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学院の序列

 朝の学院の廊下は、いつもよりざわついていた。


「——研修生の発表がされたぞ」


「やっぱり七星会の家から入ってる……」


「そりゃそうだろ。京都の陰陽師の名門なんだから」


 人だかりができている掲示板の前で、学院の生徒たちがざわめいている。


 紗月は、その隙間を縫うように進み、掲示板を覗き込んだ。


【帝陰学院・京都支部研修生選抜】


——三年生——

蓮華院れんげいん あおい

南條なんじょう 青虎せいこ


——二年生——

大宮おおみや 静香しずか

九重ここのえ 獅子丸ししまる


——一年生——

橘南きつなん 莉乃りの

西園寺さいおんじ しのぶ


 京都支部の研修生に選ばれたのは、各学年ごとの成績上位者。帝陰学院の中でも陰陽師協会の正式な活動に関わる特別な生徒たちだ。


「……さすが莉乃、やっぱり入っとるんやな」


 紗月は掲示板の名前を見て、嬉しそうに声を漏らした。


 莉乃は橘南家の生まれで、紗月とは違い、幼いころから陰陽術の英才教育を受けていた。成績優秀で、学院の教師陣からの評価も高い。


 それに対して、紗月の名前はもちろんなかった。


 そんな時、清雅が紗月や周囲を見回しながら、どこか感慨深げに笑う。


(……これが、あの「モブ」ってやつか……まさか身近に実在していたとは……)


「………」


(たしか、テレビでは「その他大勢A」って説明されてたね……。なるほど、こうして見ると——うん、完全にモブ)


「誰がその他大勢Aや!!」


(おっ、実物のモブに意思はあるのか……! 貴重な発見だね)


「あるわ!! てか、なんでそんな感動してんの!?」


 最近の清雅はすっかりテレビの影響を受けすぎている。紗月は静かにため息を吐いた。


「けど、七星会の人ばっかりだ……」


「七星会の連中は、陰陽師協会と繋がりがあるからな。何かしらの力が働いてるんじゃねぇの?」


「まあでも、実力があるのは確かやし……」


 周囲の生徒たちは、七星会の名家から複数名が選ばれたことについて、揶揄するような言葉を囁きあっていた。


「——ま、当然っちゃ当然やな!」


 人だかりの中心で、獅子丸が得意げに胸を張っていた。周囲の生徒たちに囲まれ、少し誇らしげに鼻を鳴らす。


「俺みたいな優秀な奴が選ばれるのは当然やろ?」


「わー、獅子丸くんすごーい!」


「さすがは京都の獣王やな!」


 彼は生まれながらの「式獅しきし憑き」の陰陽師、戦闘能力では同学年の中でも頭一つ抜けていた。


 しかし、彼が嬉しそうにしている理由はもう一つある。


「……しかも、大宮さんと一緒とか、俺、もしかして運命ちゃう?」


 獅子丸は掲示板に並ぶ 「大宮 静香」 の名前を見て、頬を赤く染めていた。


「いやぁ、大宮さんと一緒に研修生とか、俺、めっちゃ頑張るわ!」


「お前、完全に浮かれてんな……」


「しゃあないやろ! 俺の心はもう決まっとる!」


 そんな獅子丸の視線が、ふと人混みの中の紗月に向けられた。


「……お?」


 目を細めると、獅子丸はニヤリと口角を上げる。


「へぇ〜、同じ七星会の橘家でも、入ってない奴もおるんやなぁ」


 その言葉に、周囲の生徒たちがざわつく。


「たしかに……本家の橘紗月は選ばれてへんのに、分家の莉乃は選ばれとるな……」


「まぁ、しゃあないやろ? 橘紗月って、本家に住んどるだけやろ」


(……うちは本家ちゃう……橘北家の人間や……)


 本来なら、紗月は橘北家の生まれ。だが家は滅び、本家の庇護のもとで生きているに過ぎない。


(……本家って言われても、結局、居候みたいなもんやし……)


 そんな紗月の気持ちを知るはずもなく、獅子丸はさらに調子に乗る。


「陰陽師ってのはな、結局、実力がすべてなんや。家柄が良くたって、力がなけりゃただのゴミやで?」


 その言葉に、周囲の笑いが一層大きくなる。


「ま、実力のない奴はせいぜい学院の掃除でも頑張ってくれや」


 その時——


「——陰陽師ってのは、家に序列でもあんのか?」


 突如、人だかりの中から声が響いた。


「……ん?」


 獅子丸が振り返ると、そこには青山颯の姿があった。


「それとも、ちょっと成績が良いとイキっていいのか?」


 その言葉に、周囲の空気が一気に張り詰める。


「……なんや、アイドル様が何の用や?」


「別に。ただ、陰陽師ってのは、そんなに偉そうにしていい職業なのかと思ってな」


「……ふん、アイドルだか知らんけど、調子乗りおって……!」


「お前こそ、ちょっと選ばれたぐらいで調子に乗ってんじゃねぇのか?」


「……!」


 獅子丸の表情が険しくなる。周囲の生徒たちも、気まずそうに息を飲んだ。


「それに、研修生様なんだろ? それらしい振る舞いってのを覚えたほうがいいんじゃねぇの?」


「はっ、うるせぇ! 外野がデカい口叩いてんじゃねぇ!」


 獅子丸は苛立ちを隠せず、颯を睨みつける。


「……そもそも、お前みたいな一般人が、なんでこんな場所にいんだよ?」


「それ言ったら、お前みたいな小物が研修生になれてるのも謎だけどな」


「なっ……!!?」


「いや、別に陰陽師ってのがどういもんか知らねぇけどさ、お前の態度見てると、ロクなもんじゃなさそうだよな」


「……テメェ!」


 獅子丸は怒りを抑えきれず、一歩前に踏み出す。


「俺とやるか?」


「へぇ、お前って手が出るタイプ? やっぱ実力がすべてってやつ?」


「……!!」


 完全にカッとなった獅子丸は、颯の胸ぐらを掴んだ。


「——やめて」


 人だかりの中から現れたのは、大宮静香だった。


「大宮さん……!」


 途端に、獅子丸の表情が和らぎ、先ほどまでの喧嘩腰の態度が一変する。


「……は、はい! 俺、別にそんなつもりはなかったっす!」


「……そう、ならいいの……」


 静香は一呼吸置いてから、颯の方を向き、深々と頭を下げた。


「昨日の夜は……助けてくれて、ありがとうございました。 」


 その瞬間、周囲がざわめく。


「えっ……?」


「昨日の夜って……まさか、霊障事件に巻き込まれてたんか?」


 生徒たちが興味津々に視線を交わし合う中、颯は明らかに顔色を変えた。


「ま、まさか……昨日の……!?」


 静香が小さく頷くのを見て、颯は一瞬で状況のヤバさを悟る。


「や、やばい……!」


 慌てた颯は、半ば勢いで静香の肩を抱き、そのまま非常階段の隅へと引っ張っていった。


「ちょっ……!? えっ?」


 突然のことに静香が戸惑う中、周囲の女子たちが一斉に黄色い悲鳴を上げる。


「きゃぁぁぁ!!?」


「ちょ、ゼファーの颯様が……!? 何あの展開!!?」


「静香ちゃん羨ましい!! 代わって!!」


 一瞬で異様な空気が広がり、興奮した女子たちがキャーキャーと騒ぎ出す。


 一方、その様子を見ていた獅子丸の顔は、一気に真っ赤になった。


「な、なんやと……!? 大宮さんを連れて行きやがった……!!」


 ぎりっと奥歯を噛み締め、今にも飛びかかりそうな気迫を纏っている。


 そんな騒ぎの中、紗月はただ一人、冷めた目でその様子を眺めていた。


「……なんやの、あの不審者……いや、もう変質者やん……」


 「不審者」だった颯の評価が、紗月の中でしれっと「変質者」に変わっていた。


(……あいつ、絶対なんかやらかしとるやろ……)


 ため息をつきながら、紗月はさっと席につくことにした。


 しばらくして、騒ぎも収まり、他の生徒たちも次々と教室へ入ってくる。


(……アイドルやのに、あんな言い合いに首突っ込むんやな……)


 そんなことをぼんやり考えながら、紗月は席に着いた。

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