唯一無二の戦闘力
「次の挑戦者は~、東京ゲームショウで行われたオンラインゲームSEI&イベント大会2位の
日本人スバル氏の挑戦だ~。LPは2ありますので、生き残れるチャンスは2度あります。
大会1位のキム氏が攻略のヒントを残してくれたと思いますので、その辺も頭に入っていること
でしょう。楽しみですねー。」
と馬堀氏の絶好調なマイクパフォーマンスで大阪日本橋の異世界カフェ本店で行われていた
ご褒美イベントは大勢のパブリックビューイングに集まった見学者の観客と共に大いに
盛り上がっていた。
「さあ、では挑戦者、スバル氏から一言お願いします~。」
「よっしゃー、ダンジョン攻略行ってくるぜー。」
とスバル氏はおおきな雄たけびを上げて奥の部屋に消えていった。
「さあ、気合の入ったスバル氏を盛大な拍手でお見送りしましょう。」
と司会の馬堀氏が観客を煽ったので、会場からは大きな拍手が巻き起こった。
「ダンジョン最初の映像は、サンタクロースからの贈り物の場面からお送りしております~。」
とダンジョンに潜る前に一つだけ有効な武器やアイテムをもらってから出発することになっていた
場面をドアップで映像は捉えていた。
そこには一瞬見ただけでも凄そうなレア物が並んでいた。
剣や斧、弓といった武器から大きな盾から細工をいろいろと施した盾やレガースのような防具や
ハイポーション、エリクサーなどの回復薬、指輪やアンクレット、ブレスレットなどの特殊効果が
付与された装備品など様々なアイテムが屋台の出店のような雑多な感じで無造作に並べられていた。
「よっしゃー決まったぜー。」
と大きな声を出したスバル氏は、サンタクロースのプレゼントから、シンプルな刀を選んだのだった。
装備すると素早さも大幅に上がる魔剣の刀であった。
「 日本人なら日本刀でしょやっぱ。」
とさらに大きな声を上げながら、刀を振りかざして会場の皆様にもアピールしているようであった。
それと同時にサンタクロースと並んでいた全てのアイテムが一瞬で消え去った。
景色が二人称視点で映し出されていたが、辺りは土でできた洞窟のようなダンジョンが広がっていた。
スバル氏は強化されたスピードでどんどん雑魚敵を切り裂いて進んで行ったので、
時間経過は早く感じられ、あっと言う間に例のゴーレムの所まで辿り着いていた。
「あー、切れねー。まじか~。」
がスバル氏のLP1となってからの最後の言葉だった。
ゴーレムは大きくて硬くてこの日本刀では太刀打ちできなかったようだった。ゲームオーバーだった。
会場ではスピード感溢れる演技を見せてくれた挑戦者のスバル氏に盛大な拍手が送られていた。
スバル氏は異世界カフェの仮設の舞台に戻ってきていて拍手に答えるようにお辞儀をしていたのだった。
その後も流れるようにイベントは進み、ダンジョン挑戦者はここまで全員が途中ゲームオーバー
となっていた。
「次の挑戦者は~、東京ゲームショウで行われたオンラインゲームSEI&の大会7位
日本人アキラ氏の挑戦だ~」
と馬堀氏のマイクパフォーマンスは衰える術を知らず、イベントを素晴らしい空間へと導いていった。
「さあ、では次の挑戦者、アキラ氏から一言お願いします。」
と馬堀氏は舞台上のアキラ氏にマイクを向けた。
「ふっふっふっふ~、データは集まりました。先達の皆様方、私のために前座のお勤め
ありがとうございます。私がプロのダンジョン攻略という物をお見せしましょう。
あっはっはっはっは~。」
とワザとらしい演技のような口ぶりで会場を煽るとそのまま奥の部屋へ消えていった。
もちろん会場はこのマイクパフォーマンスに大盛り上がりだった。
「さあ、やたら偉そうなカチンと来る演出ありがとうございます。アキラ氏。」
と馬堀氏が輪をかけて観客を煽ったので、会場のボルテージは最高潮となった。
映像はアキラ氏がサンタクロースのプレゼントを選んでいる場面がドアップで映し出されていた。
しかし何を選ぶかはもう決めていたようで、何やらスペシャルな盾を選んだようだった。
「おっと、剣ではなくアキラ氏は盾を装備しました。」
と馬堀氏が実況中継をしていた。
例の如く、サンタクロースとアイテムは一瞬で消え去り、ゲームスタートのダンジョンに
映像が切り替わった。
アキラ氏はスライムをこの盾で打撃で弱らせて、そのスライムを盾が魔力で吸い込み、
そのスライムの能力をスキルを本人が獲得している様子が映し出されていた。
その後はゴブリンをスライムの水陣魔法でやっつけて、そのゴブリンを盾に取り込んだ。
次は一角獣のウサギとカエルを合わせたような魔物をスライムの水陣魔法とゴブリンの火魔法で
やっつけて、その魔物のスキルであるエアカッターを取り込んだ。
その後は獲得した水、火、風の攻撃魔法を上手く使って、狼と熊の合わせたモンスターや
アンデッド系の魔物のスキルなどを取り込んで快進撃を続けた。
「すごいじゃん、ビッグマウス野郎、やってくれるじゃん。アキラ、アキラー」
などとパブリックビューイングに集まった見学者の観客たちは拍手や指笛などで応援して
盛り上がっていた。
しかしだった。どんな魔法を手に入れようとも、ゴーレムは硬かった。
一瞬目を離したように見えた時、アキラ氏もこれまでの6位までの挑戦者たちと同じく
ゲームオーバーとなった。
運営はしてやったりだったに違いない。
アキラ氏の戦術は会場を大きく盛り上げたのだった。
「調子に乗って、すみませんでした。」
と大げさなパフォーマンスで既に挑戦を終えた上位者6名たちに90度の最敬礼をして謝っている
アキラ氏の姿が大型モニターに映し出されていたが、それも含めてパフォーマンスであった
アキラ氏はエンターテイナーのプロと言えたのだった。
会場は言うまでも無くアキラ氏に惜しみない拍手を送ったのだった。
どんどんますます会場は盛り上がりを見せていて、パブリックビューイングに集まった
見学者やTOMOの会社の関係者たちは、エルフや魔法使い、猫耳のメイドたちから購入した
アルコール飲料のお酒の力も加わって、野球で言えば9回裏一打逆転サヨナラの場面のように
大歓声で会場は熱気に包まれていた。
「次の挑戦者でラストだ~、東京ゲームショウで行われたオンラインゲームSEI&
イベント大会10位の日本人ATSU氏の挑戦だ~」
と馬堀氏のマイクパフォーマンスも最後の挑戦者の紹介に今日一番の盛り上がりを見せていた。
異世界カフェの大型モニターカウンター内に仮設の舞台が準備されていたのであったが、
その壇上に呼ばれたATSU氏の目は血走っていて他の9名のプレーヤー達とは全く違っているのが
分かった。
「さあ、最後の挑戦者、ATSU氏から一言。」
と馬堀氏はATSU氏に他のみんなと同様の問いかけをした。
「やってやるぜー、わっはっははあ、はああ。」
と妙な高ぶりを見せていて、薬でも決め込んでいるかの様子にも近かったので怖かったのだった。
ATSU氏はやっとここまで辿り着いた。
SEI&の世界を人生の一部として捉えてその大半の時間をゲームプレイに費やしてきたのだが、
今回の東京ゲームショウの告知を見た時、本当に身震いした。
その副賞に異世界カフェでの異世界ダンジョン体験プレイと書かれていたからだった。
ATSU氏は心から信じていた。
「異世界はあるのだと。」
しかもそのゲームの世界は本当に実在するのだと。
ATSU氏は今はまともに職にも就かずに一日の大半をこのオンラインゲーム内で過ごしていた。
しかし以前には一流大学では無かったが高等教育も終了し、いわゆる大企業の大手化学メーカーで
会社員をやっていたのだった。それも今は昔の話となってしまっていた。
「世の中は不公平不平等に満ちている。」
とATSU氏はいつも思っていた。
良く言えば反骨精神、悪く言えば、社会や世の中への諦めにも似た不満を募らせて生きて
来たのだった。
会社を辞めた一番の理由は、会社から理不尽な理由で懲罰的な海外赴任を命じられたため
であった。
元は他の社員が海外のプラントに出世のための近道として準備されていた役職で、数年後には
海外のプラント工場の社長に抜擢され、その後さらに数年後には栄転で日本の本社の役員への
コースがそれまでは一般的であったのだが、急に海外のプラント工場が地元国との合弁会社に
切り替えられてしまったので、言ってしまえば、プラントごと設備も人も売り払われてしまう
予定であることは明白だった。
そこへの異動命令は悪く言えば人身売買的な異動だと噂されていたからだった。
ATSU氏は昔から損な役回りばかり押し付けられて、学校行事でもみんなが嫌がる掃除当番やら、
宿泊学習での夜の見回り当番まで、Noと言えないばかりに理不尽に押し付けられてきたのだった。
高身長な訳でもないし、ましてや美形でもない。もちろん女の子にモテたことなどない。
世の中は不公平。綺麗な奴にしか女の子は興味を示さない。
不平等だ。理不尽だ。
おまけにATSU氏が使っていたパソコンはいつも大事なところでフリーズしてしまうので、
大事な仕事の予定が飛んでしまったりで、上司から仕事が遅いと何度も叱責されたりで仕事が
できない奴との烙印を押されたこともあって、この世界の電子機器さえもが自分を嘲り笑って
いるように感じていた、不公平、不平等、理不尽な世界。。。
今回の東京ゲームショウのイベントでも本人は理不尽を何度も呪った。
一日を大半をこのゲームに費やしてきたにも関わらず、自分の暫定順位がどんどん後続の
プレイヤーに抜かれて転がり落ちていく様を見て、最後には何度も神や仏などを罵ったことか
分からなかった。
「この世は理不尽だ。不公平だ。不平等だ。おれはこの世とはおさらばして、
実在する異世界に行って、勇者と共に戦って本当に意味のある人生を送るのだ。」
といつも心の中に秘めた思いを膨らませていたのであった。
万が一にも10位以下になった時には、この世界をぶっ潰してやろうとさえ考える程に
絶望感に満たされていた。しかし、ギリギリ10位に滑り込むことができた。
「何としてでも異世界に行きたい。」
「異世界は必ずある。」
「俺は不公平不平等なこの世界から脱出したい。勝者になってやるのだ。」
「他の人たちは、単にゲームイベントとしてやっている。
死んでもLPが無くなって、戻ってくるまでの楽しみとしてとらえているが、俺は違う。
ここは異世界で、どこかに歪か隙間があるはず。
俺はどんな手を使ってでも異世界へ行って
勇者パーティに加わって有意義な人生を勝ち取るのだ。」
とATSU氏はイカレているようだがまさに真剣に考えていたのだった。
大型モニターには最後の挑戦者、ATSU氏の姿が映し出されていた。
ダンジョン最初の地点でのサンタクロースからのプレゼントの場面であった。
「袋を下さい。」
とATSU氏はサンタクロースに言っている様だった。
サンタクロースは困って首を傾げていた。
コンビニで買い物をしているのではないのだが。
今度はサンタクロースが肩から下げているその真っ赤な袋そのものを指さして、また
「袋を下さい。」
とサンタクロースに伝えていた。
「これはプレゼント用ではありませんので。」
と怪訝そうな顔をしたサンタクロースの姿がアップで大型モニターに映し出された。
サンタクロースは本当に困っている様だった。
「袋をください。袋~を~く~だ~さ~い~。」
と今度は先ほどよりかなり大きな声でATSU氏は駄々を捏ねる少年のような姿が
大型モニターいっぱいにドアップとなって映し出された。
パブリックビューイングに集まった見学者たちから大爆笑が起こった。
手を叩いている者、涙を流しながら大笑いしている者など様々だった。
この様子に運営サイドも乗っかった様で
「袋をください。袋~を~く~だ~さ~い~。」
の場面を何度もリプレイ再生されていたので、さらに会場は今日一番の爆笑の渦で盛り上がった。
おそらくそのリプレイ再生の間にサンタクロースと運営サイドで何らかの指示が出たのであろう。
「分かりました。ATSU様。それでは、この袋をあなたに授けよう。」
とサンタクロースは大げさに一言告げると、袋を持たない姿で露店のように並べていた
武器や防具などのアイテムと共に消え去った。
会場は、笑いと
「あんなものもらってどうするのだ。」
「面白いやつだなー。」
など口々にみんながコメントしながら大型モニターのATSU氏を注目していた。
ATSU氏は早くも戦闘モードに入っていた。額には汗をかきまくり、眉間にはシワを作って
真剣そのものだった。と言ってもサンタクロースからもらった真っ赤な袋を小脇にまるで剣を
持つように抱えて進んでいるだけだった。
「わはは、ぎゃはは、腹痛て~。」
などなどと、その姿は誰が見てもまるでドジョウ掬いの芸をしているような姿で、まぬけにしか
映らなかったので、パブリックビューイングの見学者たちが思い思いのスタイルで手を叩いたり、
腹を抱えたりして大爆笑していたのだった。
ダンジョン内は今までの挑戦者たちと同じような場所で同じような敵が出現した。
もちろんATSU氏は前の9人の挑戦者たちのプレイをしっかりと目に焼き付けていたので、
初めて来る場所ではあったが、初見プレイではなかった。
スライムやゴブリンなどの弱小モンスターは、あっという間に手に持っていたサンタクロースから
もらった赤い袋の中に吸い込ませていった。
ATSU氏は懸命に魔物を武器で切り裂くのではなく、どんどん吸い込んで、前へ前へと進んでいった。
地形はダンジョンだったのであまり変化は見られなかったが、動物っぽいモンスターが多く現れる
エリアまで進んできた。吸い込んでは進み、吸い込んではどんどん進んだ。
その頃には、パブリックビューイングの見学者たちももうバカにしたような笑いをする者は
少なくなっていき、真剣なATSU氏の型破りな戦闘方法を食い入るように見ていたのだった。
エアカッターを使ってくる一角獣のウサギとカエルを足したようなモンスターのところに来た。
魔法を使ってくるモンスターは遠隔攻撃ばかりなので、袋の中になかなかに入れるタイミングが
無いようだったので、最初は苦戦していた。
しかし、ATSU氏はその難問題もすぐに解決してしまったのを見て観客たちは、
「まじ、スゲージャン。よく考えたなあ。もしかしてキム氏追い越すんじゃね。」
などと、それまで全員がバカにしたような笑いだった空気を一辺させ、尊敬や称賛の渦へと
180度逆転させたのはこういうことだった。
これまで大量に吸い込んだ魔物たちを一斉に吐き出して楯にして自分は無傷でエアカッターの
攻撃をしてくる一角獣のウサギとカエルを足したようなモンスターゾーンを突破したのだった。
その後も吸い込み攻撃?吐き出し攻撃?を上手く使って、途中のモンスターたちを一掃したり
すり抜けたりしながら進んで行った。
次のエリアには、大きなゴーレムたちが居たのだが、このモンスターはスピードが遅かったこと
もあって、簡単に例の袋に吸い込まれていった。
「やっぱ、すげー一番じやん。ATSU氏やるー。」
などと称賛の嵐となったのだった。
次のゾーンは恐竜たちがいっぱいいた。
どこから連れてきたのだろうか、絶滅したはずの恐竜たちが10体ほど優雅に歩いていた。
巨体の物から、空を飛び回る物もいた。さながらタイムスリップしたような感覚であった。
どうやらこの赤い袋は無限収納袋であって竜ですらも収納することもできるようであった。
他の人たちは、もっと弱い魔物や最高でもゴーレムのところまでで力尽きたので、恐竜ゾーンまで
来たのはATSU氏だけであった。
これらの恐竜たちは、何を隠そうあのTOMO社長の友達の賢者YUkI が昔のよしみで頼まれて、
しょうがなく断れずに召喚した物たちであり、最後の砦のはずであった。
ATSU氏は、次々に袋にスピードの遅く巨体の恐竜から順に袋に入れていくので、この大会用に
準備されたプライベートダンジョンをクリアしてしまいそうたった。
確かに運営側にあわただしく動きがあるのが分かった。
TOMO 社長の周りに幹部連中が集まり、何か真剣に緊急会議を始めていたようだった。
「ほら、社長クリアされちゃうじゃないですか。あんなに忠告したのに。」
と役員の追浜氏が社長のTOMOに噛みついてた。
「ごめん、私のせいだわ。悪かった。」
と社長のTOMOは素直に謝っていた。
「それより、恐竜ゾーンをクリアされたら、ヤバいですよ。プライベート区画の外に出ちゃいますよ。」と馬堀氏が現実的な話に引き戻した。
「もう出しちゃう?本人も行きたそうだし。」
と社長のTOMOは真顔でみんなの顔を見渡した。
「最悪、こっちにATSU氏の影武者作ってしのげば、何とかなるっしょ。」
と田無氏も楽観的な社長の意見に賛成していた。
幹部連中だけは、もちろん異世界の事も全て教えてもらって知っていたが、
幹部以外の異世界から来ていない地球の社員たちや、大勢のパブリックビューイングに
集まった見学者の観客たちは、本当に異世界があることは誰も知らなかったのであった。
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