太鼓橋
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
八月一日、午前十一時五十分。
稲荷神社の境内に架かる、風情ある太鼓橋。そこが、彼女たちの「初ステージ」の場所だった。
照りつける真夏の太陽の下、色鮮やかな衣装に身を包んだ「おとぎ前線」の四名――祈里、神那、美琴、沙希が、大勢の参拝客や見物客の前に並び立った。
「みなさ~ん、はじめまして! 違う方はこんにちは!」
祈里が腹の底から大きな声を張り上げ、群衆の視線を集める。「私たち四人は、そこの参道内にある門前商店街の『前線カフェ』っていう名前のお店から来ました。今日は、皆さんへ私たち四人からお知らせしたいことがあります」
ざわ……と辺りが騒がしくなり、人々の好奇の眼差しが太鼓橋へと向けられる。
「え~~っと、私たち四人は、『前線カフェ』の店員をしています。私の名前は祈里と言います」
祈里はハキハキと挨拶し、隣に並ぶ仲間に小声で「次、神那ちゃん!」と合図を送った。
「私の名前は神那といいます。皆さん、よろしく」
神那は少し照れを隠しながらも、凛とした態度で会釈をする。そのまま「次は沙希、大丈夫そう?」と耳打ちした。
「さ、沙希です。よろしくお願いいたします……」
沙希はオドオドしながらも、しっかりと自分の名を告げ、美琴へと繋ぐ。
「私の名前は美琴です。よろしくお願いいたします」
美琴が落ち着いた声で締めくくると、場は静まり、彼女たちの言葉を待った。
「私たち四人は今日から、稲荷神社と門前商店街内で『アイドル活動』をさせていただくことにしました!」
祈里が宣言する。その瞳は希望に満ちて輝いていた。
「グループ名は『おとぎ前線』です。みなさ~ん、これからアイドルグループ『おとぎ前線』をよろしくお願いいたします!」
神那が周囲を見渡し、放送マイクのある場所にいる亀さん《かめさん》を探す。亀さんは両手で大きな丸を作り、準備が整ったことを示していた。
「祈里、亀さん、OKみたいよ」
神那の囁きを受け、祈里はさらに声を一段高くした。
「今から私たち四人で『おとぎ前線』のデビュー曲を歌います! 練習はいっぱいしましたが、まだまだ上手じゃありません。でも、よかったら聴いてください。デビュー曲の名前は『OTO・GI』です。それでは、聴いてください!」
軽快なイントロが境内に流れ始めた。
練習に練習を重ねたステップ。震える足を地面に踏みしめ、四人は歌い、踊る。その姿は、真夏の陽光に照らされてキラキラとはじけていた。初々しさと情熱が混じり合った歌声が、古き良き神社の空気を鮮やかに塗り替えていく。
曲が終わると、祈里が大きく息を弾ませながら呼びかけた。
「みなさ~ん、お聴きくださりありがとうございました! 今日は夜の七時にある祐徳おどり大会の前で、もう一曲披露します。よかったら、観にきてください。みんな! せ~の!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
四人の揃った礼に対し、境内にいた人々からパチパチという歓声と温かな拍手が送られた。
興奮冷めやらぬまま、四人は太鼓橋を駆け下り、理名たちが待つ境内の傍らへと向かった。
「やりました! 無事、デビュー宣言とデビュー曲の発表ができました!」
祈里が息を弾ませながら報告すると、待っていた稲穂と亜都が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お姉さま方、デビューおめでとうございます!」
「皆様、おめでとうございます。沙希様も頑張りました!」
稲穂と亜都の祝福に、沙希は顔を赤らめて「あ、ありがと……」と小さく笑った。
「みんな頑張ったね! 後半戦もまだあるけど、でも大丈夫。みんな立派だったよ!」
理名の賞賛に、祈里は「私、頑張ったよ!」と胸を張る。神那も「よくやったわ、祈里」と相棒の健闘を称え、美琴は胸に手を当てて「私、久しぶりにこんなに緊張しました」と、ようやく安堵の吐息を漏らした。
そこへ、放送席から亀さんが駆け足でやってきた。
「みんな、凄く良かったよ! これから、一緒にこの稲荷神社と参道の商店街を盛り上げていこう!」
「ありがとうございます。とりあえず、前半戦は終了したから……」
理名は満足げに頷き、メンバーを見渡した。
「碧海店長の待つお店に戻ろうか」
少女たちの新しい物語は、まだ始まったばかりだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




