前半戦後の一休み
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
八月一日、午後十二時三十分。
佐賀県鹿島市、稲荷神社の参道に位置する「前線カフェ」。太鼓橋での初ステージを終えた少女たちが、熱気を帯びたまま店へと戻ってきた。
店内では、店長の碧海雫が柔らかな笑みを浮かべて彼女たちを迎え入れた。
「みんな、お帰り。ここまで聞こえたよ! 無事、うまくいったみたいね」
雫の言葉に、祈里が弾んだ声を返す。
「店長! やりました! 無事に成・功・しました!」
雫は傍らに立つマネージャーに視線を向けた。「理名ちゃん、本当にありがとうね!」
「みんなが一生懸命、練習してきた成果ですよ」
理名は謙遜しながらも、表情を引き締めた。
「それに、まだ後・半・戦・も残っています。それが終わってからが、本当のアイドルグループ『おとぎ前線』のスタートですよ!」
一緒に戻ってきた亀さんも、自分のことのように嬉しそうに頷く。
「碧海さん、みんな、本当に凄く良かったっすよ。太鼓橋にいた人たちも喜んでました!」
「みんな、とりあえず最初のデビュー戦で疲れたと思うから、奥で休んでて……」
雫の気遣いに、美琴が申し訳なさそうに眉を下げた。
「て、店長……でも、お店の方は?」
「見ての通り」
雫はガラ空きの店内を見渡し、苦笑いを浮かべた。
「今日もお祭りだけど、思った通り今日も暇だよ。色んな出店も多いしね。今日はもう休もうと思う……後半戦まで、十分休んでおいて。みんなも、理名ちゃんも」
「て、店長。ありがとうございます」
理名が感謝を口にする中、神那が意外そうな顔をして雫を見た。
「意外と『粋』なこともするのね?」
「私はいつも『粋』な女性のつもりなんだけどな……」
雫がトホホと肩を落とすと、祈里がすかさず「よ、塩対応!」とはやし立てる。
「祈里……もうそれは分かったから」
神那の呆れ声に、店内には少しだけ緊張の解けた空気が流れた。
「あ、あと亀さんは、今日は本当は忙しいんじゃない?」
雫が問いかけると、亀さんは「おっと、そうだった」と頭をかいた。
「今日はせんべい屋の方は親父とお袋に任せて、夏祭りと祐徳おどり大会の実行委員もしてるんで。今度は『鯉掴み』の準備でもボチボチしに行ってきます」
「亀さん、今日は本当にありがとう」
雫の言葉を、亀さんは制した。
「まだ、みんなの後半戦も祐徳おどり大会も終わってませんよ。その台詞はその時に言わないと……」
「か、亀さん……」
雫が気圧されていると、亀さんは颯爽と出口へ向かった。
「じゃあ、俺はこれで! 稲穂ちゃんと亜都ちゃんも、『鯉掴み』会場で待ってるからね!」
そう言い残し、亀さんは準備のために店を出ていった。
雫は残された幼い二人組に視線を向けた。
「それでは、稲穂ちゃんと亜都ちゃんは、午後二時からの『鯉掴み』があるまで、出店巡りでもしようか?」
「もちろん、店長の奢りだよね~」
稲穂がちゃっかりとした声を上げると、亜都が慌てて嗜める。
「稲穂ちゃん、ダメだよ。ちゃんと店長からお小遣いももらってるんだし……」
「いいよ! 今日は二人に奢ってあげるよ」
雫は優しく微笑み、店のシャッターを手に取った。「今は四人を休ませてあげよう!」
「やったー!」
稲穂の歓声が響く中、雫は静かにシャッターを下ろし始めた。
「みんな、じゃあ私も稲穂ちゃんと亜都ちゃんと一緒にお祭りの出店巡りをしてくるよ。そのまま『鯉掴み』にも行って、鯉も持ってくるから! 捕まえた鯉は『鯉のあらい』にしてくれるそうだから期待しておいて……。後半戦前の、早めの夕食だよ!」
「じゃあ、店長と行ってきま~す」
稲穂の元気な声に続き、亜都もメンバーを気遣う。
「さ、沙希様も皆さまも、十分に休まれてくださいね。私たち、『鯉のあらい』たくさん持ってきますから……」
雫、稲穂、亜都の三人が賑やかに歩き出す。表の扉がバタリと閉まる音が響き、カフェの奥には、束の間の静寂と、夕刻の決戦に向けた熱気が残された。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




