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真説・おとぎ前線 【小説版】  作者: かたしよ


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開戦! 前線カフェ

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

そして迎えた、オープン初日。

時刻は十一時を回り、ランチタイムのピークが始まろうとしていた。

ゴールデンウィーク真っただ中の祐徳稲荷神社門前商店街は、私の予想を遥かに超える人出でごった返していた。飛び交う日本語、英語、中国語、タイ語。まさにカオスであり、活気の坩堝るつぼだ。

店頭では、看板娘たちが呼び込みに励んでいる。

「(甘い声で)本日、オープンしました♪ "前線カフェ"でーす。皆さーん、休まれていきませんか?」

祈里が、とろけるような甘い声で通行人に呼びかける。

「祈里」神那が鋭く釘を刺した。「何だか嫌らしい目をした男の人達から見られてるから、その声はやめて」

「(オドオドしながら)い、いらっしゃいませ……本日、オープンしました……」

沙希は蚊の鳴くような声でお辞儀をしているが、その小動物のような震え方が逆に庇護欲をそそるのか、足を止める客も多い。

「いらっしゃいませ。"前線カフェ"へようこそ! 何名様でお越しされてますか?」

美琴はまるで老舗旅館の若女将のような品格で、次々と客を捌いていく。

「二名です」

「店長、二名様、ご案内いたします。テーブルとお座敷ありますが、ご希望はありますか?」

「じゃあ、座敷で」

私の返事を待つまでもなく、美琴は完璧な司令塔として指示を出した。

「稲穂さん、亜都さんお願いします」

「はーい! お客様、こちらへどうぞ。お座敷はこちらからです!」

元気いっぱいの子供組、稲穂と亜都が客を誘導する。小さな二人が一生懸命働く姿は、外国人観光客の心を鷲掴みにし、店内からは「Kawaii!」という歓声とカメラのシャッター音が絶え間なく聞こえてくる。

(すごい……これ、本当に回るの?)

厨房でカレーをよそいながら、私は嬉しい悲鳴を上げていた。その時――。

「いらっしゃい……あ、亀さん!」

美琴の声が聞こえた。

「美琴さん、初日から大盛況ですね! 今、席空いてるっすか?」

亀さんの声だ。

「亀さん、カレー食べられるんですか?」

すかさず稲穂が割り込んだ。

「(やや小馬鹿にした風に)亀、食べるのか? 食べるんか? カレー?」

「稲穂ちゃん、俺じゃないって! 俺もお客さんが沢山で手が回らない。(しばらく間を空けて)葵さんが……葵さんがこちらに来てるから……」

「(鼻で笑うように)ふ~~~~ん」

稲穂の生意気な態度に、亜都が慌てた。

「(勢いよく)稲穂ちゃん!」

「亜都ちゃん、ごめんごめん。空いてますよ。空いてます。テーブルですか? それとも、お座敷?」

稲穂は瞬時に営業スマイルに切り替えた。

「(やや緊張した声色で)葵さん、空いてますよ。テーブルかお座敷……」

亀さんに促され、凛とした巫女装束の女性――鍋島葵さんが店に入ってきた。

「いらっしゃいませ」美琴が頭を下げる。

「こんにちは。私は空いてる席ならどちらでも構いません」

葵さんは静かに店内を見渡すと、視線を一点に定めた。

「そこの子……」

葵さんは、そっと稲穂に近づいた。そして、誰にも聞こえないような声で、耳元で囁いた。

「あの時の"編みぐるみ"ちゃんですね。お狐様の?」

「(元気に)お姉さん、お久しぶりです。稲穂です」

稲穂は隠すことなく、満面の笑みで答えた。

「やっぱり……。稲穂ちゃんっていうのね。私は葵。鍋島 葵。知ってるかとは思うけど、この稲荷神社の巫女をしてます」

「い、稲穂ちゃん……」

亜都がおずおずと二人の会話に入ろうとする。稲穂は急に小声になり、亜都の耳元で言った。

「この人が私をここに連れてきてくれたの」

「あ、亜都といいます。稲穂ちゃんと友達です」

亜都が自己紹介すると、稲穂は胸を張って言い直した。

「(キッパリと)そう私達、"親友"なんです」

「稲穂ちゃんと亜都ちゃん、宜しくね」

葵さんが微笑んだその瞬間、美琴の切羽詰まった声が飛んだ。

「(急いだ口調で)稲穂さん、ごめんなさい。お客さんを早くお席に……。亜都さん、外の誰かをヘルプに呼んで来て!」

「はい。分かりました!」

亜都がパタパタと外へ走る。店内は戦場のような忙しさだ。

厨房の私は、オーダーの波に溺れかけていた。

「いらっしゃい……」

入り口で祈里が挨拶しようとした、その時。

「(元気な声で)ちわー! 碧海さん、いや店長、生きてますか?」

挨拶を遮り、一人の少女がズカズカと店内に押し入ってきた。

「い、生きてる?(しばらく間をあけて)店長! 店長!」

祈里が慌てて私を呼ぶ。

私は調理場の奥から、悲鳴に近い声を絞り出した。

「ちょ、ちょっと、無理無理……!」

もう誰が来たのか確認する余裕すらない。しかし、その少女は迷わず調理場へと入ってきた。

「(冗談風な軍人口調で)天乃あまの 理名りな緒妻おつま社長の命によりお手伝いに参りました! はせ参じました!」

敬礼ポーズを決める、ショートカットの快活な少女。

「り、理名ちゃん!? 志織ちゃんは?」

私は目を白黒させた。彼女は、あの破天荒な社長の知り合いの姉妹の妹の方だ。

「(軍人口調で)サー! この不肖、天乃 理名。緒妻社長より、お姉ちゃんより私の方が調理スキルが高いから、お手伝いにはせ参んじよと命をうけております!」

理名はビシッと胸を張った。

確かに、姉の志織さんはおっとりしているが、妹の理名ちゃんはテキパキしている。今の私にとって、彼女は天使か女神に見えた。

「(呆れた声で)了解しました。じゃあ、調理のお手伝いをお願い」

私は心の底から安堵し、指示を出した。

「(軍人口調で)YES Sir!」

理名は手早くエプロンをつけると、戦場キッチンへと飛び込んだ。

こうして、「前線カフェ」の初陣は、最強の援軍を得て、なんとか崩壊を免れたのだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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