⑫魔王討伐冒険譚 前編
勇者パーティは、魔王討伐に出発することが正式に決まったため、国王に謁見することになった。ギルド本部は国営の一機関であったので、ギルドで起こっていることや、魔物討伐やダンジョンの探索結果など、全ては国王にも報告がいくのは当たり前のことであった。勇者パーティが、魔王討伐に出発することが可能なレベルになったこともギルド本部から国王へ正規の報告が上がっていたためであった。
YUKIとWill は国王に会うのはもちろん初めてだった。他の勇者メンバーたちは面識があったようだった。
「おもてをあげよ。」と国王は謁見の間で勇者パーティと面会した。一応の作法はMIRAGE から習っていたので、失礼のない程度にはYUKIも振る舞えた。
「YUKIよ、会えるのを楽しみにしておったぞ、賢者さまよ。」とYUKIのことも既に報告書で知っているようであった。
「はい、はじめまして、国王陛下。お会いできて光栄です。」とYUKIは社交辞令で返した。
「賢者の技もいろいろと報告が来ておる。地球から来られる転移者はこれまでも何人もいたが、お主のように賢者と呼ばれる者は初めてじゃから、これからも末長く我が国、我が民たちのためにその叡知を活用して欲しいもんじゃで、今回の魔王討伐から戻った際にはそれなりの物も準備しておくから、存分にその叡知を魔王討伐に使って成果を見せてくれい。」とYUKIに励ましの言葉を他の誰より先に述べた。
「はい、お心遣い感謝いたします。必ず魔王討伐を成功させて戻って参ります。」
と社交辞令で返したが、今は何もしてくれないのか、と思ったりもした。
「他の勇者パーティ諸君もどうか目に見える成果を持ち帰って欲しい。」と国王は全員へメッセージを送った。その後もなんたらかんたらお話してたようだが、結局のところこの世界も成果主義のようであった。YUKIはあまりにも興味が湧かなかったので、王様の話を聞く振りをしながら自分のステータス画面をじっくり見て、暇を潰していた。
・主要ステータス
小川幸江(YUKI)
LV148 *地球の人間属(転移後の初期値)
体力 ゲージ・・・4000/4000(3200)
魔法 ゲージ・・・2100/2100(100)
気力 ゲージ・・・12600/12600(10000)
・アビリティ
ちから 3480(3200 )すばやさ 18200(9600 )みのまもり 2000(600 )知恵 6600(3200)
剣 100(100) 斧100(100) 槍 100(100) 弓100(100) 銃122800(100000)
火属性 125(100) 水属性 2280(100) 土属性 130(100) 風属性 140(100)光属性 240(100)闇属性 110(100)
やる気 6400(3200 )根性 6200(4800) 継続力 5800(4800) 生きる力 3800(1600)
。スキル
神様の加護(×100バージョン)
言語自動変換
速読(×100)
記憶力(×100)
銃技術(×100)
鑑定(×100)
物質化学式操作(×25)
異空間収納(×36)
召喚(×2)
賢者(×10)
訓練の成果で、よく使っていた各数値が上昇しまくっていたが、微増しかしていない数値は、もちろん心当たりはあったので、訓練内容と成果は比例するようだったと納得した。またどうやら、賢者スキルを手に入れたようだが、発動条件などは謎のままだったが、賢者というのは噂レベルでなくスキルとして確定しているようだった。
長い面会は無事終わって、いよいよ出発の時が来た。一行は魔王城を目指していた。最初の内は六人の旅行かと思われる程のんびり気分だった。野良の魔獣を狩ったりしながら、平原、森、山岳地帯を抜けていく。全員が訓練と加護のお陰で然程疲れることは無かったが、お腹も減るし、夜になると眠くもなったので、これまでに比べると十分過酷な行軍であった。
当然のことであるが、魔族の国に入って進軍を続ける勇者一行の動きを察知した魔王が、順に大隊を派遣してきた。ただ、進軍の途中の村などは迂回してスルーするようにしていたのは、一般人には手を出さない為であった。
最初の大隊は、ゴブリン部隊であった。ゴブリンはもう何度も戦っていたので、各自の得意な戦い方と魔法でSEIが各位をコントロールし、連携を取ることで気力を下げない戦い方で問題なく対応できた。ゴブリンは白兵戦が得意で魔法は指揮官ゴブリンロードと幹部のゴブリンメイジだけが使えるため、多くのゴブリン歩兵は肉弾戦で攻撃してくる。ゴブリンアーチャーが弓矢で突破口を開いて、そこをゴブリン歩兵が攻め込んでくるという在り来たりな攻撃パターンだった。
SEI「前衛は俺とGORRDONさんで、魔法で打ち漏れたゴブリンを拳と斧で狩りましょう。中衛にはYUKI
さんとIGLEEさんで、魔導銃と風魔法でどんどんゴブリンを広範囲撃破して下さい。後衛はTOMOさ
んとWILLさんで、回復系で全員をサポートして下さい。あとは仲間を信じる事。じゃあ、いつも通
りで行きましょう。」と全員に指示を出すのももう慣れて来たようで、それぞれの役割分担をしっかりと明確に伝えることができたので、あとは時間の経過と共に数を減らしていくだけだった。
TOMO「あのゴブリンロードは私に殺らせてよ。」と後衛に甘んじてみんなのフォローに回っていたが戦況はしっかり把握できているだけのことはあって、SEIに進言した。
SEI「りょーかいー。YUKIさんIGLEEさん、ゴブリンメイジの結界を破壊して下さい。結界が破れたら
TOMOさんゴブリンロードやっちゃって下さい。」とこちらも戦況の把握ができているようで、
TOMOの提案に素直に応じた。
YUKIとIGLEEは魔法や物理攻撃を弾く結界を通常攻撃で簡単に破壊できたので、TOMOが大きめの闇魔法でゴブリンの幹部たちを仕留め消え去った。それを見ていたゴブリンアーチャーが逃げ出すと残りの歩兵ゴブリンたちはクモの子を散らすように全員逃げていった。勇者パーティの勝利であった。
次の日も勇者パーティは魔王城を目指して行軍を続けていた。広大な沼地に差し掛かると、リザードマン部隊が目の前に現れた。数では先日のゴブリン大隊には及ばなかったが、一個体がゴブリンより大きかったことと移動速度が速かったこと、沼地のぬかるみに勇者パーティは足を取られて、通常攻撃だけでは苦戦を強いられた。おまけにリザードマンは水魔法中心で全員が魔法を使用してくるのだった。リザードマンは水魔法を矢のように巧みに使い、おまけにスピード感も非常に有ったので勇者パーティは防戦に回っていた。
SEI「TOMOさんは、魔法結界を張って守備を固めて下さい。他はいつも通りの役割分担でお願いし
ます。」と相手の魔法攻撃をかわすための戦法で対応するしかなかったが、苦戦を強いられた。
暗黙の了解と言うのだろうか、敵と遭遇した際は各位が得意な攻撃を当てて、SEIが指示を出すまでの時間を繋いだり、どんな攻撃が効くかを先に試し打ちすることで、SEIの判断にもプラスになる動きを各位が自主的に行っていた。いつもの通常攻撃というのは、いつもこんな感じだった。
SEIは、基本的に作戦を考えながらの攻撃なので、周囲の状況を確認しながら、思考は常に巡らせながら、無の境地で空手の構えからの火属性もしくは物理攻撃の魔法拳を繰り出していた。
YUKIは、小型銃の魔導銃で自身も回転しながらの水属性の連続魔法攻撃でスピード感のある攻撃を敵に撃ち込んでいた。
TOMOは、いつもいろんな属性の魔法を試し打ちして、敵の弱点をSEIにも見せる攻撃を主に行っていた。
WILLは、見た目はイケメンだったのでフェンシング風のカッコいい構えからの振りかぶって大きめに剣を振り下ろす動作で、光属性の魔導剣で敵を薙ぎ払った。
IGLEEは、一番の戦闘経験者でもあったので、いつも冷静沈着で周囲の状況を確認しながら、風属性の魔法で敵を退けていた。
GORRDONは、得意の土魔法で地形を変えて敵が近づいてくるのを防いで防御に回ったり、石礫を飛ばす攻撃が常だった。
そうしている内に、SEIが必勝戦闘パターンを思いつき、全員に的確な指示を出すのであった。そのことで
各位の信頼度も増して気力を削られない戦闘ができるようになっていった。
TOMO「何か良い手無いの?なんか押されてるみたいなんだけど。」と守備結界を張るより攻撃に参加したそうな様子だった。
SEI「YUKIさん、水素でポンっていけそうですか?」と救いの手をYUKIに求めた。
YUKI「いや、それよりもっといい手があります。ドライアイス弾を沼地にぶち込んで、水の温度を下げ
れば相手の動きを止められると思います。」とSEIに提案した。賢者の名は伊達ではなかった。
SEI「さすがYUKIさん、爬虫類は変温動物だからいけるかも。それなら、GORRDONさん土壁を周囲に作
ってその中にドライアイス弾を撃ち込んでもらいましょう。より一層温度が下がりやすくなると思
いますから。」とYUKIの提案に自分の考えも織り交ぜて指示を出した。
その作戦は大成功だった。リザードマンの動きはタイムレイトの魔法を何重にもかけたような効果があってそれまで目にも止まらぬスピード感で攻撃してきていたのがウソのようにのろまな亀たちのようになった。
SEI「んっじゃ、TOMOさん大きいのぶちかまして下さい。」と退屈しているTOMOに主導権を譲った。
TOMO「みんな、それじゃーお言葉に甘えて、広範囲で一発行くよー。」と闇魔法のアシッドレインを降らせた。動きが遅くなっていたリザードマン大隊は避けることも逃げることもできず、TOMOの一発を
まともに食らってほぼ全滅した。ご存じの通り、TOMOは地球に居た頃から大魔法士TOMOと呼ばれており魔法をぶっ放すのが大好きだった。周囲にいて魔法の威力が届かなかったリザードマンはその場から逃げて行ったので後は追わなかった。勇者パーティは勝利した。順調に魔王の送ってくる部隊を駆逐していった。
それからも勇者パーティは行軍を続けた。山岳地帯のはげ山が続く地形を進んでいた時に、次の大隊と遭遇した。それは空を一瞬暗くするほどの飛行部隊であった。空を埋め尽くそうとしていたのは、ハーピー部隊で、それぞれに羽が生えていて空を自由に飛び回っては、弓や魔法を使用したりしての空中からの攻撃が中心だったので苦戦させられることとなった。
IGLEE「高度が高いのと数が多すぎて、私の魔法では私たちの周囲から追い払うのが精いっぱいだわ。」と空中戦の戦闘歴を多く経験したエルフでも苦戦を余儀なくされているようだった。
YUKI「私の魔導銃でも近くの敵しか届かないわ。」と空中戦の経験が少ないYUKIではなすすべが無かった。ハーピー部隊は、高度が高いところから魔法や弓で攻撃してくるので、こちらの魔法が届かないし守りに回らされてジリ貧だった。
TOMO「私の結界でもそんなに長時間は防げないわよ。SEI考えてるの?」とリーダーに指示を促した。
しばらく守りながらの試行錯誤が続いたが、われらのリーダーがようやく口を開いた。
SEI「IGLEEさん、TOMOさんとGORRDONさんに魔法効果をアップさせる補助魔法をかけて下さい。TOMOさんは重力操作魔法グラビティで広範囲のハーピーを地面に落として下さい。GORRDONさんは落ちてきたハーピーに広範囲でソイシクルで止めを。YUKIさんはTOMOさんの代わりに結界を張って下さい。WILLさんは気力回復魔法で全員のサポートを。私は近づいた敵を殺ります。」と修行僧のように考え込んでいたと思ったが一気に作戦を指示した。
この作戦も見事に填まって、ハーピー大隊をほぼ全滅させることができた。今のところは負け知らずの立派な成績を修めた行軍だった。勇者パーティは魔王領内でも噂されるほどに存在感を増していった。