⑩実戦訓練は長い道のり
その後も数か月間、新しく組まれた訓練メニューを訓練場での訓練や実戦訓練のために近くの森に出かけて、みんなは課題の克服に全力を注いで取り組んだ。
SEIは、リーダーとして仲間への指示出しができるようになっていったし、積極的に広範囲の火魔法を習得していた。YUKIは、魔導銃での遠距離広範囲魔法ウォーターフォールなども習得し、血を洗い流すのは戦闘後に魔力をなるべく使わないように行った。Willは、後衛で全体を見渡して仲間に補助魔法や回復魔法を掛ける訓練をしていたので、仲間のフォローもできるようになったし、魔導剣の広範囲光魔法プリズムライトがスムーズに適所で使えるのになった。魔物を殺すのも大儀のためと割り切ることができた。
TOMOは、単独魔法ばかりでなく連携した動きができるように後衛から仲間が戦い易くなるためのポイズンブレスとかの全体を弱らせる魔法やタイムレイトなどの補助魔法を使ったりして、仲間を助け合う戦闘法を身に着けることができたので、気力の減りを遅らせることに成功し、気力に連動して体力や魔力も長持ちするようにできた。
勇者パーティはギルド本部の直営部隊であったので、実力に応じたギルド依頼の仕事もこなす必要があった。今回は、王都からさほど遠くない村に農作物を食い荒らす害魔獣が出たとのことで一行は訓練の一環としてまたギルドの仕事をこなすために遠征に向かっていた。事前に聞かされている話によると、猪のような特徴の魔物で体長は約1mでいわゆる大型犬サイズなので、5体も出れば居ればかなりの農作物への被害も大きかったし、人を襲ったりもしたので対応が急がれた。
SEI「一丁やりますか、WILLさん補助魔法で全員の戦闘力防御力アップよろ。YUKIさんアイスビュレットで一匹お願い。IGLEEさん、弓で一匹仕留めて。TOMOさん何でもいいから一匹お願い。GORRDONさん岩のつぶてで一匹お願い。」と全員にざっくりと指示を出すと、自身は残りの一匹に火魔法を纏わせた拳で攻撃を加えた。訓練の成果であろう、各々が的確に役目を果たし魔獣たちを打ち取った。以前に比べると気力の減りも大幅に削減した戦いができるようになっていたし、YUKIも必要以上に血を洗い流して魔力を無駄使いすることもしなくなっていた。
MIRAGE「みなさーん、お疲れさまと言いたいところですが、何か来ますわよ。」と畑の土が盛り上がっている方向を指さした。全員がその方向を見て驚いた。
YUKI「わー、何かキター。鑑定!」と土がモコモコして得たいが知れなくあまりにも気味が悪かったので、鑑定を使って確認することにした。「潜性土竜 LV 39 土属性魔法 土の中に常に潜っている魔獣 50匹って出たよー、みんな!」
SEI「まじかよーそんなにレベル有るのかよー。」
TOMO「SEIさん、驚いてないで指示出しよろしくですわよー。YUKIさん拳聖土竜って言わなかった?」この世界ではまだ一年と少々の新米であったが、地球でのオンラインゲームで大魔導士の称号を持っていたTOMOは他の地球から来たメンバーに比べると頭一つ抜けていたので、ここでも冷静に対応できた。
YUKI「違う、潜性土竜、せんせいもぐらよ。」と何故そんなことを聞かれているのか分からなかったが、違うから違うと否定しておいたのだ。
TOMO 「 あっそう、そんなもぐらたたきゲームがあったから、少し気になっただけー。」土がウェーブのように盛り上がってだんだんと勇者パーティの方へ近づいて来ていた。
SEI「分かってるよー、ちょっと驚いただけじゃん。」とまるでお母さんに小言を言われて反抗している子供のような態度をTOMOに見せていた。SEIはいつまで経ってもTOMOの掌の上で転がされている関係のようだった。
SEI「畑の作物にあまり被害を出したくないので、IGLEEさん何かいい方法あります?」と見た目は若い年配のIGLEEにアドバイスを求めた。
IGLEE「植物には影響が少なくて、魔獣にだけダメージを与えるには、火、土、風、水は使えないわね。
光か闇ではどうかしら?」IGLEEも即答できる答えを持っていないらしく、珍しく他のメンバーにも助言を求める形になった。
WILL「闇なら相手の動きを遅くするタイムレイトの魔法ぐらいですかね?」と遠慮がちに答えた。
SEI「WILLナイスアイデア、TOMOさん、できるだけ広範囲で一発ぶちかまして。その間に次の手を考えようか。」と自分の意見が通ったことが嬉しかったのかWILLは笑顔で自信に満ちた態度に変わることができた。
TOMO「OK、了解ー、じゃー派手にいきますよー。」と広大な畑全体にタイムレイトの魔法をかけたので、魔獣たちの動きがスローモーションのようになった。
SEI「よっしゃー、今のうちに次の手を考えよう。」と丸投げのようだが、とりあえずみんなの意見を集めることにした様だった。少し考える時間を与えられた形になったので、みんなで知恵を絞った。
YUKI「こんなのはどうでしょう?この畑の土の中の酸素を全て大気中の窒素と置き換えるんです。そしたら、畑の中のもぐら魔獣たちが、地表に出てくると思うんです。そこを一網打尽にするというのは?それなら地中の作物には被害があまり出ないかと。」と他の誰もが真似のできない思い寄らない作戦を考え出した。
SEI「さすが賢者様と言われるいい考えだねー。じゃあお願いできますかYUKIさん。」と、この頃からYUKIの知性にも惹かれて恋心を抱くようになって来ていたので、YUKIの気を引こうとしていたのかSEIの
TOMOに対する態度とは明らかに違った。
YUKI「はい。では地中に物質化学式操作をかけますよー。」と無詠唱であったので一瞬でもぐら魔獣は息苦しくなって、水面から飛び出すトビウオのように地面から上に飛び出して来た。
SEI「YUKIさん、やりー!そしたら、IGLEEさん風魔法でもぐら魔獣たちをもっと上に噴き上げて作物から離して下さい。」と害獣をなるべく作物から遠ざけて処分する作戦に出た。
SEI「他のみんなは各自判断で、得意な攻撃で仕留めて下さい。」とこちらはざっくりな指示だったが、YUKIは氷のつぶてを魔導銃からもぐら魔獣に次々と打ち込み、TOMOは真空の矢のようなものを次々と打ち込み、GORRDONは敵のサイズに合わせた小さな石のつぶてを次々と打ち込み、WILLは長引く攻撃にも対応できるように範囲気力回復魔法をかけていた。SEIは火は作物を燃やしてはいけなく使えないので物理攻撃の打撃でジャンプしながら敵を次々と仕留めていった。
SEIは最初にYUKIの元へ駆け寄って、「YUKIさんのおかげですよ。」とわざわざハイタッチをしに来たので、YUKIも笑顔でハイタッチを返した。その後は五月雨式に全員で勝利のハイタッチをした。
MIRAGEがもう魔獣は居ないことを確認し、村に戻ると住人たちから感謝の言葉をたくさんもらえた。
その夜は、村人全員が集まって勇者パーティの魔獣討伐記念祝勝会が催された。ここでは村人たちに感謝される喜びを知り、勇者パーティのモチベーションが大きく向上した。またこの宴席では、勇者SEIが
YUKIに昼間の感謝を伝えると称してYUKIの隣に座って宴会を楽しんでいたので、これまでは女子会の集まりしか無かったし、元の世界で男性恐怖症だったYUKIが、それを克服しつつあるという良い流れでもあった。今回の遠征でもいろいろな面で成果があった。
数週間後にはギルドの別の依頼で、国境付近にあった元要塞の廃墟にできたゴブリン盗賊団の根城討伐の遠征に出かけることになった。事前に別の冒険者の調査隊が以下の情報を持ち帰って来ていたので、事前の準備は万端だった。盗賊団は、魔王に追放されたゴブリンたちが集まってできたグループで無法者だったので人間属側に平気で危害を加えた。その頭目はホフゴブリンで進化したゴブリンなので、より人間に考えなど近く頭も良かったし、身体もゴリラほど大きい。ゴブリンメイジは10体ほどで頭が切れて魔法も使いこなす。ゴブリンアーチャーは弓の名主たちで10体ほどで隊列を成して攻撃してくる。
またホフゴブリンは四つ足の動物タイプの魔獣たちを使役して歩兵部隊として、さらに弓部隊や魔法部隊を編成し軍隊のように役割分担して戦闘するので、めちゃくちゃ厄介だった。こちらもしっかりと役割分担を明確にして、連携攻撃をしないとなかなか勝てない相手だった。
MIRAGE「もうすぐ目的地に到着します。みなさん準備をお願いします。」と引率のギルド職員が緊張気味の勇者パーティに声をかけた。
TOMO「サーチの魔法で確認したけど、前情報とほぼ同じね。」と敵の位置を再確認してみんなを安心させた。
SEI「ありがと、TOMOさん。では出発前の打ち合わせどおりでいきましょうか、みんな。」とパーティのリーダーは全員に心の準備を促した。
YUKI「了解、じゃ鑑定を広範囲でかけるよ。」といつもながら無詠唱で鑑定を行った。「ボスがホフゴブリンでLV71が1体、ゴブリンメイジのLV51が12体、ゴブリンアーチャーのLV48が16体、猪突猛進LV12っていう猪の魔獣が前方で21匹で隊列を組んでる。あと、掃除屋ブチLV15っていうハイエナ魔獣が36匹が猪の後ろに隠れて虎視眈々と隙を狙ってる。その後ろを戦士ゴブリンたちがLV25~41で100体以上でこちらは歩兵団。こちらもほぼ前情報と同じ。」とYUKIは事前の打ち合わせ通りに、詳細情報をみんなに提供した。
SEI「YUKIさん、助かります。ありがとうございます。では、残りの皆さんも打ち合わせ通りに仲間を信じて行きましょう。」と優しい表情で答えた。最近の訓練では、気力の減少を削減するための戦い方を学んで来ていたので、一人一人別々に戦うのではなく、背中を任せるような、仲間を信じた戦い方ができるようになってきていた。
TOMO「はい、タイムレイト完了っと。IGLEEさん、魔獣たち一気によろしくお願い。」と事前の打ち合わせ通りの連携を見せた。
IGLEE「風よ、嵐を巻き起これ、トルネード。」前方の魔獣たち全部とその付近にいた戦士ゴブリンも何体か一緒に空中に巻き上げられた。「OK、YUKIさん、WILLさん仕留めて。」と次の連携を行った。
YUKI「はいー。りょーかい。」と氷のつぶてを目にも止まらぬ速さで打ち込んでいるように見えたが、弾丸はただの氷ではなく、ウォーターフォールとの複合弾だったので、氷が滝のように無数に出ていたので辺りの魔獣が核を撃ち抜かれて消滅してしまっていた。
WILL「はい、です。プリズムライトいっきまーす。」と光の魔力を込めた剣を薙ぎ払って、宙に舞い上がった周囲の魔獣たちを殲滅した。「GORRDONさん残りお願いします。」とわずかに二人の攻撃が当たらず、地面に落ちてきた魔獣たちをGORRDONに振った。
GORRDON「よっしゃー、了解任せとけ。ソイシクルと唱えた。」と土魔法で地面をつららを逆さまにしたような魔法で残りを一掃した。
SEI「GORRDONさん、ありがとう。残りはゴブリン隊。TOMOさんYUKIさんWILLさん、回復よろしく。」とスピーディーな連携を見せた。
TOMO、YUKI、WILL「OK」とそれぞれ、魔力回復魔法、体力回復魔法、気力回復魔法を全員に掛けたので全員の主要ステータス値が全回復した。
SEI「GORRDONさん、穴掘りのやつよろしくです。」と次の作戦の指示を的確に出した。
GORRDON「よっしゃ、ディグトレン。」と広範囲に穴を掘る魔法をかけたため、魔法を仕掛けようとしていたゴブリンメイジたちと弓矢を放とうとしていたゴブリンアーチャーたちとこちらに向かって来ていた戦士ゴブリンたちが、みんな穴に落ちた。穴に落ちなかったのはホフゴブリンだけであった。
SEI「YUKIさん、凍らせて下さーい。」とYUKIに優しい口調で指示を出し、自身はホフゴブリンの方へ走り出した。
YUKI「はい、じゃ、いきまーす。」とウォーターフォール弾を放って穴を水没させてゴブリンたちを溺れさせ、ドライアイス弾で水を一気に凍らせてゴブリンたちを凍結させた。これなら、YUKIが苦手な血を見ることなく敵を討伐できるので一挙両得の戦法であった。
IGLEE「SEIさん援護するから思いっきりやっちゃって。ウインドシールド。」とSEIの前方に風の盾を作ったので、ホフゴブリンの攻撃をもらうことは無かった。
SEI「よっしゃー、じゃー最後は俺が。」と気合の入った掛け声と共に、少々余計と思われる空手の型からの正拳突きを余裕で食らわせた。もちろん、SEIは火魔法で拳サポーターに魔力を込めていたので、ホフゴブリンは一撃で燃え散った。
全員「ヤッター、作戦成功。」口々にみんなが自分たちを褒めたたえたし、仲間との絆を確かめるかのようにハイタッチをして喜びを分かち合った。
これが、ゴブリン盗賊団を討伐した戦いのダイジェストであったが、戦い方には連携が随所に見られたため、みんながみんなを信じる心が溢れるようになったため、気力の減少を大きく留めることができるようになっていくのがどんどん実感できた。
討伐に成功し、ギルド本部に戻った。そこにはゴブリン盗賊団討伐完了の噂を聞いた冒険者たちが集まって、勇者パーティのみんなを祝福してくれた。もちろん祝福とは、乾杯の宴のことである。大いに盛り上がったことは言うまでもない。勇者パーティの席順も当たり前のように、SEIとYUKIは隣通しで座るようになっていた。
SEI「YUKIさんのオリジナル魔法に名前を付けたいんだけど」と提案した。
YUKI「そうね、化学式を操作するってのは共通事項だけど、個別には呼び名が無いから不便かも。」と他愛のない提案にも素直に乗った。
SEI「じゃあ、水素と酸素を分離してから爆発させるやつは、<水素でポン>ってどう?理科実験じゃあよくポンって音させる実験やってたよね。」とお互いに理系の大学出身者同士の会話らしいものであった。
YUKI「まあ、悪くないんじゃないかな。ポンって何かかわいらしいけど、実際は大爆発だけど、まあいいわ。」とさらに話に乗った。
その変化にTOMOやIGLEEの女性陣は当然気付いていたし温かく見守っていた。WILLとGORRDONは気にも止めていなかったのは男性の性かも知れない。勇者の名をギルド本部内でもようやく一目置かれる存在へと押し上げた。もう訓練ばかりしているタダメシ食らいと呼ぶ者は誰もいなかった。
次のギルド本部からのミッションは、ダンジョンの調査と討伐依頼だった。王国北部のダンジョンから魔物たちが外に溢れ出て来て、近隣の町まで流れて来ることが幾度となく発生していたためであった。
勇者パーティは依頼のダンジョンに来ていた。ダンジョンは、いわゆる階層という物が無く一本道のスロープ状の洞窟を、奥へ奥へ右へ左へひたすら下っていくタイプの地形だったので、既にかなり下って来た筈なのだが、今何%攻略しているのが分かり辛かった。道すがら、外へ逃げ出そうとでもしている野良の魔獣や魔物に多く出くわしたので、その都度退治しながら奥へ奥へ進んでいた。
SEI「今日も楽勝だなあ。YUKIさん、Good Goodyの大きなショッピングカートとか異空間収納に仕舞って
てないの?あれに俺が乗るから誰か押してくれたらもっと楽勝になるんだけどなぁ。」と終わりの見えない地形に半ばうんざり気味のみんなを明るくしようと会話の糸口を開いた。YUKIが昔地球で働いていた外資系のホームセンターのショッピングカートは日本のカートより二倍以上の大きさがあったのは有名な話なので、それに乗って押してくれというSEIのユーモアの現れだった。それはYUKIの気を引こうとする仲良しアピールでもあった。
YUKI「そんなの持って来てませんよ。しかもここは地面ががたがたなので最悪の乗り心地やし。」とマジレスで返した。
TOMO「余裕かましてたら、見たことも無い魔物に遭遇するんだからね。」と隙があればいつも子供っぽい行動をする勇者を嗜めた。
SEI「ほんじゃ、仕事モードに戻りますか。IGLEEさんウインドサーチで奥の状態確認してもらえますか。」と仲間に指示を出した。
TOMO「ちゃんと分かってんじゃん。範囲が広すぎて私のサーチなら拾いきれないけど、ウインドサーチ
なら、風の流れで奥までの振動が拾えるからね。まあ私も使えるんだけど。」と勇者を褒めた。
IGLEE「かなり先だけど、空中を飛び回ってる物が多数いるわよ。」とウインドサーチの結果をみんなに伝えた。
GORRDON「おかしいのう、こんなところに飛行体の魔物が出るなんて聞いたことないのう。ワシらは
山や洞窟にはめっぽう詳しいからのう。」とドワーフの戦士は追加情報をみんなに与えた。
TOMO「ほら、私の言ったとおりになったじゃん。SEIが勇者自らフラグ立ててんじゃないわよ。」と見たことも無い魔物に遭遇するという話の通りになってしまったことで、冗談半分に勇者を茶化した。
SEI「あい、すいませーん。じゃ全員戦闘モードに切り替えて、飛び出してくる魔獣や魔物はこれまで通り
GORRDONさんの土魔法中心で残りはみんなでサクッと退治しながら、サーチ系が使えるYUKIさん、
TOMOさん、IGLEEさんは何か新しいことがあったら教えて下さい。」とリーダーらしくみんなに指示
を出した。
TOMO「戦闘モードなんてモードスイッチは私には無いけど、まあいいわ。サーチで警戒を続けるわ。」
と、文句を付けながらも概ね勇者の指示に従った。
サーチ系の魔法にビンビンと引っかかるようになってきたので、YUKIが鑑定を使って確認することになった。それは、ダンジョン奥に本当はいるはずのない、ワイバーンの群れがいることを示していた。
YUKI「うわー、やばいよ。やばいよ。ほんまに。LV90~LV106のワイバーンが100体以上いますよー。
おまけに鑑定遮断してくるボスが1体います。もっと近づかないと鑑定できないです。」と普段は冷静なYUKIが悲鳴にも似た声でしかも大阪弁を出さずにはいられない程の動揺でみんなに報告した。
IGLEE「まだ戦闘までには時間があります。慌てず、作戦を練りましょう。」と年長らしいアドバイスでみんなを落ち着かせようとしていた。
WILL「ワイバーンが多数いることが分かったのなら、ダンジョン内のバランスが崩れて周辺地域にも
魔物が出没するようになった。それで調査完了で帰りましょうよ。」と勇者パーティ内では最も怖がりなWILLが撤退を提案したが、瞬殺された。
SEI「おいー。俺たちは、調査と討伐を依頼されて来たんだぞ。帰れる訳ないじゃんかよ。」と無謀にも思えたがみんなもSEIに一理あると思い、顔を見合わせて頷くしかなかった。
YUKI「みんなで方法を考えましょう。」とWILLを宥めた。
SEI「YUKIさんのあの空気を抜くやつはつかえないかな。」ともぐら退治の時に使用した、物質化学式操作のスキルを使用するよう提案してきた。
YUKI「いえ、あれはここでは難しいですね。奥底までの距離が読めないので、範囲指定ができないのと空気がすぐに入れ替わってしまうので。適さないかと。」と科学的見地に基づいて回答をした。
SEI「なるほど、確かに。他に何か作戦はありませんか。」とみんなに一緒に考えるよう舵を切った。
YUKI「相手のボスの情報がまだ何も分からないので、とりあえずワイバーンに絞って作戦を立てるべき
かと。あと、これまでと違って相手のレベルがかなり高いので、我々それぞれのレベルを鑑定し
て見てもいいですか?ぎりぎりになるかも。まずは自分たちのレベルを知っておいた方が作成を
立て易いと思いまして。どれぐらいのレベル差があるかで作戦を立てる必要があるかと、相手も
LV100越がいますし。」と、戦う前に自分たちのレベルを共有することを提案した。YUKIは勝手に見ようと思えば、相手が余程強力な鑑定阻害を使わない限り見れるのだが、そこは個人情報的な教育を地球で受けてきたYUKIには強い抵抗感があったので、一度も仲間に鑑定を使ったことは無かった。
SEI「いいよ。もちろん。YUKIさんなら、何でも教えるよ。」
TOMO「どうぞ遠慮なく。」
IGLEE「まあいいでしょ。」
GORRDON「ええぞ。」
WILL「みなさんがそうお考えでしたら私も。」とみんな許諾の意思を示した。最初のSEIの発言は少しニュアンスが違うようにも思えたが、ここはみんなスルーした。ギルド職員のMIRAGEもずっと同行してはいたのだが、一定の距離を保って見守っているだけで会話にも一切参加はして来なかった。
YUKI「ではみなさん、鑑定結果をご覧ください。」とYUKIは平らな壁面にみんなのレベルだけを表示させた。
YUKI LV 144
SEI LV 139
TOMO LV 157
IGLEE LV 245
GORRDON LV 201
WILL LV 112
そのレベルは、およそ予想された物に近かったが、みんなは他人のレベルを具体的に目の当たりにして、
まるで高校入試の受験番号を探す受験生のように壁面に映し出された数字を見ていた。
GORRDON「姉さんはさすがじゃの、年の功かのう。」と感心していたが、
IGLEE「年齢の事は言わない約束でしょ。それだけの経験をして来たってだけよ。」と牽制しつつも謙虚な態度だった。
GORRDON「いや、すまんすまん、姉さん、エルフは長命種で見た目は若くて美人だからつい言いたく
なってしまうのじゃて。」とフォローも欠かさなかった。
SEI「やっぱりYUKIさんはすごいなぁ、俺より後から来たのに、もう追い越されてる。後のカラスが先に
なっちゃったってやつだなぁ。」と訳の分からない言い方でYUKIを持ち上げた。
TOMO「YUKIさんがすごいのは分かったけど、私も少しは褒めてよね。」と突っ込みをいれた。
WILL「あのー、最下位の私が言うのも何ですが、作戦を立てるために開示したのであって、決して比べて
優劣を見るためでは無いのかと。。。」といつもの遠慮がちながら勇者たちを嗜めた。
SEI「あ、ごめん。WILLさんの言う通り、作戦を考えましょう。」と学級委員長のごとく話題を修正した。
YUKI「ワイバーンはMAXでもLV106だから、普通に戦っても負ける人は居ないと思う。良かった。でも
数が多いからしっかり連携を取って、気力を持っていかれない様にして戦いましょう。」とSEIが言うべきことを代わりに言っていた。
SEI「そう、YUKIさんの言う通り。連携しっかりと。」勇者はYUKIの発言にまんま乗っかった。
TOMO「じゃ、私は闇魔法 広範囲ギロチンをかけてワイバーンの数を減らすから、WILLさん援護と私の背
後をプリズムライトで攻撃もお願い。」
WILL「分かりました。気力回復魔法で支援します。背後に近づいたワイバーンは光魔導剣のプリズムライ
トで攻撃して撃ち落とします。」とTOMOの提案に疑義無く乗っかった。
SEI「それでいきましょう。あとはYUKIさんとIGLEEさんで背中を預け合って、魔導銃と風魔法で
ワイバーンを360度の敵を撃ち落として下さい。GORRDONさんは、落ちてきたワイバーンたちを
土のつららソイシクルで仕留めて下さい。みなさんそれでよろしいでしょうか。
私は、ボスに近づいて情報を集めます。」
とみんなの同意を得て、リーダーらしく指示出しを完了し、自身は危険な任務に勇者らしく臨むのであった。
ダンジョンをさらにどんどん下っていったが、かなり開けたところに出た。前方上空に黒い霧がどんどんこちらに近づいて来たかと思ったが、それはワイバーンの群れであった。
SEI「よし、キター。全員戦闘態勢について下さい。打ち合わせ通りに頑張りましょう。」
と勇者は全員にハッパをかけて戦闘に突入した。最初に口火を切ったのは、TOMOであった。その大魔法を見るのはみんな初めてだったが、残酷そのものでさすが闇魔法と言われるだけのことはあった。広範囲にギロチンが現れ、どんどんとワイバーンの頭と胴体を切り離していった。とてつもない量の血と死体が転がっていった。YUKIはTOMOの方をあまり見ないようにしていたが、そのギロチンで処理した量がすさまじく、目に入ってしまい、嘔吐した。
IGLEE「YUKIさん大丈夫?」と背後の相棒の手が止まったのを見て状況を察した。
YUKI「あ、はい、あのTOMOさんの攻撃が残酷過ぎて。。。」と嘔吐で気力を削がれてしまって憔悴していた。
IGLEE「これ使って。」と気力回復の霊薬をYUKIに渡した。
YUKI「あー、、、ありがとうございます。」と言って霊薬を使用して気力を回復させた。
IGLEE「それと、風のカーテンを作ってあげるから、あっちは見ないようにして。」と風魔法でTOMO方面の視界を遮断した。
YUKI「何もかもありがとうございます。頑張れます。」と先輩に敬意を表した。
とは言え、GORRDONが地表に落ちてきたワイバーンは漏れなく土のつららソイシクルが刺さっていたので、こっち方面も血の海が広がって来ていた。
みんなが何かがおかしいと気付くまでにそんなに時間がかからなかった。数が一向に減らないのであった。その時、一人でボスを偵察に行っていた。SEIがみんなに聞こえるように大声で叫んだ。
SEI「鬼だー、鬼属だ。魔法陣でワイバーンをどんどん異空間から呼んでいる。」と悲壮感を隠し切れずに
全員にその声は届いた。「鬼をやらないとこの戦闘終わらないぞー。」と続いて大声を出した。
YUKI「分かりましたー。もっとボスに近づいて鑑定かけてみますー。」と大声で返した。
SEI「YUKIさん気を付けて下さいよー。」とまた大声で返って来た。
TOMO「数が多すぎるー。いつまで続くのー。」と愚痴とも取れる内容だったが、その時全員が考えていたことと同じだった。しかし勇者パーティは気力を保持しつつ戦う戦法を取っていたので、まだまだ挫けることは無かった。
YUKIはIGLEEと共に戦闘を続けながら、ボスの居る方へ徐々に近づいて行き、鑑定を試みたが失敗したので、もっともっとボスの方へ近づいた。
SEI「YUKIさんそれ以上は危ないですよー。」と心配する大声が飛んできたが、YUKIたちはもっと近づいた。すると、鬼が目視できる距離まで来たときにやっとYUKIの鑑定が届いて必要な情報を得ることができた。
YUKI「出たわー。鬼LV 198(元魔属幹部)魔法属性 闇 スキル ワイバーン無限償還 って感じー。」と戦闘に必要な情報をピックアップしてみんなに伝えた。
SEI「ありがと、YUKIさん、みんな、もう少し頑張ってー。なんとかするから。」と仲間を鼓舞した。
TOMO「分かったけどーいつまで持つか分からないから早くしてよー。」と魔力も地味に低下してきたのは全員明らかだった。みんなはそれでも無限に湧いてくるワイバーンを倒し続けた。死体の山が本当に山かと思えるほどに積みあがっていたのだが、数は減っていないようで、さすがに全員の主要ステータスがどんどん目減りしていった。
鬼は無尽蔵な魔力を使って、勇者パーティを闇魔法ダークアローで無数の矢を放って攻撃しながら、無限にワイバーンを呼び出していたのだった。勇者パーティは防御しつつの戦闘を余儀なくされた。
SEI「分かった!WILLさん、あの鬼が作っているワイバーンの出てくる魔法陣を光属性の魔導剣で切って
壊して下さい。IGLEEさんとTOMOさんも光属性魔法で鬼を攻撃して、召喚の手を止めさせて下さい。
GORRDONさんとYUKIさんで鬼周辺のワイバーンを仕留めて前三人の動きを邪魔させないで。俺も
鬼を攻撃しますから。」と全員に指示を出した。全員は連携を取って仲間を信じてそれぞれの役割分担を果たすように努めた。みんなこれまでに味わったことのないぎりぎりを体験していた。それでも気力の低下は以前とは違っていて大きく目減りしなかった。この戦闘は成功していた。明らかに鬼を削れているのが分かったが、最後の一押しが足らずに、戦闘は長引いていた。
WILL「SEIさーん、試したい技があるんですが、良いですかー。」と膠着状態をみんなが感じていた時、
大きな声で、SEIを呼んだのはいつもは自分の意見をあまり口に出さないWILLだった。
SEI「何ですかー。」と鬼に拳を打ち込みながら大声で答えた。
WILL「PIET様に教わった、<光魔法 天使の微笑み>をやってみてもいいですかー、。」と何か他のみんなが知らない魔法を口にした。
SEI「分かった、みんなでフォローするから一旦離れてやってみてー。」とSEIは後輩を信じて提案を採用した。
WILLは必死で壊そうとしたが壊れなかった魔法陣から一旦距離を置いて、<光魔法 天使の微笑み>とやらの詠唱を始めた。大司教PIETが教えたこの膠着状態を打開する可能性のある魔法にみんなが期待した。GORRDONとYUKIは、WILLの詠唱を援護すべくWILLを信じて守りに徹した。SEIとIGLEEとTOMOも
WILLを信じて鬼の手を止めるべくを攻撃し続けた。
WILL「光魔法 天使の微笑み、発動しまーーーーす。」と詠唱にかなりの時間がかかったと思わせたが、準備は整い魔法は無事発動した。すると如何であろう、大魔法の光の効果で邪悪な闇属性のワイバーンの無限償還の大魔法陣が打ち消されて消え飛んだ。と同時に鬼の全ステータス値がどんどん下がり弱体化していくのが分かった。
SEI「WILLやりー。」
YUKI「WILLさんやった~。」
TOMO「WILL君いったー。」
IGLEE「WILLさんやりました。」
GORRDON「WILL殿さすがじゃ。」
言葉の表現は違ったが、みんなが心を一つにした瞬間が訪れた。みんなの信じる心がこの大成果を成し遂げたのだった。どんな気力回復魔法よりも強力な力で信じる心は全員の気力を全快させた。WILLは魔力を使い果たして疲労していたが、表情はとても満足そうで達成感に満ち溢れていた。
SEI「とどめだー」
YUKI「まだよー。」
TOMO「私がとどめをー」
IGLEE「まだ油断したらだめー」
GORRDON「取ったー。」
みんなは、既に弱体化していた鬼を、渾身の攻撃を5人同時に当てたので、鬼は断末魔を上げながら跡形もなく消滅した。もう湧いてくるワイバーンは居なかったし、弱体化した残りのワイバーンも簡単に全て退治できた。
初めて真の連携が成功した。真の連携はみんなの信じる心から生まれることを全員が身をもって体験した。勇者パーティはこの戦いを通してお互いを本当の意味で信頼できるようになった。誰も決して口には出さなかったが、今までは一番役立たずなのかと思われてもしょうがなかったWILLの大魔法が勝利への鍵となったことも非常に大きかった。
その顛末を見守っていた同行のギルド職員MIRAGEが戦いの終わった円陣に加わった。
「みなさん、本当によくがんばりました。勇者パーティは全員が信じる心で満たされたことを今確認できました。これでやっと魔王討伐への出発許可の申請を出せます。全ての訓練は以上で終了です。」