戦場の痕
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
深夜二時三十分。佐賀県太良町、有明海の波打ち際に立つ大魚神社。干潮に向かう海の中、三基の海中鳥居が月明かりに照らされ、静かにその姿を現していた。
その上空に、突如として数多の神気が凝縮し、一行が姿を現した。「IS:T」の白、紅、慶。そして彼女らを支える「Gale & thunder」の四柱。紅の腕の中には、今にも邪神化せんとする願居が、苦しげに息を弾ませていた。
「あんた、スゲーな!」
雷光が驚愕の声を上げた。
「キャラクターから神・格・化・したって聞いてたから、甘く見てたよ……。早え〜! 一気に俺達をここまで空間移動で連れてくるなんてな。正に神・速・ってのは、こんな事だ!」
「YO! YO! 私はこれでも高・位・の・神・よ!」
慶は自慢げに胸を張り、得意の韻を踏むように言葉を重ねる。
「世界中でウ・チ・は・愛・さ・れ・て・る・からね! それに……」
慶はふと一呼吸置き、少し馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ウチは『IS:T』三柱の中で飛んだり移動したりするのが一・番・苦・手・なんだ。こ、これで……これでビビってるとはね。雷神はみ・ん・な・怖・いと思ってたけど、ウチの勘違いだったみたいだね〜」
「所詮、俺・達・は・眷・属・だ・!」
雷光は不貞腐れたように顔を背ける。「確かに神気はあるが、神・た・る・位・置・には至っていない。そんな格下相手に自慢するんじゃねえよ! それに……『慶』って名乗ってるけど、あんたビリケンさんだろう。ビリケンさんといえば、我・が・御・神・様・の……」
「無・駄・話・は・や・め・ろ・! 雷光!」
鋭い声が、雷光の言葉を遮った。雷鳴が怒気を込めて嗜める。
「俺らはただの眷属……あの方は『神』様だ」
「……すみませんでした」
雷光は申し訳なさそうに項垂れた。慶も気まずそうに視線を泳がせる。
「い、いいよ。ウ・チも雷神には色々と抵抗があってね……ゴメンね」
「『おとぎ前線』の前で、我が御神二柱様がお待ちされている。みんな早く……」
緑風が促す。彼が腕を伸ばした先、海中鳥居の傍らに、圧倒的な威厳を放つ二つの人影が立っていた。
「ジャ・パ・ン・の・原・初・の・風・神・……。双・子の姉弟……」
白が静かにその名を口にする。慶は本能的な恐怖に身をすくめた。
「やっぱり、あの御神様方は怖い。ウ・チとは次・元・が・違・うというか……」
一行が近づくと、蒼風が深く頭を下げた。
「お待たせいたしました。我が御神様」
「やっと来たか……」
不貞腐れたような声を上げたのは、風神・級長津彦命であった。
「申し訳ございません」
蒼風と緑風が揃って謝罪するが、その横から少し怒気を含んだ女性の声が響く。
「あなたの眷・属でしょ? もう少し労わりなさい!」
風神の姉、級長戸辺命が弟を嗜める。
「姉・貴・、悪い悪い。いつものあいつらに対する癖・でね」
「私達みたいな古・臭・い・神・様・は・、常・に・謙・虚・で・腰・を・低・く・し・な・い・と……」
「ふん、謙・虚・だなんて、姉・貴・らしいな」
級長戸辺命は、腕の中に願居を抱く紅へと視線を向けた。
「はじめまして。あなたが『岩崎大神』殿ね。そして、ビリケンさん……。そして……」
女神の視線が白に留まり、その目が細められる。
「級長津、珍・し・い・お・客・さ・ん・も・い・る・わね。天・使・ケ・ル・ビ・ム・……。お・久・し・ぶ・り・、ってところかしら」
「は……白、それってマジ!」
慶が驚愕の声を上げ、白を見やる。白は表情を変えず、ただ短く応じた。
「マ・ジ。……紅と願居を連れて来た。助けて」
「それを今日、『妹』に頼まれてやってきてるんだよ!」
級長津彦命が威勢よく答える。雷鳴が畏まりながら問いかけた。
「恐れながら申し上げます。我が御神様……火雷天神様はいずこに……」
「天神くんは今、大雷ちゃんと姉弟二柱で仲良く、蕃神退治よ!」
級長戸辺命の言葉に、級長津彦命が怒声を重ねる。
「お前たちが蕃神の王からその『願威』を守っている時に、裏・で・奴・ら・は・コ・ソ・コ・ソ・や・っ・て・た・んだよ! こ・の・国・を・包・囲・す・る・よ・う・な・形・に・大・軍・で・押・し・寄・せ・て・き・や・が・っ・た!!」
「でも安心して」
女神は優しい声で一行を包み込む。「この国を囲んでいた蕃神の奴らの多くは、我々原・初のき・ょ・う・だ・い・達・が対処したわ。ただ……被・害・も・大・き・か・っ・た・けれど」
「あの二柱は今は九州を少し南に離れた海上にいる。それに見て、この有明海の様子を……」
級長津彦命が指し示した先には、ただ不気味なほどの静寂が漂う海原が広がっていた。
「恐れながら……天・女・の姿が誰一人とも見えません……」
緑風が声を震わせる。
「そうだ!」
級長津彦命が怒りを滲ませる。
「この場所も、真っ先に蕃神達が攻めて来てたんだよ。それを有・明・海・の・天・女・達・が総・出・で対処してた。だが、俺と姉貴が来た時は、戦・い・は・、ほ・と・んど・終・わ・っ・て・い・た・……」
「蕃神達相手に、彼・女・達・は・凄・か・っ・た・よ」
級長戸辺命が悲痛な面持ちで海を見つめる。
「誰・も・負・け・は・し・な・か・っ・た・。でも、有明海の天女達はみんな、息・絶・え・絶・え・で・虫・の・息・だ・っ・た・の……」
神々の、そして天女たちの壮絶な守護の戦いがあった。紅は腕の中の願居を強く抱きしめ、目前に迫る大祓への決意を新たにする。有明の海を渡る風は、ただ冷たく、神々の悲しみを運んでいた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




