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⑬イグリーとゴルドン

 魔王討伐への道はやはり過酷なものだった。私の知っている異世界物語では、こんなに血が赤くなかったし、内臓が飛び出すのを見ることも少なかったが、魔属も人間属と同じ赤い血が流れていたので、殺すことには罪悪感が伴ったし、魔属であろうと死ぬことは恐怖であり、そこは人間属と同じであったので、その断末魔の叫びを聞くことには特にYUKIとWILLはいつまでも慣れることは無かった。


 魔属領に入って行軍しているので、寝るときさえも安心はできなかった。夜は当然野宿なので、2名のペアで3交代で見張りが必要だった。

 今日はいつも以上に多くの魔属の血を見たため、YUKIは興奮状態が冷めずに寝付けなかった。水でも飲もうかとテントを出ると魔物除けの焚火の傍でIGLEEとGORRDONが見張りをしていた。GORRDONは

YUKIが起きてきたことに気づいた。

「なんじゃ、まだ起きておったのか。寝付けんのかの。」

「はい、昼間の興奮状態がなかなか冷めんくてアドレナリンが出っぱなしっていうか。」

「相変わらずYUKIさんは難しいことを話しよるのう。まあ賢者と呼ばれておることも伊達ではないのう。」YUKIはもうこの頃には自他ともに認める賢者と呼ばれるようになっていた。

 地球時代から本が大好きで雑学の知識が多くあったこと、さらに異世界に来てからもチート能力のお陰で、その知識量が加速度的に上昇した。速読(×100)スキルでは、分厚い百科事典程度1000ページ位はものの数分で読めたし、記憶力(×100)スキルのお陰で、読んだ内容は決して忘れなかった。本人曰く、人間の脳はRAMとROMの両方の働きで自分に都合の悪いことは上書きされて忘れるようになっているお陰で精神が正常に保たれているから、ROMの容量が大きくなり過ぎないように自分でコントロールする必要があると周囲に言ったことがあったが、周囲からは、「賢者様の言うことは凡人の私たちには難しすぎるわね。」と言われたのだった。言語自動変換スキルのお陰で、図書室の奥に大事そうに置かれていた、誰にも読まれてはいないような埃をかぶった古文書がすらすら読めたりした。そこには古代魔法で今はもう使われなくなっていた召喚魔法についての方法が書かれていたので、YUKIはそれもマスターできたので、召喚獣を操れることもさらに賢者と呼ばれるきっかけになったと思われる。

「IGLEEさんも見張り当番ご苦労様です。お酒は足りてますか。」今ではYUKIはTOMOとIGLEEの3人の仲良し3人組だったので、気軽にお話できるようになっていたので自然に大阪弁が出ていた。YUKIは地球時代には男性恐怖症に成りかけていたこともあって、ここでも男性陣とはかなり距離を置いていたが、特に困ることは無かった。

「あーYUKIさん、ありがとう。旅ではお酒は貴重だから。」IGLEEは遠慮がちに答えた。

「IGLEEさん、遠慮せんでもいいですよ、簡単に作れますから。」そういうとYUKIは空いた酒瓶を収納魔法箱から取り出して、何やらごそごそとやっていたが、「ハイ、IGLEEさんできたでー、どうぞ。お口に合えばええですけど。」と酒瓶をIGLEEに手渡した。

「えっーと、YUKIさん今何をどうやったの???」IGLEEは酒がたっぷり入った酒瓶を見てびっくりした。

「あっ、この世界ではお酒は魔法で作れないんやったっけ?せやね、簡単に言うと、この消し炭からスーって炭素Ⅽを取り出して、空気中の水蒸気からポンって水素H2を取り出して、エチレンCH2=CH2をドンって生成するねんな。で、そのエチレンと水蒸気をドカッてくっ付けるとH-CH2-CH2-Hってアルコールができんねん。それをマルチプルって魔法で量をドカドカに増やして瓶に詰めます。余分な酸素をシューって抜いて、それを瓶内だけ時空間魔法で時間を進めると熟成されて完成って感じやで。」YUKIは簡単にIGLEEにも分かるように説明したつもりだったが、

「さすが賢者ですね。分からないけど、分かりました。ありがたく頂戴しますね。すっかり酔いが冷めてしまった気がしますけど、YUKIさんも付き合って下さいね。」IGLEEは友達の能力にはもう慣れっこだった。YUKIは友達のお誘いに快く応じた。

「YUKIさん、その膝の上の「ハッピ」という物を少し私にも貸してもらえませんか。」IGLEEは普段は上目遣いでチラチラ見る程度で我慢していた様だったが、今回は酒の勢いも手伝ってYUKIにお願いしていた。YUKIが膝の上に抱いていたのは、地球のホワイトタイガーの子供だった。こちらの世界では見たことが無かった。もちろんYUKIも地球ではテレビでしか見たことが無い動物ではあったが、初めて召喚魔法を覚えた際にホワイトタイガーをイメージしたところ召喚できてしまったので、今は浮気せずにこの「ハッピ」と呼んでいる召喚獣を大事にしていた。

「どうぞ、IGLEEさん、噛みつかれないように」YUKIは子供のような笑顔でハッピをそっとIGLEEに差し出した。IGLEEは嬉しさ半分怖さ半分で恐る恐るハッピを手にした。

「わー、モフモフですねー。」ハッピも撫でられて気持ち良いようで、おとなしくIGLEEの膝に抱えられて目を細めていた。


 その後、向かい側に少し距離を置いて座っていたGORRDONも加わって、3人で楽しいお酒が始まった。歓迎会の時には聞けなかったこともいろいろ話の中で分かることがあった。

「IGLEEさんは、大阪に住んでたことあるんですよね?」とYUKIは話の流れで聞いてみた。IGLEEは年齢不詳。エルフは長命なので、決して正確な年齢は言わないので。それ以外の話題で振ってみた。

「そうですね。父がエルフ属最高剣士長だったので、その父を超える戦士になるためには何をすべきかって探していたのね。その時に丁度地球の話が耳に入って、地球に行って武者修行をしてみたいって志願したの。父とは別の世界の経験を積むことはいい修行になると思ったから。地球に行くためにはまずギルドの地球コースを二、三年受講して言語や文化などの基本的な知識を修了してからいけるのよ。私は大阪の異世界カフェで勤務していたので、地球には何年か暮らしていたので、その知識と経験を買われて、勇者パーティには前の勇者の時にスカウト推薦されたの。」と普段はあまり自分の事を話さないIGLEEが続けた。「戦闘には弓を主に使い、風属性は全てをマスターしている。水属性と光属性もほぼマスターしていたので、これまでも勇者パーティの教育係的な役目をしてきたわ。それはそれで自分だけなく他人に何かを教えるっていうのはすごく良い修行になったと思う。」と勇者パーティでの立ち位置をちゃんと把握している様だった。

「いつもご指導ありがとうございます。」とYUKIは感謝を伝えた。YUKIやWILLにはいつも指導してくれていた。風魔法のお陰で勇者パーティは何度も助けられた。攻撃でも威力を発揮したが、全員が相手の風魔法で宙を舞った時なども相殺の風魔法で安全に着地させてくれたこともあった。IGLEEはさらに話を続けた。

「いえ、こちらこそ、YUKIさんには本当にいつもこちらが驚かされることばかりで、すごく勉強になっているから。賢者さまと出会えたことは本当に私の宝物だと思っているわ。これからも末永くお付き合いよろしくお願いします。」とYUKIのことを褒めた。エルフに末永くと言われてしまったことは100年では済まないイメージなのだろうが、神様のオールアップの力など見てきているので、いろんな感覚が分からなくなって来ているのかも知れなかった。

「もちろん、こちらこそお世話になります。」とYUKIは笑顔で答えた。


「そいじゃ、わしも少し昔話をしようかのう。とGORRDONはIGLEEとYUKIの会話が終了したのを待って話し始めた。

「わしはこれまでドワーフの戦士で元鍛冶屋だとだけ言っていたが、実はドワーフ属の王子なんじゃよ。」と突然打ち明けた。

「えー、そんなに偉い人とは知らずにごめんなさい。とYUKIは素直に驚いた。ドワーフもエルフ同様長命だったので、正確な年齢は分からないがIGLEEを姉さんと呼んでいるので、見た目おっさんの割には若いのかも知れないが、ドワーフ属の王子様とは思わなかった。

「まあ、わしが偉いわけではないし、気にせずとも大丈夫じゃ。地球には親の反対もあって行ったことがないが、ギルドで3年間の地球コースの座学研修は修了しているので知識は豊富であった。じゃで勇者パーティには、その知識も役立つじゃろうと、勇者SEIから参加しているのじゃ。ドワーフ属の代表として誇りを持って勇者パーティに参加してきなさいと、こちらは親たちも賛成してくれたからの。」と見た目おっさんなのに意外と親の言うことには逆らえないのかというギャップにYUKIは少し笑えて来たがぐっと押し殺した。

「多くのドワーフは鍛冶に精通しておるからの、戦闘には斧を主に使うが土属性の魔法もマスターしているからそこは誰にも負けんぞ。あと土魔法は一見地味だが、ゴーレムを生成できるから、災害時に重たい物を運んだりしてギルドからの要請にもかなり答えてきたし、特大の魔物や魔獣討伐依頼も多く受けて、かなり役に立って来た筈じゃよ。」とGORRDONはいつもよりは酒の勢いも手伝って多く話してくれた。

 

 そうして普段はあまり身の上話を直接聞いたことが無かったが、今日の出来事で三人はさらに親交を深めることができたのだった。

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