師弟再会
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月四日、深夜一時。
祐徳稲荷神社の本殿での謁見を終えた「IS:T」の三柱――白、紅、慶は、次元の裂け目である『おとぎ前線』がこじ開けられている「前線カフェ」へと足を進めていた。
店のシャッターと扉は固く閉ざされていたが、神格を持つ彼女たちは何事もなかったかのようにその身を通り抜け、静まり返った店内へと足を踏み入れた。
「誰もいないぞ。いつも、あの祈里ちゃん達が、こ・の・場・所・を・監・視・しているんじゃないのか……」
慶が意外そうに店内を見渡して声を漏らす。
「い、いや……いない方がちょうどいい。特に祈里ちゃんや美琴にとってはね……」
紅が複雑な表情で応じると、白も無表情ながら深く同意した。「私もそう思う」
「祈里ちゃん達の気配は奥の院に感じられるわ。あの隠神刑部様のご・れ・い・じょ・う・達・二人も同じ場所だ。今は狐神族の地に帰っているのだろう……」
紅が気配を読み取っていると、白が切迫した口調で告げた。
「ウカノミタマ様が危・険・な・状・態・だから早く行ってあげなさいと言ったわ。早く『おとぎ前線』の扉へ向かわないと……」
三柱の正面、空間に歪みが生じ、凄まじい音を立てて『おとぎ前線』の扉が開く予兆が走る。
「け、気・配・が・一・つ・じゃない……。一、二、三、四、五。五つの気配を感じるわ!」
慶が身構える。白もまた、その五つの気配に含まれる異質な力を敏感に察知した。
「五つの気配、皆、多少の神気を感じるわね……。でも一つは、闇・に・染・ま・っ・た・神気……。そして、一・番・弱・々・し・い……」
「ね、願居だ……」
紅が驚愕に目を見開く。「闇・に・染・ま・っ・て・い・て・も、私・に・は・あ・の・子・の神気だと分かるんだ……!」
「あとは残りの四つか。何者なんだ……。ただ、万が一の場合は……」
慶が緊張を走らせ、守護の構えを取る。その時、バタンと勢いよく扉が撥ね飛ぶように開いた。
「つ、着いたみたいだ……。周りがや・け・に・暗・いな……」
中低音の落ち着いた、しかしどこか困惑した声――雷光が姿を現した。彼は即座に前方の異変を察知し、後方へ鋭く叫ぶ。「おい、みんなまだ出るな! 凄・い神気が三・つ……。俺の目の前にいる!」
雷光の背後から、青年風の凛とした声と共に雷鳴が現れた。
「いや、大丈夫だ……。澄んだ神気だ。だが、この凄・ま・じ・い神気は……」
雷鳴はしばらく沈黙し、目の前の三柱、特に紅を見つめて安堵の息を吐いた。
「俺達は幸・運・だったな。一番先に会わねばならぬ大神様だ。ウカノミタマ様の神気に似てるが違う神気……。間違いない、岩崎大神様……だと思う」
「あなた達は誰? 雷神族?」
紅の問いかけに、慶が目を丸くして身を乗り出した。
「雷神族か! また、えらいイ・ケ・メ・ン……」
しかし、慶はそこまで言うと、雷神たちの持つ特有の威圧感に触れたのか、急に石のように硬直してしまった。
「紅、慶が止まったわ」
白の指摘に、紅はハハハと苦笑いを漏らす。「雷神族だからだろう……。御神様の眷・属か?」
雷鳴は恭しく頭を下げ、かしこまった声で答えた。
「いえ、私は火雷天神様の眷属、雷鳴と申します。失礼は承知でお尋ねいたしますが、岩崎大神様でございますか?」
「大神と呼・ば・れ・る・身・分・で・は・な・い・とは思うが……一応、そう呼ばれている。でも、私の名前は紅だ」
「みんな出てきてくれ。岩崎大神様だ。は、早く願威を……大神様のところへ!」
雷鳴の呼びかけに応じ、少年のような姿の蒼風が、気を失った願威を背負って扉から現れた。
「ね、願居……」
変わり果てた愛弟子の姿に、紅の瞳が潤む。白がその容態を冷静に鑑定し、険しい表情を見せた。
「この子、心のほとんどが闇に浸蝕されているわ。何とかしないと、すぐに完全に邪神化してしまう」
紅はたまらず駆け寄り、蒼風の背でぐったりとしている願威の頬に、優しく手を当てた。
「あの時、私・は・貴・女・を・守・れ・な・か・っ・た・……。寂れゆく地方で、このまま伝承芸能を続けながら、これからもみんなをずっと幸せにできるのかと……悩んでいたのは知っているわ。私も、願居と同じことを考えていたから……」
紅の頬を涙が伝う。
「貴女が消えてから……私は自分の力の無さを、これほど悔やんだことはなかった。だから、世・界・中・を・回・っ・た・よ。素・晴・ら・し・い・仲・間・達・と・も・出・会・え・た……」
「紅、とにかくまずは岩崎社へ戻ろう。……慶、早く動きなさい!」
白が無表情のまま、硬直していた慶の頬をパシリと強く叩いた。その衝撃で慶が我に返る。
「わ、私は今まで何を……。うわああああっ!」
再び雷鳴の姿を見て悲鳴を上げる慶を、紅がたしなめた。
「慶、彼らは雷神族と風神族よ。御神様とも関係はあるだろうけど、火雷天神様の眷属だそうよ。とにかく……今はどうでもいいわ。一刻も早く願居を岩崎社へ!」
誰もいない前線カフェを後にし、三柱と異界の来訪者たちは、救済の地へと急いだ。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




