ラグナロクとアルマゲドン
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月四日、深夜零時過ぎ。
祐徳稲荷神社の本殿は、凛とした静寂と神聖な空気に包まれていた。
中央奥にはウカノミタマ、オオミヤノメ、サルタヒコの三柱が並んで座し、その前では、地上に降り立った三柱の神「IS:T」――白、紅、慶が膝をつき、正面を向いて謁見していた。
静寂を破り、白がどこか確信めいた疑問を口にする。
「『神々の黄昏』と『アルマゲドン』は、最後は同じになる……ということ?」
ウカノミタマは、深い慈しみと憂いを含んだ瞳で白を見つめ、静かに答えた。
「人間ではない者達が、人間に気づかれぬうちに、人間を『人間が敬う神々』と戦うための兵器に変えてしまうの。だから、最後は同じ結末を迎えることになるわ……」
「ウカノミタマ様、では……その『人間ではない者達』とは一体……」
紅が食い入るように問いかけると、ウカノミタマの視線は遠く、世界の深淵へと向けられた。
「宙から来るわ。そして、奥深い地底から……海の底からも」
「その者達は……一体……」
紅が驚きに声を震わせる。ウカノミタマはその名を、禁忌を解くように告げた。
「人間ではない者。彼らは総じて『旧支配者』……と呼ばれています。そして、その眷属となる、異形の者と呼ばれる存在……」
「……もしかして、『蕃神』……」
常に沈着冷静な白が、珍しく驚愕の色を声に滲ませた。
「なんだ、その『蕃神』って……」
状況に追いつけない慶が戸惑う。白は慶の方を見ずに、冷徹な響きで説明を加えた。
「蕃神を知るのは、古から存在する御神様や、私たちヘブンの者だけ……」
「話の意図がよく分からないんだけど……」
混乱する慶に対し、ウカノミタマは穏やかに諭した。
「ビリケン殿は高い神格をお持ちですが、神様となり百年足らず……。本来なら知る必要も、知らなくても良いような者達のことです」
白が引き継ぐように、世界の成り立ちに触れる。
「蕃神は、この地球やヘブン、そしてそれぞれの神々が住む世界が創造された遥か古の時代に、現在の神様達と地球の覇権を巡って戦った……」
「白、それからどうなったんだ……」
紅が息を呑むと、ウカノミタマがその結末を語り継いだ。
「それは見ての通りですよ。旧支配者達は敗れ、古の神々により永遠に出られぬ外宇宙へ封・印・され、その眷属や崇拝していた人であらざる者達……つまり『異形の者』は遥か地底の底や深い海の底に追放されました。ですが、異形の者達は今でも虎視眈々と、地球の人間界や『前線世界』を支配するために画策しています……」
「それが、今回の『神々の黄昏』……」
紅の声が戦慄に震える。
「そう、この地でその『神々の黄昏』が起きるの」
ウカノミタマは寂しげな笑みを浮かべ、白へと視線を移した。
「そちらにいらっしゃるケルビム殿は、かつてあの旧支配者達と戦われたことがあると聞き及んでおりますわ」
「は、白……そうなのか? って……白はいつから……」
驚きを隠せない慶を余所に、白は淡々と己の宿命を語る。
「これでも私も、原初の神様より誕生した天使……。そして、私ともう三柱のケルビムが守るヘブンの『生命の樹』を狙っているのも、旧支配者達の眷属、異形なる者……」
「生命の樹って、一体何なんだ?」
紅の問いに、白は短く、しかし重い事実を告げた。
「生命の樹の果実を食べると、神になれる」
「ど、どういうことなんだ……」
「厳密に言うと、『知恵の実』と『生命の実』の二つを食べると、人間は神に近い存在になれる。人間だけではない、異形の者も全て……。だから、私とあとの三柱のケルビムは、この星が誕生してからずっと、生命の樹を守ってきた。人間から、そして……異形の者達から……」
慶はあまりのスケールの大きさに、乾いた苦笑いを漏らすしかなかった。
「オー・マイ・ゴッド……。それじゃあ白って何歳? う・ん・十・億・歳ってことか……。私たち三柱の中で、実はウチが一番年下なのね。……そうだよね、今度から白を『お姉さま』と呼ぼうかな」
冗談めかして笑う慶に、白は呆れたように目を細めた。
「……やっぱり最近の慶は変。だけど、この場所の『おとぎ前線』がこじ開けられている理由と、今回の件との繋がりは分からない。ただ、悪い意図ではないと思う」
ウカノミタマが白の言葉を肯定するように頷く。
「そうよ……流石ね、ケルビム殿。第二階位の天使様。あのおとぎ前線は、あの御神様がこじ開けているの……今も、この時も」
「御神様が……な、何故?」
紅が身を乗り出すと、ウカノミタマの視線が優しく、そして鋭く紅を射抜いた。
「紅……もう二十年以上前になりますか。貴女が修行の旅に行くきっかけを作った……貴女が一番大切にしていた『願居』を、今度は貴女の手で取り戻すためよ!」
「お、御神様が……私のために……願居を取り戻すために……」
紅の瞳に驚きと動揺が走る。
「紅、貴女から受けた最高のお礼を返す時だと、御神様が……」
「贈り物? 私が、あの御神様へ贈り物を……」
記憶を辿る紅に、ウカノミタマは真実を明かした。
「貴女が修行の旅に行きたいと私に頼んでいること。そして、私が頑なに断っている事を聞いて、ずっと準備をされていたそうよ。……貴女の大切な『願居』は、以前にも話しましたが、彼女は今、もうここへ帰ってきています。ですが……とても危険な状態です」
ウカノミタマは立ち上がり、決然と告げた。
「さあ、早く行ってあげなさい。『おとぎ前線』へ……」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




