二つの巨大な神気
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
深夜二時、静まり返った岩崎社の空気は、さらに重く、鋭く張り詰めていた。紅のベッドに横たわる願居を囲み、神々はその過酷な運命を突きつけられていた。
「ちょ、ちょっと待って……」
慶は溢れそうになる悲しみを必死に堪え、震える声で問いかけた。
「その話……じゃあ、この一件は二十年も前から仕組まれていたっていうことなのかい……」
凛とした声で、雷鳴が重く頷く。
「確かに、仕組まれていたのかもしれません。願威が『蕃神の王』から救い連れ戻された、あの時から……」
「ウウウウウッ……!」
再び、願居の喉から声にならない呻きが漏れる。魂の深淵が闇に削られていくような、おぞましい音。その苦悶を間近で聞いた紅は、たまらず叫んだ。
「ね、願居を早く! 私が願居の罪穢を被るから……お願い!」
「紅……君はもう、本気なんだね」
慶が顔を歪める。
「でも、もし失敗すれば、紅自身が邪神化してしまうんだ。そんなことになったら、一体どうしたらいい……」
白が紅の前に立ちはだかり、制止するように声をかけた。
「紅、待って。紅にとって一番大事なのが願居なのは分かっているわ。でも、もし失敗したとき、邪神化した紅を止められる者はここにはいない……。まずは、万全の準備をしないと」
「そ、そうだ……」
中低音の響きで雷光が同意する。「大神様が邪神化してしまえば、俺たちが束になっても到底叶わん!」
その言葉に、紅は涙を流しながら首を振った。
「私は……私は、この大きな神社の中にある小さな摂社の末神だわ。つ・よ・く・は・な・い・……。もし何かあっても、慶や白、そしてあなた達が、き・っ・と・止・め・ら・れ・る・……」
紅は一度言葉を切り、決死の表情で皆を見渡した。「だから……お願いよ」
「VERY SORRY、紅……」
慶が声を詰まらせる。「もう……紅は、自分が思・っ・て・い・る・以・上・に・強・い・ん・だ。君は、立派な大神様なんだよ!」
「ウウウウウッ……!」
呼応するように願居の苦しみが激しさを増す。
「違う……」
紅は泣き崩れながら、願居の手に自分の手を重ねた。「違う、強くなんてないわ……ごめんね、願居」
「白、準備はどうしたらいいんだ」
慶が覚悟を決めた声で問いかけた。白は冷静に状況を分析し、必要な条件を提示する。
「助けがいるわ。邪神化した紅でも止められるほどの大きな力と、万が一の際にも周囲を巻き込まない安全な場所が必要よ」
「俺たちの御神様達なら、きっと来てくださると思う」
少年の風貌をした蒼風が希望を口にした。大人びた声の緑風もそれに続く。
「ああ。風・を・司・る我が御神様も、その姉君様も来てくださるはずだ。この近くに、半端なく巨大な二つの神気が留まっているのを感じる。……雷鳴、雷光。そちらの方はどうだ?」
雷鳴は少し考え込み、複雑な表情を見せた。
「もともと、こうなるように仕組んだ方だ。もう準備は済ませてあるかもしれない」
「そ、その話は本当なのか?」
慶が驚きに目を見開くが、雷光が不安げに補足した。
「ただ……蒼風や緑風のように『神気』が感じられないんだ。我が御神様が、本当に動いてくれると思うか……」
「そう言われると確信は持てないが……。最悪でも『風』の御神様たちがいらっしゃるのは確かだ」
「白、どう思う……?」
慶の問いに、白は遠くを見据えるように答えた。
「確かに、二つの大きな神気が同じ場所にいるわ。この神社から少し離れた場所……。ここ以外で、この岩崎社から一・番・近・く・て・、広・く・て・安・全・な・場・所・といえば……」
「も、もしかして……」
紅が涙を拭い、その場所の名を口にした。
「大魚神社の、海中鳥居……?」
その瞬間、周囲の空間から響くような「神気」が重なった。
「間違いない……我が御神様が今いらっしゃるのは、その場所だ!」
「そこは広くて安全なのかい?」
「海だ! あそこは海の中に『おとぎ前線』と鳥居、そして神社がある。満潮の時には姿を見せないが、干潮の時にだけ姿を現す神秘の場所だ」
緑風が確信を持って告げた。
「今日は大潮だ。『おとぎ前線』が開いているはずだ! あの場所の前線内に入り、俺たちの世界で罪穢を被り、『大祓』を執り行えば、最悪の場合でも人・間・界・に・は・被・害・は・及・ば・な・い・はずだ」
「ウウウウウッ……!」
願居の時間は、もう残り少ない。
「紅、願居を連れて早く行きましょう!」
白の合図に、慶は無理に元気を作って「ハハハ!」と笑ってみせた。
「OK、OK! さあ行こうか。大魚神社の海中鳥居へ……レッツゴー!」
一行は荒ぶる神々の待つ有明の海へと向かって走り出した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




