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①プロローグ

「YUKI先生、次の患者様お呼びしてもよろしいでしょうか?」

真っ白なナース服に身を包んだ黒縁のメガネをかけた知的美人と呼ぶのがふさわしい看護士が、こちらも真っ白な白衣に身を包んだややふくよかで、いかにも病院の先生といった優しそうで、どこかほんわかしてどこか幼さを残し整った顔立ちの女性ドクターが看護士に頷いて答えていた。

 ドクターの名前は小川幸江。ニックネームは「YUKI」なのでそう呼ばれていたが、患者からはなぜ病院の先生がニックネームを名札にしているのか不思議がられていた。幸江は開業医で上司も存在しないので、誰からも咎められることは無いのである。医者になったのは四捨五入すれば40歳で、医大の同期とは10歳程度離れていたが、本人が実年齢よりかなり若く見えたので特に問題なく学生生活や研修医などをこなして来た。


 ここは大阪の電気街でメイド服やお気に入りのコスプレ衣装に身を包んだかわいらしい女性たちが、店先で通りの通行人、多くはゲームやアニメに傾倒しているだろう人々に声をかけている地域、通称オタロードにある心療内科の病院の診察室である。

 このビルは隣近所とも30センチ以下で隣接し、ひしめき合って立っている8階建ての間口が小さな建物で、ビルの案内板には、「異世界ビルヂング」と書かれていた。ビルのオーナーは余程アニメ好きか何かだろうか。ビルの1階は、《異世界カフェ》という名のコンセプト喫茶らしき店舗、2階と3階は研修室となっていたが、昼間は特に外部からの人の出入りは見られない。4階と5階が「ユキ心療内科医院」で使っており、入院設備完備と書かれていたので、それなりのベッド数を備えているようだ。6階から上は今は使われていないようで、案内板は空白だった。


「どうぞ、高田京子さんお入りください。」幸江は患者を診察室に呼び入れた。年の頃アラウンド20歳の女性だった。目線は幸江の方をしっかりと見ておりパッと見は元気そうにも見えた。

「今日はどうされましたか?」幸江は患者の診察を開始した。

「はい、最近大学に行くのが辛くて、頭痛がするので何かいい薬があればなと思って来ました。先生の病院のことはSNS で評判になってたことを思い出して、もし自分に何かあった時は、この病院って決めてたんで、来てみました。」受け答えははっきりしており、然程の悲壮感は見られなかった。

「そうでしたか。大学では最近何か変わったことがありましたか?」幸江は特に問診を重要と考えているようで、治療方針策定のためにもっと詳しい情報が欲しかった、。

「最近、一般教養が終わってゼミに所属したのですが、教授の指導方針にうまくなじめず、ゼミの先輩や仲間とあまり上手くいかなくて悩んでたら、頭痛が毎日ひどくなって、大学にも行きづらくなってって感じです。」女性は素直にテキパキと受け答えしていた。

 幸江は女性の話を聞きながら、女性の表情やおでこの上あたりをじっくりと見ながら、キーボードをかなりのスピードで打ち必要な情報をカルテに書き込んでいた。そこまで症状は重くなさそうで心配することは無いように見えた。

「なるほど、分かりました。脳内の神経伝達物質セロトニン、ノルアドレナリンなどのバランスが崩れて、感情や意欲のコントロールに影響が出ているようですね。では抗不安薬を処方しておきます。それからこれはあくまでもアドバイスですが、ゼミを選びなおされた方が良いかと。もし一つがダメでも、また別の得意を見つける方がいいこともありますからね。現状に固執せずにいろいろな事にチャレンジしてみましょう。」

 幸江は患者に的確な処方とアドバイスを下し、高田京子さんは感謝を述べながら診察室を後にした。


「どうぞ、山根明子さんお入りください。」幸江は次の患者を診察室に呼び入れた。年の頃アラウンド30歳の大人しそうな女性だった。目線は終始斜め下を見ており自信が無さそうにおどおどしているようだった。

「今日はどうされましたか?」幸江はいつも通りに患者の診察を開始した。

「はい、実は数年前から仕事に行くのが辛くて、食欲も無く、頭痛や吐き気、めまいなどの症状が出てくるようになって、近くの心療内科にお世話になっていたのですが、薬の副作用なのかも知れないのですが、薬を飲んだ時のハイになった時と、薬の効果が切れた時の鬱な気分の差が激しくて、仕事も休む日が多くなってきたのです。最近ではもうあまり外に出ることもできなくなって、一層このまま死んでしまいたいと思うようになっていたのですが、たまたまSNSで私と似たような症状の女性が完治したっていう喜びの動画を見つけたんです。そこには先生の病院のことが書いてあって。優しそうな先生だし、私も思い切って行ってみようかと。」藁にもすがるような眼差しで幸江の方を見ながら、最後の力を振り絞るかのように、まくし立てた。

 幸江は女性の話を聞きながら、女性の表情やおでこの上あたりをじっくりと見ながら、キーボードをかなりのスピードで打ち必要な情報をカルテに書き込んでいた。幸江の診察は主に問診が中心で一台何千万円から何億円もするような脳ドッグで使用するMRIやCTスキャンなどの先端検査装置は置かれていなかったが、幸江の治療方針はまるで何かのデータが見えているかの様に的確な治療を施していた。

「山根さん、苦労しましたね。オランザピンかパロキセチン(躁うつ病の治療薬のこと)の副作用も疑われます。今までよく頑張りましたね。でももう大丈夫ですよ。私も昔同じ病気にかかりましたが、今ではすっかり完治しています。」と優し気な表情で女性に微笑みかけた。

山根明子はどっと泣き崩れた。今まで我慢していたものが一気にダムが崩壊したように崩れて大洪水を起こしていた。幸江はその様子を優しく見守り、ようやく落ち着いた頃に病気の詳細と治療方法を説明し始めた。

「山根さん、これまでの投薬治療では対処療法でしかなく、上がったり下がったりの気力が不安定で、ドーパミンの制御ができずに悪化が長引いてきました。病状の回復には思い切った処置が必要です。単刀直入に言います。あなたはすぐに入院が必要です。2泊か3泊程度で回復させることが出来ます。緊急入院を受け入れて頂けますか。」いつもの優しい表情の幸江が厳しめの表情だったので、その説明にも説得力が感じられたのか、山根明子は「はい、よろしくお願いいたします」と即答した。

「では、奥の部屋で入院の説明を行いますので、このまま看護士と一緒にどうぞ」幸江は看護士にアイコンタクトを送り、患者を委ねた。

 その後診察室の奥の部屋では、看護士が特殊なタブレット機器を使って山根明子さんに「緊急入院」と言われた治療内容についてのインフォームドコンセントを受けていた。

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