願居を救う手立て
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
深夜二時。祐徳稲荷神社の境内にある岩崎社の内部は、張り詰めた緊張感と悲痛な空気に満たされていた。
社内にある紅のベッドには、願居が横たえられている。その傍らには、彼女を救うべく集まった「IS:T」の三柱と、彼女を異界から連れ戻した「Gale & thunder」のメンバー四人の姿があった。
「ウウウウウッ……!」
願居の口から、声にもならない苦悶の唸り声が漏れる。それは魂を削られるような、壮絶な痛みを物語っていた。
「ね、願居……」
紅は、今にも壊れてしまいそうな愛弟子の姿を、悲痛な面持ちで見守ることしかできない。その横で、慶が震える声で問いかけた。
「彼女は……助からないのかい?」
白は感情を抑えた声で、残酷な真実を告げる。
「心のほとんどが闇に浸蝕されているわ。このままだと完全に邪神化してしまう……」
「ウ、ウウッ……べ、紅さ……」
朦朧とした意識の中で、願居がかすかに紅の名を呼んだ。
「願居、私はここにいるわ! もう私の前から消えたりしないで……」
紅は泣きそうな声を上げ、縋り付くように白を見やった。「どうしたら助けられる?
白、白なら何か方法を知っているんでしょう!」
「白は本当は何十億歳も生きているんだろ? 何か、何か手はないのかい」
慶も必死に食い下がる。白はしばらく沈黙した後、重い口を開いた。
「彼女を救う方法は、一つだけあるわ。でも……」
「白、教えてくれ。お願いだ……助けて欲しい……!」
紅の懇願に、白の瞳にわずかな揺らぎが生じた。
「紅のお願いだから……聞いてあげたい。でも、それは紅が神・と・し・て・生・き・ら・れ・な・く・な・る・か・も・知・れ・な・い、危・険・な・こ・と・なのよ」
その言葉に、青年風の凛とした声を上げたのは雷鳴だった。
「もしかして……岩崎大神様が依り代となり、願威の罪穢をすべて被るということか!」
「雷神族の者、よく分かったわね」
白は肯定し、さらに警告を重ねる。
「ただ、もうここまで闇に浸蝕され、邪神へ変化しつつある。その存在の罪穢を被るのは、あまりに危険な行為よ。紅がどれほど凄まじい神気の持ち主だとしても、紅自身が邪・神・に・な・っ・て・し・ま・う・可・能・性・も・あ・る・のよ」
「そ、そ・れ・し・か・方・法・は・な・い・の・か?」
雷鳴が困惑して問い直すと、白は寂しげに視線を落とした。
「紅と願居の思いは一つ。『歌でみんなを幸せにすること』。そして、罪穢を持つ者と心が一番通じ合う者が依り代になることでしか、救いは得られない。願居の『一番』は紅……。そして、紅の『一番』は願居なのよ。私ではない……」
「白……」
慶が悲しげに呟く。紅の絆の深さが、今は逆になんと残酷なことか。
少年のような風貌の蒼風が、戸惑いながら口を開いた。
「俺たちは我が御神様より、願威を岩崎大神様の元へ返すまで守るようにと言われました。大神様の力があれば、願威は救われると……」
「あなた達の御神様というのは、どちらの……」
慶の問いに、大人びた落ち着いた声で緑風が答える。
「俺とそこの蒼風は、級長津彦命様の眷属にあたります」
「ジャパン原初の風神……双子の弟の方ね」
白が知識を補完すると、蒼風は勢いよく頷いた。
「そうです! 我が御神様が、彼女を……願威を俺たち四人の所に連れてきました。彼女が本来帰るべき場所へ戻るその時まで、守・れ・と!」
「……蕃神達から?」
白の言葉に、蒼風が驚きで目を見開く。
「そ、そうです……ご存じだったんですか?」
「いえ、そう思っただけよ」
混乱する慶を余所に、緑風が話を続けた。
「我が御神と姉妹であられる御神様達が、心の弱みに付け込んで願威を邪神化させようとしていた『蕃神の王』から彼女を救い、連れ戻したのです」
中低音の響きで雷光が言葉を添える。
「そうです。俺も雷鳴も、我が御神様である火雷天神様より、御神様達の手によって蕃神の王から連れ戻されたと伺いました。ただ、聞いていた経緯は、蒼風たちとは多少違いましたが……」
「ウウウウウッ……!」
再び願居が苦しげな声を上げる。
「へ、ヘイ! どういうことだい? 話が複雑すぎて……」
困惑する慶に対し、雷鳴が重大な事実を明かした。
「実は俺と雷光は知っていたんです。二十年前に岩崎大神様が修行の旅に出ること。そして、二十年後にこの場所に必ず帰ってくることを。それまでお前たちが願威を守れと! 蕃神とその眷属である異・形・の・者・達から……我が御神様……いや、厳・密・に・い・う・と・違・い・ま・す・が・、とにかくご勅命を受けたのです」
二十年という時を超えた因縁。紅は願居の手を握りしめ、自分に課せられた過酷な運命を静かに受け入れようとしていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




