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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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願居を救う手立て

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

深夜二時。祐徳稲荷ゆうとくいなり神社の境内にある岩崎社いわさきしゃの内部は、張り詰めた緊張感と悲痛な空気に満たされていた。


 社内にあるべにのベッドには、願居ねがいが横たえられている。その傍らには、彼女を救うべく集まった「IS:イズティー」の三柱と、彼女を異界から連れ戻した「Gale & thunder」のメンバー四人の姿があった。


「ウウウウウッ……!」

 願居の口から、声にもならない苦悶の唸り声が漏れる。それは魂を削られるような、壮絶な痛みを物語っていた。


「ね、願居……」

 紅は、今にも壊れてしまいそうな愛弟子の姿を、悲痛な面持ちで見守ることしかできない。その横で、けいが震える声で問いかけた。


「彼女は……助からないのかい?」

 はくは感情を抑えた声で、残酷な真実を告げる。


「心のほとんどが闇に浸蝕されているわ。このままだと完全に邪神化じゃしんかしてしまう……」


「ウ、ウウッ……べ、紅さ……」

 朦朧とした意識の中で、願居がかすかに紅の名を呼んだ。


「願居、私はここにいるわ! もう私の前から消えたりしないで……」

 紅は泣きそうな声を上げ、縋り付くように白を見やった。「どうしたら助けられる? 


白、白なら何か方法を知っているんでしょう!」


「白は本当は何十億歳も生きているんだろ? 何か、何か手はないのかい」

 慶も必死に食い下がる。白はしばらく沈黙した後、重い口を開いた。


「彼女を救う方法は、一つだけあるわ。でも……」


「白、教えてくれ。お願いだ……助けて欲しい……!」

 紅の懇願に、白の瞳にわずかな揺らぎが生じた。


「紅のお願いだから……聞いてあげたい。でも、それは紅が神・と・し・て・生・き・ら・れ・な・く・な・る・か・も・知・れ・な・い、危・険・な・こ・と・なのよ」

 その言葉に、青年風の凛とした声を上げたのは雷鳴らいめいだった。


「もしかして……岩崎大神いわさきたいしん様が依り代となり、願威ねがい罪穢つみけがれをすべて被るということか!」


「雷神族の者、よく分かったわね」

 白は肯定し、さらに警告を重ねる。


「ただ、もうここまで闇に浸蝕され、邪神へ変化しつつある。その存在の罪穢を被るのは、あまりに危険な行為よ。紅がどれほど凄まじい神気の持ち主だとしても、紅自身が邪・神・に・な・っ・て・し・ま・う・可・能・性・も・あ・る・のよ」


「そ、そ・れ・し・か・方・法・は・な・い・の・か?」

 雷鳴が困惑して問い直すと、白は寂しげに視線を落とした。


「紅と願居の思いは一つ。『歌でみんなを幸せにすること』。そして、罪穢を持つ者と心が一番通じ合う者が依り代になることでしか、救いは得られない。願居の『一番』は紅……。そして、紅の『一番』は願居なのよ。私ではない……」


「白……」

 慶が悲しげに呟く。紅の絆の深さが、今は逆になんと残酷なことか。


 少年のような風貌の蒼風せいふうが、戸惑いながら口を開いた。

「俺たちは我が御神様おんかみさまより、願威を岩崎大神様の元へ返すまで守るようにと言われました。大神様の力があれば、願威は救われると……」


「あなた達の御神様というのは、どちらの……」

 慶の問いに、大人びた落ち着いた声で緑風りょくふうが答える。


「俺とそこの蒼風は、級長津彦命しなつひこのみこと様の眷属にあたります」


「ジャパン原初の風神……双子の弟の方ね」

 白が知識を補完すると、蒼風は勢いよく頷いた。


「そうです! 我が御神様が、彼女を……願威を俺たち四人の所に連れてきました。彼女が本来帰るべき場所へ戻るその時まで、守・れ・と!」


「……蕃神ばんしん達から?」

 白の言葉に、蒼風が驚きで目を見開く。


「そ、そうです……ご存じだったんですか?」


「いえ、そう思っただけよ」

 混乱する慶を余所に、緑風が話を続けた。


「我が御神と姉妹であられる御神様達が、心の弱みに付け込んで願威を邪神化させようとしていた『蕃神の王』から彼女を救い、連れ戻したのです」

 中低音の響きで雷光らいこうが言葉を添える。


「そうです。俺も雷鳴も、我が御神様である火雷天神からいてんじん様より、御神様達の手によって蕃神の王から連れ戻されたと伺いました。ただ、聞いていた経緯は、蒼風たちとは多少違いましたが……」


「ウウウウウッ……!」

 再び願居が苦しげな声を上げる。


「へ、ヘイ! どういうことだい? 話が複雑すぎて……」

 困惑する慶に対し、雷鳴が重大な事実を明かした。


「実は俺と雷光は知っていたんです。二十年前に岩崎大神様が修行の旅に出ること。そして、二十年後にこの場所に必ず帰ってくることを。それまでお前たちが願威を守れと! 蕃神とその眷属である異・形・の・者・達から……我が御神様……いや、厳・密・に・い・う・と・違・い・ま・す・が・、とにかくご勅命を受けたのです」

 二十年という時を超えた因縁。紅は願居の手を握りしめ、自分に課せられた過酷な運命を静かに受け入れようとしていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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