④天界
「ようこそ天界へ」雲海をはるか下に見下ろせる高所にステンドグラスのような煌びやかな建物だった。
そこには、後光を帯びた美しい高貴な何者かが、玉座の間で幸江を待ち構えていた。
幸江はそのまばゆさにしばらく視力が回復せず、船酔いのような三半規管が過敏に感応してグワングワンした気持ち悪い吐き気に襲われたため、しばらく立ち上がることもできなかったが、ようやく目をあけて玉座の高貴な方を見上げることができた。
「貴殿は私の世界に転移される契約を締結した小川幸江であるな。朕は貴殿が転移される星の管理者である。」
幸江は、それを聞いていろいろと悟ることができた。
「目の前にいるのは異世界の星の神様のような存在で、地球の神様とは違うということ」
「あのさっきのボタンはびっくりパーティではなく本物の異世界転移契約であったこと」
「自分はとんでもなくファンタジーな世界に実在してて、しかもまだ生きていること」
それと同時に、いろいろな心配事も心に湧いてきた。
「残してきた家族は私のこと心配してくるんだろうか?お母さん大丈夫かなあ。」
「職場には休暇届け出してないし、無断欠勤で首になるやろうな。」
「私のPCの中身は誰かに見られたら恥ずかしいな、」などなど
「幸江よ。そなたが考えていることは朕には全て分かっておるぞ。このステータス画面を見られよ。」
異世界の神様は、幸江が見えるように画面をより大きくして映し出した。ようやくゆっくりと立ち上が
ることができたので大型モニターをじっくりと見上げた。
・主要ステータス
小川幸江(YUKI)
LV32 *地球の人間属
体力 ゲージ・・・8/32
魔法 ゲージ・・・0/0
気力 ゲージ・・・0/100
・アビリティ
ちから 32 すばやさ 96 みのまもり 16 知恵 32
剣 0 斧 0 槍 0 弓 0 銃 1000
火属性 0 水属性 0 土属性 0 風属性 0 光属性 0 闇属性 0
やる気 32 根性 48 継続力 48 生きる力16
。スキル <鑑定により閲覧可能>
無
・略歴生い立ち<管理者のみ閲覧可>
・病歴体の特徴 <管理者のみ閲覧可>
・思考履歴<管理者のみ閲覧可>
「わー、全部見えてるやん。恥ずかしいやら、訳が分からなくなるやん、神様は何でもお見通しって、これかぁ」幸江は驚きのあまり口をぽかんと開けてそんなことを頭の中で考えていたのだが、
「そうじゃろ、訳がわからんじゃろ」と異世界の神様が言葉にして切り出してきたことで、
「えー今私の頭の中で考えてることも全部ばれてんのか。。。流石神様。。。」と仰天していた。
数字が大きいところは赤字、数字が小さいところは青字で書かれていたので、すぐに目に付いたが
幸「神様、聞きたいことがあるので質問してもよろしいですか?」
神「もちろんじゃ、おぬしを異世界に送る前にレクチャーするためにここに呼んだのだからな」
幸「魔法ゲージが、0/0 ってことは、私は使えないけど異世界には魔法があるってことですか?」
神「そうじゃ、地球の神は魔法を使えない世界を望みその代わりに知恵で科学技術を生み出すこと
を良しとしたからな。朕の星では魔法を優先させておる分、科学技術は地球には見劣りするぞ。
まあ、魔法は異世界では不可欠じゃから、この後ちょちょちょいと何とかするので心配せずとも大丈
夫じゃぞ。おぬしは地球の科学技術には慣れておった筈じゃが、知恵アビリティは少々物足りない
気がするのう。こちらも後でちょちょちょいと何とかしようかの。」
幸「と言われても私なりに頑張って学校の勉強などいろいろ勉強してたつもり」と思ったが、考えてい
ることは神様にはバレバレなので逆らわず、質問を続けることにした。
幸「気力ゲージが 0/100 ってことは、私は精神的にはもう終わってたってことなのかな。
神「そうじゃ、朕らは地球の人間たちが能力が高い者なのに自死を選ぶ者が多いこと知っての、地球の神
と相談してな、人間本人の意思で転移を契約した者を朕の星で活躍してもらうことにしたのじゃ。
気力ゲージが0になると人間は簡単に死を選択肢に入れてしまうからの。そこで朕が、み使いたちに
地球で異世界カフェを経営させて、適合者を見つける仕事を任せておるのじゃ.。おぬしを案内し
た獣人族の女の子やエルフたちもしっかりと研修を受けて異世界から出張しておる本物の異世界人
なのじゃ。」
幸「えーまじかあ、あまりじろじろとは見なかったけど、言われてみればやけにリアル感のある
スタッフたちだと思ったよな。しかし地球ではうつ病とか精神疾患のような病気は、精神科医が
科学の力で解決しようとしているイメージですが、気力ゲージって概念が目に見える形で示されれ
ばもっとそういった人達も救えたりするんじゃないのかな。」
神「そもそも人間にはステータス自体を閲覧できる能力が備わっておらんしの。簡単に言うと、体力を
上げるには筋力を鍛えれば良い。魔法を鍛えるには各属性の魔法力を鍛錬すれば良い。気力を鍛え
るには霊力を鍛えれば良い。そのように全てのステータス、アビリティ、スキルは可視化されてお
るし、それぞれ上げる方法が朕らには分かっておるからの。」
幸「私のステータス、アビリティ、スキルも上がればもっと楽しい人生になるのかも。そもそも異世界
で私はやっていけるんだろうか?また異世界でも失敗とか、何だか自信がなくなってきたような
気がする。。
もし失敗したら本当に死んでしまうのかな?それとも地球に戻って来れるのだろうか?」
神「えらく心配性じゃのう。そんなに心配せずとも大丈夫じゃ。何故なら異世界転移者はゲートをくぐ
る際に朕がオールアップの技で転移者補正を与えることができるから。そんなに心配なら100倍
補正をかけてやるわ。全てのステータス数値が100倍になるのと、もともと0だった魔法ゲージ
はベースを100まで上げておく。それから減少しているゲージも満タンにしてから異世界に送り出
すから問題なしじゃ。それから望めばいつでも地球に戻れるように転移魔方陣を用意しておくぞ。」
幸「あ、ありがとうございます。100倍ってなんかやばそうな響き、チートってことやよね。そこまで
して頂けるなら何だか私でもいけそうな気がします。あと、質問ですが、これまで異世界に行った
人はいますか?また地球に生還した人はいるのですか?」
神「もちろんじゃよ。今も地球の人間属が朕らの異世界で活躍しておるし、戻ってきた者もおるぞ。
おぬしも聞いたことがあると思うが、メジャーリーグで活躍しておる中谷選手やサッカーヨーロッ
パで活躍しておる田久保選手、財界ではネット通販大手の御木本社長や、政界では節約党の吉町党
首とか、みんな転移経験者だそ。まあ時間軸には全員100倍補正がかかっておるから異世界で
1年過ごしても地球に戻ったら4日弱程度しか経っておらんことになるから、本人たちもどん底を経
験してからの成功を掴み取ったという点においては共通しておる。異世界の事は行ったもの以外に
は理解できないようになっておるから、誰もそのことには気づいてはおらんがの。」
幸「まじか、道理でみんなそれぞれの分野で、人間離れした体力、気力、まとめて人間力と言うべきな
のかもしれないけど、人を魅了する能力のある有名人たちは生まれながらに神様に天賦の才を与えら
れたって不公平感で、こんな私を作った神様をうらみますって考えてたこともあったけど、じゃなく
って、みんなどん底を経験して、そこから這い上がって活躍していったんや。待てよ、でも結局
それってチートちゃうの?しかも関西人以外もおるやん。」
神「そうじゃ、人間を含む万物は神様が作った原理原則の中でみんな生きておる。しかし唯一その原則
に該当しないのが、異世界転移者じゃ。異世界転移者にそういったチート的な能力が与えられるのは
原理原則に背かず、救いを与えることができる唯一の方法じゃからの。あと、異世界カフェは秋葉原
にも支部があるぞ。時々学園祭などに乗じて地方都市に臨時の異世界カフェをオープンしたことも
あるし、み使いたちはよう仕事をしてくれよるのじゃ。少しは朕らのことを信用してくれたかの。
もう質問はないかの。」
幸「はい、いろいろ教えて頂きありがとうございます。最後に一つだけよろしいですか。なぜ私が選ば
れたのでしょうか?」
神「それは先ほどから申しておったと思うが、まあ良い、おぬしはまず気力ゲージが0だったから、
地球の神との約束は守れた。あとステータスが1000を超える能力があれば、朕の世界では役に
立つ、それがおぬしは銃が1000だったから、さらにオールアップの技で100倍補正もかかるから、
十分に活躍が期待できるということじゃ。」
幸「なるほど、<拾う神あり>とはただの迷信ではなくここから来た言葉なのかもな。でも、はて。
私は日本で平和に暮らす一般人でヤ〇ザとの関りも無いし、ましてやハワイ旅行で実際に銃を撃っ
た経験もないけど、。。。」
神「何を考えておるのじゃ、おぬしは10年間も毎日仕事で銃を撃っておるではないか?小さなことも
こつこつと積み重ねるとゲージ分母はどんどん成長していくのだよ。」
幸「まじかぁ、えっあの私の仕事、ホームセンターの入口係で毎日スキャンしてるあの銃型のスキャナ
ーのことなんかぁ。。。正直ぶっちゃけ、くっそつまらない仕事と内心思ってたけど、千里の道は
一歩から、小さなことからこつこつとなんやな。自分は能力も特技も無く全く自信が持てなくなって
たけど、神様が活躍できるって太鼓判押してくれるなら、一筋の光のような希望が私にもあるように
思えてきたわ。」
神「ではそろそろ、本題に移るとするかの。おぬしに選ばせてやるのじゃ。
①周囲には何も無い誰も居ないような場所に転移し、一人からスタート、サバイバルして生き抜く
コース。もちろん魔物はレベルの低い順にお目見えするように場所は考えてやるがの。
②魔王討伐チームにいきなり加入するコース。先輩の勇者パーティに入り、仲間と一緒に冒険をする
コース。のどちらが良いかの?」
幸「うーん、どうしようか。スライムになってグラトニーって何でも食べてしまうアニメは好きやった
のはあるけど、異世界にはやっぱり魔王がいるんか。各地で伝説を作って後で長生きのエルフに
回想されるアニメも好きやったしなぁ。。。うーん、もう少し時間くださーい。」
神「では幸江よ、お別れの時が来たようじゃ、朕の星のために頑張ってくれたまえ。」
幸江は天界に来た時のような転移魔方陣に乗って、不安と希望に満ちた様子で異世界へ旅立った。