」


 紅は願居を慈しむように見つめ、優しく囁いた。「願居……あと少しの辛抱よ……」

 直後、彼女の顔が苦痛に歪む。願居から流れ込んでくる膨大な闇の奔流に、紅の喉から「ウウウウッ」と苦しげな声が漏れた。


「し・な・つ!」

 級長戸辺命が弟神に指示を飛ばす。


「岩崎大神殿があの子の闇を全て取り込んだら、すぐに引き離して! そして、すぐに“表”の世界へ続くお・と・ぎ・前・線・を通り抜けて!」


「姉・貴・はどうするんだ」

 級長津彦命が少し驚き、姉を見やった。


「もし、岩崎大神殿がすぐに邪神化じゃしんかしたら、その子まで道連れになるからね。私が何かある時は足止めをするわ」


「わ、分かった。俺は願居を引き離したら、すぐに“表”の世界へこの子を送り届けて戻る。姉貴はそれまで様子を見ながら、足止めするんだな」

 納得した弟神に、級長戸辺命はフフフと余裕の笑みを浮かべた。


「よくできた弟・ね」

「何十億年、弟・をやってきたと思ってんだ! じゃあ、準備するぞ」

 依りよりしろとなった紅の身に、願居の闇が容赦なく吸い込まれていく。


「ウウウウウッ……!」

 紅は声にもならない呻き声を上げ、身をよじらせた。意識が朦朧とする中、彼女は最期まで彼女を想う。「ね、願居……」


「姉貴、見ろよ! 凄いな!」

 級長津彦命が、信じられないものを見るような声を上げる。「俺が思っていた想像以上の速さで闇・を吸収している……。こいつはもしかして……もしかしてか?」


「うわああああああああ!」

 紅の絶叫が、静寂の海に響き渡る。


「もう、闇を吸収してしまいそうだから、早くあの子を!」

 急かす級長戸辺命の声に、級長津彦命が応じる。「わ、分かってるって」


 ついに願居の闇をすべて吸収し尽くした瞬間、紅の指先から力が抜け、強く握りしめていた腕が緩み始めた。


「し・な・つ・、行って!」

 姉の叫びと同時に、級長津彦命が風となって駆ける。海上へと落下する願居の身体を、見事な手際でキャッチした。


「飛ばしていくぜ!」


「頼むわよ!」

 級長津彦命はそのまま凄まじい勢いで飛行し、海中鳥居に揺らめく「おとぎ前線」を突き抜けて“表”の世界へと消えていった。

 残された海上。級長戸辺命は、苦悶する紅の側へとゆっくり近づく。

「岩崎大神殿、私の声が聞こえる?」


「うわああああああああ!」

 紅の叫びは止まらない。取り込んだ闇の根源が、彼女の魂を塗り潰そうと暴れ狂っていた。


「これが、貴女から去った願居の闇・の根源よ」

 級長戸辺命は声を張り上げ、紅の魂に呼びかける。「でも、貴女は二十年前の昔の貴女じゃない。その極限まで抑え込んだ神気しんきをすべて解放しなさい! それで、もうすべてが終わるわ」

 女神は一度言葉を切り、不敵な笑みを漏らした。「そう……いとも簡単にね」


「うわああああああああ!」


「さあ、神気を解放しなさい! 岩崎大神殿、今、貴女が持てる神気で、すべてを祓いなさい!」

 その言葉に応えるように、紅の全身から爆発的な光が溢れ出した。彼女を包み込んでいた禍々しい闇の力は、眩い神気の輝きによって、一瞬にして露と消え去った。


「ね、願居……」

 憑き物が落ちたように穏やかな表情を浮かべた紅は、しかし力尽き、意識を失いながら水面へと倒れ込む。それを、級長戸辺命が優しく抱き止めた。


「余りにも長い時間、自分の神気を抑え込みすぎたから、力加減が分からなくて、驚・き・で・気・を・失・っ・た・み・た・い・ね」

 女神は呆れたように、しかし愛おしそうにフフフと笑った。


 そこへ、おとぎ前線を通って級長津彦命が戻ってきた。彼は目の前の光景に目を見開く。


「お、終わったのか! 早くないか、姉貴!」


「私達は必要なかったみたいよ。あのいもうとが何でも知ってて、保険のつもりで頼んだんじゃないの」


「そうか……あいつならやるだろうな」

 級長津彦命は溜息を吐き、呆れた声を出す。


「余り俺達を振り回さないで欲しいんだが……」


「しなつ、それでは私達も戻りましょうか」

 昇り始めた朝日が、静かな海面を照らし始める。嵐は去り、神々の長い夜が明けようとしていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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