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【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


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デビュー披露目前…

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

八月一日、午前十時三十分。祐徳夏祭りの喧騒が近づく中、稲荷神社境内の「式典会場関係者テント」の中では、デビュー披露を目前に控えた「おとぎ前線」の四人が、緊張と高揚の入り混じった空気の中にいた。


傍らには、マネージャー兼コーチの天乃理名、眷属の稲穂と亜都、そして商店街の亀さんが見守っている。


「亀さん、皆さん。もうそろそろ、私は式典の方に出なければなりませんので、失礼いたします。皆さんも今日は頑張ってくださいね」

巫女装束に身を包んだ葵が、申し訳なさそうに、けれど凛とした声で告げた。


「葵さん、大丈夫ですよ。俺と理名ちゃんがついていますから」

亀さんが頼もしく胸を叩き、理名も「こういう催しには私は慣れてるんで、大丈夫ですよ」と自信満々に頷いた。


「それでは、これでお先に……。今度は祐徳おどり大会の時間に、応援しております」

葵は上品に一礼すると、眩い日差しが差し込むテントの外、式典会場へと向かっていった。


彼女の背中を見送りながら、理名がふと疑問を口にした。

「そういえば、葵さんが言う式典って、何なんですか?」


「式典……というか神事のことだよ」

亀さんが答えるより早く、美琴が静かに口を開いた。


「八月一日は、稲荷神社内で『大祓おおはらい』の神事があります」


「流石、美琴さん。詳しいですね」

感心する亀さんに、理名は首を傾げる。


「その大祓って何ですか?」


「う~~ん、あんまり俺もよく分からないんだよね」

亀さんはハハハと苦笑いを浮かべた。「実は最近まで俺も、毎年八月一日はただの『夏祭りの日』だと思ってたからね。もちろん、葵さんは違うだろうけど……。この稲荷神社の巫女だから、神事には出ないといけないんだよ」


「理名コーチ。大祓を簡単に説明すると、『罪穢つみけがれ』を祓う儀式のことです」

美琴が透き通るような声で解説を継ぐ。「神社の方では毎日お祓いはされていますが、この大祓は『天下万民』、すべての人に対してのお祓いだそうです。この稲荷神社では八月と十二月に大祓が行われるんです」

そこで美琴は、何かを思い出したかのように不自然に声を止めた。


「み、美琴さん、何かあったんですか?」

亀さんが困惑して尋ねると、美琴は少し表情を曇らせた。


「いえ……こちらの稲荷神社の『大祓』の神事は、罪穢を移した依りよりしろを作って、神社前にある川面かわもへ流す行事だったのを思い出してしまって……」 


「美琴さんは博識ですね~」

理名は感心したように声を弾ませた。「それじゃあ、その大祓の神事が執り行われた後に、アイドルグループ『おとぎ前線』が颯爽と登場、ってわけね!」


「おおおおお~、何か良い感じになってきましたねえ~」

亀さんも盛り上がるが、祈里だけは美琴の言葉の端々に、拭いきれない不安を感じ取っていた。


「あ、美琴さんの話を聞いて、私も何か嫌なことを思い出した……」

祈里が不安げに呟くと、既に事態を察していた神那が釘を刺す。


「祈里、あの人形司くんのことでしょ。でも、あれから何も『編みぐるみ』に変化はないし、普通にお店に飾られてあるわよ。誰が見ても『赤ちゃんの編みぐるみ』にしか見えない……」


「そ、そうだよね……」

祈里は自分を納得させるように頷いたが、すぐにまた顔を強張らせた。


「でも……今は店長一人だから……」


「ちょっと、そんな怖いことをこんな時に言わないでよ!」

神那が少し声を荒らげる。


「この日のためにみんなで練習してきたんだから、今日はもう、不安になるようなことは言わないこと!」


「わ、分かってる。い、意外と私も緊張してるのかも知れないね……」


「時間が過ぎるのが長く感じるよ……」

オドオドとする沙希を、亜都が心配そうに見つめる。「さ、沙希様、大丈夫です。沙希様や皆さんなら大丈夫!」


その時だった。関係者テントの入り口が唐突に開き、一人の人物が入り込んできた。

「僕のことを噂してる声が聞こえたんですが……」


現れた影に、祈里が絶叫した。

「で、でたあああああ!」


「やはり……予感は的中しました」

美琴が苦々しく表情を歪め、沙希は「あわわわわ……」と腰を抜かさんばかりに驚く。


「祈里ちゃん、美琴さん、みんなはこの子知ってるの?」

不思議そうに問う理名に、神那は慌てて誤魔化した。


「コーチ、た、たまにお店に来るお客様よ!」


「いつぞやの、うちの味噌せんべいを美味いと言って買ってくれたお客さんじゃないですか!」

亀さんの言葉に、少年――三十三代目塩善はふふふと無邪気に笑った。


「亀さん、お久しぶりです。その節はありがとうございました。僕の名前は塩善といいます。今日は夏の大祓神事の依り代が、稲荷大神様の手でちゃんと浄化されているのか見学しに来ただけです。依り代になる紙人形は、ウチの人形屋が用意してるんですよ。今日は神事の関係者です」

塩善は一度言葉を切り、テントの中を見渡した。


「それにしても皆さん、今日は何故、この関係者テントにいるんですか?」

碧海雫が一人で留守番をしている店、そしてこれから始まるステージ。不気味なタイミングで現れた人形司の再来に、テント内の緊張感は一気に跳ね上がった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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