表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/117

紅と願居のキズナ

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

深夜三時三十分。海中鳥居の上に揺らめく「おとぎ前線」が波打ち、そこから二柱の風神と、願居ねがいを抱きかかえたべにが姿を現した。辿り着いたのは、“裏”の世界における佐賀県太良町の大魚神社おおうおじんじゃ。境界を超えた先にあるその場所は、不気味なほどの静寂に包まれていた。


「ウウウウウッ……!」

 願居の喉から、理性を失った獣のような、声にもならない呻きが漏れる。


「静・か・だ……」

 級長津彦命しなつひこのみことが周囲を見渡した。「“表の世界”も“裏の世界”も、この静けさは場所が変わっても変わらないか……」


「では、始めましょう……。岩崎大神いわさきたいしん殿」

 級長戸辺命しなとべのみことが落ち着いた、しかし重みのある声で問いかける。


罪穢つみけがれを被り、大祓おおはらいする覚悟はできたかしら」


「もうと・っ・く・に・覚・悟・は・で・き・て・ま・す・!」

 紅は泣き出しそうな声を振り絞り、力強く答えた。


「では! 岩崎大神殿、海中鳥居より先にある広・い・海・上・ま・で・……」

 級長津彦命の先導に従い、紅は震える足取りで海へと向かう。


「分・か・り・ま・した。……願居、行こうか」

 腕の中の愛しい存在に優しく囁き、彼女は水面を渡った。


 鳥居の先、遮るもののない広い海上で、一行は足を止めた。

「今から、願居の大祓を行います」


 級長戸辺命が儀式の厳粛さを説く。「岩崎大神殿、この儀式は大変危険なものです。通常は人で作られた『人形ひとがた』を依りよりしろとして罪穢を移し、外部から滅するもの。ですが今回は、貴女自身が願居の依り代となり、全てを被らなければならない。そして、ご自身の神気しんきでそれを打ち破るのです……!」


「人間でも、眷属でもねえ。今の願居はもう、悪神あくしん邪神じゃしんだ」

 級長津彦命が冷徹な事実を突きつける。


「その子が闇・に心の全てを許した瞬間に、もう救われねえ」


「もう時間がありません」

 級長戸辺命が急かすように言葉を重ねた。


「岩崎大神殿、もし貴女がその子の闇を被り、ご・自・身・の・中・で・打・ち・破・れ・な・か・っ・た・場・合・は・……」


「分かっております……」

 紅は、その先に待つ運命を察し、短く応じた。


「その時は、私とし・な・つ・が、貴女を苦・し・ま・せ・ず・に・滅・し・ま・し・ょ・う・」

 女神の声に悲しみが混じる。「そして、貴女によって救われた願居は、私・た・ち・が・責・任・を・持・っ・て・、こ・れ・か・ら・ず・っ・と・見・守・り・続・け・る・こ・と・を・誓・い・ま・し・ょ・う・!」


「あ、ありがとうございます……。ねえ、願居は必ず、助けてあげてください」


「俺と姉貴に任せろ! では、始めるんだ」

 級長津彦命が気合を入れるように命じた。


「まず、願居を浸蝕している闇を感じろ。そして、それを自分の中に取り入れるんだ……」


「はい……。願居、あともう少しだよ……」

 紅は大きく深呼吸をし、フ~と長く息を吐き出した。彼女は願居を包み込む「闇」の在り処を探るように、より強く彼を抱きしめ、静かに瞼を閉じた。


「心が一番通じ合う者なら分かるはずよ」

 級長戸辺命の導く声が聞こえる。「願居の中にある、闇の根源が……」

 深い、深い精神の闇の中。紅は愛する者の魂を呼び続けた。


「願居、どこにいるの……私よ。紅よ……」

(紅さん……紅さん……どこ、どこなの……)

 闇の奥底から、弱々しい願居の声が返ってくる。


「願居、迎えに来たよ。二人で一緒に帰ろう……岩崎社へ……ふるさとへ……」

(紅さん……ダメなの……どんなに頑張っても、頑張っても……“歌でみんなを幸せにすること”ができないんです……)


「もう大丈夫だよ……」

 絶望に染まる願居の魂に、紅は慈しみを持って語りかける。


「願居の側には私がいるから……。それに、みんなじゃなくても良いんだ。願居がいなくなってから、自分の力の無力さを感じて自・暴・自・棄・になってた時もあったけど……出会えたんだよ。大切な仲間たちに。願居も出会えただろう?」

(ら、雷鳴、蒼風、緑風、雷光……Gale & thunderのみんな……)


「私も出会えたんだ。慶と白……IS:Tイズティーの仲間たち。自分だけじゃ無理だけど、仲間や大切な人たちが居れば、いつか叶えられるって。み・ん・な・を・幸・せ・に・す・る・なんて、どんな凄い神様だってできてないことだから……。時間はかかるかもしれないけど、いつか絶対に叶えられる! だから、今度こそ一緒に頑張ろう。私は見てきたんだ、世界中の歌や踊りを! そして分かったんだ。歌・や・踊・り・に・は・垣・根・は・な・い・。だからこそ必ず、私・た・ち・の・歌・は・世・界・中・に・響・き・渡・る・よ!」

(べ、紅さん……た、助けて……。私はここに……)


「どこにいるの……」

(私はここです……ここに……)

 漆黒の闇を掻き分け、紅はついに見つけ出した。震え、蹲る願居の真実の姿を。


「ねえ、願居……やっと会えた」

 紅は優しく微笑み、彼の魂をその腕でしっかりと受け止めた。運命を賭した浄化の儀式は、今、真の局面を迎えようとしていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ★★★ブクマ・ポイント評価お願い致します!★★★


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ